桜の好きな村

ひろおたか

桜の好きな村

「お兄さん、うちの桜ケーキは今さっき開花したばかりの花を使ってるんだ。是非買っていきなよ」「今日は満開の桜日和なんだから、この桜色の人力車で桜巡りなんてどうだ」「このスカーフの桜色いいでしょ。山桜を使って染めたんだ」そんな会話が桜色に染まったこの村の至る所で行われ、観光などで初めて来た者はあまりの活況ぶりに圧倒されている。

 とある研究者も初めてこの村に来たのだが、この活気をひしひしと肌に感じ打ち震えていた。

 この村の住人は桜が大好きなことで有名であった。至る所に様々な種類の桜が植えられているのはもちろん、桜を使った食べ物や飲み物が村中に売られ、村人は桜染がなされた服を着こなし、建物や車も全てが桜色であった。そして桜が満開の今、村中が桜一色となっている。

「予想以上だ」

 研究者はこの村の様子を目の当たりにし、トラックの荷台に積んである「桜」の苗木が必ず売れると確信した。

 研究者は観光に来たわけではなかった。桜好きの村の話を聞いた研究者は、そんなに桜が好きなら年中咲く桜は喜ばれ売れるのではと思いついた。年中咲くと言っても散ることがないというものではなく、桜の散り際も何度も楽しめるように、咲き始め、満開になり、そして散るを毎月繰り返す。そのように品種改良した。そしてこの品種改良した桜を売り、研究費用や生活費の足しにしようと考えていた。

 早速研究者は意気揚々と、村人に声をかけて売り込みを始めた。

  

「予想外だ……」

 研究者は村はずれにある切り株に腰掛け、肩を落としていた。

 村人に売り込んだら喜ばれるどころか、嫌がられた。「バッキャやろー!お前には風流ってもんがねぇのか‼︎」「あんたねぇ、桜というのは一年に一度輝くから私達は魅せられるだよ」「にいちゃんさぁ、毎月花を咲かせられたら桜がかわいそうだよ」などと言われ、散々だった。

 売れずに残った桜の苗木を見て、これからどうしようと研究者は頭を抱えていたところ、肩をポンポンと叩かれた。顔を上げたら、制服を着た身なりの良い年配の男が立っていた。

「村で、年中咲く桜を売っていたのは君かね?」

「そうですけど……あなたは?」

 その男は、村の税務署で署長をしていると言い、村で年中咲く桜の話を聞いて来たとのことだった。そしてトラックにあるすべての桜の苗木を購入すること、まだ他にあるのであればそれらも購入するので持ってきて欲しいと申し出た。

 まさかの申し出に研究者は喜び、すぐに承諾した。しかし村で不評であった年中咲く桜を、その村の税務署署長がなぜ購入するのか疑問に感じたので尋ねたところ、その署長は答えた。

「ここの村人はタチが悪くて、桜が散ったら働く気も散ったと言って誰も働かなくなるんだよ。そのせいで、桜が咲いている時以外はほとんど税収がなくて村の財政は大赤字でね。でもこの桜を村中に植えれば、村人はそんな言い訳もできなくなるのできちんと働き、村の財政も改善するだろう」

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桜の好きな村 ひろおたか @konburi

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