英雄、お出掛け。

 リスの体調が治ってから、初めてリスと二人でお出掛けをする。デートに私はドキドキしていた。待ち合わせ場所を街の中央に位置する、噴水にするなどセンスが良すぎるとしか言えない。


 早めに着き過ぎて待っていると、遠方からリスが手を振っていた。髪が風に靡く姿はやっぱりかっこいいの一言に尽きる。服装は晴れ渡る空にピッタリだった。そして、普段通りの装備で、剣も吊るしている。英雄の聖剣が。


「おはよう、ティア」

 と、リスが声を掛けた。


「リスもおはよう」

 と、私も中の感情を隠して、返事をした。


 噴水に視線を向けてから、私は聞いた。

「この噴水にリスは先日落ちたの?」


 リスは頭を触りながら、申し訳なさそうに答えた。

「そうなんだ。落ちると予想していなかったから」


 私はじっとリスを見た。その目線を絶対外さないように。


「でしょうね。英雄とも呼ばれるリスが、噴水なんかで転げ落ちていたら、全国民が驚くよ」


 そしたら、大きな笑顔を見せた。

「まぁ。私としてはどっちでもいいよ。だって、何があったとしても私の知っているリス。リース・テールのままだから」


 私の言葉にリスは安心する顔を見せた。ほんとにその顔の良さは、卑怯とも言える。どんな者でもその顔で、倒せそうなほど。


「わざわざ噴水を選んだのも、何か理由があるの?」

 と、私は気になった事を聞いた。


 リスは下を軽く見てから、言った。

「前助けた子の家族がまた後日もお礼をしたいと言っていたから…ティアを誘いたいなって」


「いいけど。……そもそもその噴水での出来事はどう言うきっかけなの?」


「噴水で座っていた子が持っているおもちゃを落としてね。その子の手では届かない距離にあったの。だから、丁度近くにいた僕が声を掛けられた感じ。…何か気になる事あった?」

 と、リスは私を向いた。


 ──丁度近くにいた…ね。

 心底で渦めく気持ちを消し去りながら、私は笑顔で答えた。


「いいや、何でもないよ。ただ、今から行くのだったから、その子と会った深い経緯を知りたかっただけ」


 リスはいつまでもその笑顔を絶やさなければ、いい。その笑顔と力で救われる人々も多い。と言える。だから、私は幼馴染としても、出来る限りリスの近くにいる。


「それはすごく人思いだね。その子もティアと会うのをきっと、楽しみにしていると思う」


 その言葉に私も笑顔を見せた。

 えぇ。そうですね。きっとその子も、その子の家族も、リース・テールと会うのを、待ち望んでいるはずである。

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