英雄、再会。 2

 父親は唾を呑み込むと、両手をゆっくりと上げた。反撃をしないと言う事は観念したのだろう。もしかしたら、組織内で余り力のないないスパイなのかも、しれない。戦闘に未だ慣れていない私は、戦う羽目にならない事にほっとしていた。

 ナイフを握る力が緩んだ、一瞬。父親は口角を上げながら、足で私を蹴り飛ばした。


「痛っ」


 ──やられた…。

 命を握っているとしても、所詮子供である私が鍛えられたスパイにそもそも勝てる訳がないのだった。



 私はお腹を摩りながら、立ち上がった。けど、父親は私が何もしないと見て、裏口から飛び出した。逃げられたっ。と思った矢先。


「離せっ!」

 と、父親が叫んだ。


 外に待機していた諜報機関の者達に取り押さえられていた。「お前を暴行罪で拘束する」、と。

 彼らは私服で巡回する衛兵にもなれる服装に化けていたので、近くを歩く人達は誰も異変を感じなかった。全ては英雄が安心して、帰郷出来るために組まれた、一大国家プロジェクトとも呼べる物である。だから、幼馴染である私も強制的に、巻き込まれる。


 見た感じでは彼らは私が父親を捕まえれると思っていなかったようだった。でないと、彼らが登場したタイミングが良過ぎると言える。最初から近くで監視していないと、出来る技ではない。

 でも、こう言う裏に潜むスパイを見つけるのは、難しいのかもしれない。まぁ…裏のスパイを見つける度に特別料金が支払われるから、いいけど。リスには全てを秘密にしないといけない。知られてしまったら、給料がなくなってしまう…こう言う辺境の地では、大変困る事である。



 そのままお手洗いに行って、汚れを叩いた。ちゃんと、最後まで完璧に行動しないといけないから。

 リスが待つ部屋に行くと、母親がいなかった。衛兵に化けた彼らから、話を聞かれているようだった。何もしないリスだったが、何かを察したようで今日は帰る事となった。少年の家が忙しくなっていたので。


 少年は少し不安そうな眼差しを向けていたけど、リスには元気な顔を見せていた。

「リース兄ちゃん。また、遊びたいな」


 素直な少年の言葉にリスは頷いて、

「約束だね」

 と、言った。



 少年の家で過ごすのが、予定より早くなったので私はリスと楽しいデートの一時を過ごせた。少年には申し訳ないけど、リスはすぐにどこかに行ってしまうので、今日だけは彼を独り占めに出来た。



 後から連絡が寄越された。少年とその母親は完全な白。そして、父親の役をしていたスパイが、完全な黒だった。

 母親と子供を脅迫して、そのスパイはあの家にいた。だから、途中でぼろが出る結果となった。


 支払われた特別料金は、次のデートまで置く事にした。

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