英雄、寝込む。

 私はリスに聞いた。

「今日はどうしたの? 熱を出すなど、珍しいでしょ」


 リスは赤い顔のまま、笑い掛けた。病人なら病人らしくすればいいのに。どこまでも相手を気遣うのが、リス。


「ちょっと濡れちゃって…ね」


「えっ。濡れた?」


 私はリスの言葉に疑問が湧いた。今日は雨など降っていない。どこに濡れる要素があるのだろう? 


 リスは小さく頷いた。

「噴水でね」


 私はリスが一人で噴水で燥ぐ姿を想像した。うん…可笑しくはない。あり得る状況だった。昔は、よく遊んでいたし。


「一人で遊んでいた訳?」

 と、私は聞いて見た。


 すると、リスは突然笑い出した。私は自分の事が否定されたようで、気分が悪くなった。


「何よ。何がそんなに面白いと言うの?」


「ごめん…ごめん。そんな答えをされると予想していなかったから。ちょっと面白かったのだ。でも、真面目に答えてくれて、ありがとう」


 リスは私をさりげなくフォローしてから、言葉を続ける。


「丁度、噴水に物を落とした子がいたから、助けて上げたのだ。けど、取りにくくて最終的にびしょ濡れになっちゃった。優しいご両親が、タオルを用意してくれたりしてくれたのに、寒い道を歩いていると風邪を引いたらしい」


 話を聞いていると、改めてリスらしいとしか言えなかった。どこまでも、いつまでも。だからこそ、安心も出来た。


 本当に過労であるのに、更に風邪を引くとは。病人が更に病人になっても何も変わらない。早く治して、療養に専念して欲しい。


 そんな心配する気持ちを隠しながら、私は口を開いた。

「ほんとに何をしているの、リス? もう、しっかり寝て体を休む事」


「…分かったよ、ティア」


 大人しく眠ろうとしてくれるリスを見て、私はほっとした。こう言う時なら、本人も事の重大性を理解してくれている。けど、明日になれば、また普段通りになると、簡単に予想出来る。仕方ない。今は、寝てくれる事を喜ぼうかな。


「おやすみ、リス。いい夢を見てね」


「うん。おやすみ、ティア。ありがとう」


 私はリスが目を閉じたのを確認してから、部屋をまた見回した。この思い出に包まれて、いい夢を見て欲しいと思う。熱に魘されて、目覚めが悪くないように。そして、その風邪がすぐに治るように。また、リスの元気な姿が見えたら、いいなとも思いながら。



 音を立てずに、私はその部屋から去って行った。リスの眠りを邪魔する事がないように。

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