第一話 雨の日

「あちゃー。雨降ってきたか。どうしよ、俺傘持ってきてないよ。」

 

 隣であからさまにがっかりした口調で男子がうなだれる。それ言う必要あるかなぁ。と思いながら私は下駄箱をでて傘を差す。小雨とも霧雨とも似つかないパラパラした雨が傘に当たっては水滴となってしたたり、落ちていく。なんだかんだいって、雨の日は好きだった。みんな暗い気持ちになりがちな雨だけど、春先では色々と重要な役割を果たしてたりするのだ。私の住んでる地域は田舎なので田んぼや畑が通学路に多い。ここら辺は用水路の水を各農家が兼用して使っているので用水路の最後の方に位置する田んぼには水が不足しやすいのだ。そしてなんといっても私が好きなのは雨の匂い。降ってるときのあのしっとりとした匂い。雨が上がった後の空気。私が好きなものの一つだった。そう思っているとパラパラ降っていた雨が急にザーザー降り始めた。洗濯ものを外に干してたら急いで帰るとこだけど、部屋干しにしといてよかった。しかし重い荷物を持った女子高校生に本降りは応えるものがある。通学バックだけじゃ足りないのでもう一つのバッグを背中に背負っているのだ。結構重い。


 少し休憩するかなぁ。学校から自宅までは歩いて三十分ほど。自転車は一人暮らしには少し大きい出費なのでまだ買ってないのだ。ちょうど歩道沿いに屋根付きベンチがあったので休憩することにする。ふぅ。背伸びをして背もたれにもたれかかる。なぜか田舎の通学路には無駄にベンチがある気がする。気のせいだろうか。そんなことを一人で考えていると思わぬ来客がトコトコ歩道を歩いて来た。猫である。

「おおー、お主久しぶりに見たのう、元気じゃったかね?」

 なんか久しぶりに言葉を発したせいか口から出てくるのは時代劇か方言かわからないような言葉だった。考えるときはうまくいくのに。猫は少し濡れた体を身震いさせて水気を払った。それにびっくりしたのは私である。スカートがびしょ濡れになってしまったのだ。あら~この子ったらもう。なんてことしてくれるんでしょう。

「もう駄目だよ?こんな事しちゃ。」

 無理なお願いである。猫はすっきりしたのかトコトコ歩道を歩きどこかへ行ってしまった。わざわざ歩道を歩くあたりあやつできるな。あの猫は時々見る猫で野良猫である。近寄ると遠くにすぐに逃げて行ってしまう為、猫の方から寄ってくるのは珍しい。さてはツンデレだなお主。猫が出て行くのとすれ違うように傘を差して近づいてくる人影がいた。私は動物と話す時でさえ言葉おかしいので、人と挨拶を交わすことなど無理である。私は急いで荷物と傘を持ってベンチを立ち、歩道へ傘を差して出た。


 徐々に雨は止み、私の好きな雨上がりの空に変わった。

虹がかかるその空に私は「良いことがおこりますように。」

と願いながら少し弾んだ足取りで帰り道を歩いた。


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