英雄、再会。
広場の噴水でリスと共に待っていると、その子とその家族と思われる人々が遠方から現れた。先頭を歩いていた少年はリスを見ると、嬉しそうに走り出して来た。その可愛らしい姿に人々が癒される。
「リース兄ちゃん! 前はありがとう」
と、少年は言いながらリスに抱き着いた。
「君の大切な物を守る事が出来たのなら、それでいいよ」
と、リスは笑顔で返した。
丁度、追い付いた家族もその景色を眺めていた。父親と思われる男性は不気味な笑みを浮かべていたのを、私は見逃さなかった。見た感じでは、彼もその無意識の内の行動に気付いていないようだった。私は一瞬、驚きながらも平常心を保ち続けた。
隣に立っていた母親が、切り出した。
「では、家に帰りましょうか…リース君」
その言葉で少年はリスを離して、手を引いた。
「一緒に行こうよ、リース兄ちゃん」
「うん。分かったよ」
と、リスは引っ張る少年の後を続いた。
私は少し先を歩く集団を見つめていた。少年はリスにぐいぐい近付いていた。父親は最初から可笑しかった。母親はそんな父親を隠すために、切り出していた。そもそもリスに会いに来るのに、わざわざ家族全員で来るのか? 命を救われた訳ではなく、物を拾ってもらっただけなのに。
最初からリスを英雄と知っていたら、可笑しくない行動だった。
案内された家はどこにでもありそうな、普通の家だった。だけど、子供らしい物が置かれてはいなかった。噴水では落としたのに。家全体が清潔過ぎる気もした。
リスが少年と遊んでいる間、両親がお菓子の準備をしている時に私はお手洗いを借りた。そして、壊れていると言って、大人を呼んだ。来てくれたのは、父親の方だった。一番怪しい人物である。
父親が近付いたのを見ると、ポケットから取り出したナイフを喉に当てた。
「お前はどこの差し金だ? 一秒で答えないと、突き刺すぞ」
と、私は教えられた台詞を怖そうに吐いた。
少女がこのような事をすると考えていなかった父親は、どうにかしようと動き出した。
私は更にナイフを押した。血が一筋垂れる。
「このナイフには毒が付いている。お前が次、動こうとしたら殺す。さぁ。教えろ。お前はどこの差し金だ?」
自分で言っておきながら、怖いと思った。この国の諜報機関は、英雄のためなら私の性格が変わっても気にしないようだ。表のスパイは彼らが処理出来るが、こう近付いて来る者は任されている。
彼ら曰く、相手に考えさせる隙を与えないらしい。常に相手の家に立ち、その命を握っているように言う。このナイフだって実際は強烈な麻酔が塗られている。殺させるのは、教育上悪いので。
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