第40話 ジャージ運命黙示録(3)
四十話 ジャージ運命黙示録(3)
【タワーマンション・ドレミ 住宅棟一階】
日曜日が来た。
ユーシアがアキュハヴァーラに転がり込み、あーだこーだそーだの末に、日曜日の朝を気侭に過ごせるという日常を勝ち取って、初めての日曜日の朝。
「日曜日の朝です、ユーシア」
エリアス・アークが、日朝の到来を告げる。
六時きっかりに起床したユーシアは、秒で身形を整え、リップの起床を待てずにキスして起こそうかと直進して目標15センチ手前で、イリヤの居合斬り(峰打ち)を横っ面に喰らって吹き飛ぶ。
「おはようであります、ユーシア」
「おはよう、イリヤ。良い日曜日だね」
壁で着地を完璧に取りながら、ユーシアは平然と顔を輝かせて挨拶をする。
「そのテンションは怖いであります」
「だって、リップと一緒に日朝のスーパーヒーロータイムを視聴するのは、四年ぶりだよ! 四年ぶり!」
「うるさい」
リップが起きながら、通常のペースでベッドから抜け出す。
「おはよう、ユーシア」
「おはよう、リップ」
「トイレに行って着替えが終わったら、キスしよう。それから朝食」
「は〜い」
リップの方から求めたキスでは止めようがないので、イリヤは無念に涙を呑む。
「くううっ、お嬢様が、日々いやんばかんになるであります」
「毎朝このパターンで、飽きませんか?」
エリアス・アークが、毎朝ぶっ続けで落ち込むイリヤに、真顔で呆れる。
六時半。
ユーシア、リップ、イリヤ、エリアスだけで朝食を摂る。ラフィーは、日曜日は八時まで寝ている派なので、放っておく。
クラブサンドとオニオンサラダを基本に、リップは二食分、イリヤは三食分、ユーシアは五人分を平らげた。
「ようやく五人分で済むようになった」
ユーシアは、爆上がりした食費が下がる目処が付いたので、その方面で安堵する。
「B(バスター)級、S(シュヴァリエ)級を一気に超えて、U(ウルトラ)級の力を得た代償にしては、安いものだ」
食卓の横で、勝手に出現してドリップコーヒーを自分の分だけ淹れて飲むクロウ(バスローブ姿)が、勝手に解説を始める。
「聖剣八本の力を上乗せする結果生じた消費カロリーは、気を付けないと戦闘中に餓死する危険もある。ちゃんと常に満腹にしておくのだぞ、美少年忍者。油断すると、美少年肥満忍者になるが」
リップが、クロウの頭を後ろから掴むと、真横に二百七十度捻った。
「今の、我が人間だったら、即死であろうが?!」
「ちっ。やはり除霊か溶鉱炉しかないか」
「我、味方! とても素敵な、頼れる味方!」
首の形を手で修正しながら、クロウは人畜無害を訴える。
七時十五分。
ユーシアとエリアスは、周囲を巡回しながらリハビリ体操。
リップは、動画配信のコメント欄をチェック。
イリヤは、音を立てずに静かに出来る筋トレ。
クロウは鞘形態に戻り、不貞寝。
八時。
ラフィーが寝巻き姿で起きてきたので、リップが朝食を用意し、イリヤがコーヒーを淹れる。
「おはよう、リップ」
「おはよう、お母さん」
「おはようであります、ラフィー様」
「おはよう、イリヤ」
ダラけて脱力して無防備に、食卓に着く。
ユーシアとエリアスは、気を利かせて自室に戻り、ニチアサのスーパーヒーロータイム視聴の準備に入る。
八時半。
リップが母と水入らずでプリキュアを視聴している間、ユーシアは自室でプリキュアを視聴しながら、SNSで感想を述べてリアタイを誇る。
「ふっふっふ。愉悦。日曜日の朝に、プリキュアをリアルタイム視聴。これぞ愉悦」
「エリアスは知識としてはインストールされていましたが…初めて観ます。ハマりますね」
「過去の全てを置き去りにして、上京した甲斐があった」
万感を込めて嬉し涙を流すユーシアを横に、イリヤが大型テレビ画面を指差して同意を求める。
「あの追加プリキュア候補。シマパンには生涯、縁が無さそうであります」
「今年は四人中、二人がシマパンを穿いていそうなプリキュアだ。俺に不満はない」
ユーシアとイリヤが、劇中のキャラがシマパンを装備しているかどうかで真面目に話を始めたので、エリアスはパニックを起こしかける。
(どうしてそんな事を掘り下げようと!?)
達人への理解が、やや未熟なエリアス・アークだった。
「全員シマパンを穿いていそうなプリキュア作品は、『魔法つかいプリキュア』だけであります」
「反論。はーちゃんは、ノーパンだと見受けた」
「花海ことはの下着は、みらいが用意していたはずであります。ならばシマパンであります」
「いや、すぐに脱ぎ捨ててノーパンでいるのが、はーちゃんのノーマル状態であると、俺のゴーストが囁くエブリデイ」
「下着の習慣は、みらいの徹底した教育で身に付いたはずであります。ノーパンに拘るなど、ユーシアの脳は汚れているであります」
「汚れていても構わない。俺の脳内では、『はーちゃんはノーパン』」
断固たる口調で、ユーシアは言い切った。
エリアスは、二人には距離を置き、ノーコメントを貫いて素直な視線でプリキュアを視聴した。
そして、この二人と一緒にプリキュアを視聴しないリップは賢いと思った。
九時。
リップもユーシアの部屋に入って来る。
一緒に仮面ライダーを視聴している間、リップはユーシアを椅子にして、ゆったりと寛ぐ。
横のイリヤは「それ以上はダメでありますよ〜」という目線をチラチラと送りながら、一緒に視聴する。
視聴しながら、リップは昨日の異世界ウサギ跳びについて質問を始める。
「ねえ、異世界のアキュハヴァーラは、どうだった?」
「魔法が少なくて、電気が多い世界だったよ。大気の汚染が、バカみたいに酷かった。ゴールドスクリーマーに変身していないと、キツい場所」
「じゃあ、行けないのね、あたし」
「大気汚染が当たり前の世界だから、行くと呼吸器官を傷めるだけだよ」
「散々飲み食いして、楽しんだくせに」
「苦しくなるまで食べたのは、初めて」
「なんだか、弱点ばかり増えていくね」
「うん、自分の限界を思い知る日々が続くね」
テレビ画面の中では、仮面ライダーが力の代償に記憶を失くしていくという設定が暴露されている。
主人公が数ヶ月前に行ったばかりの家族旅行を、完全に忘れて家族にドン引きされている。
「ああいう代償でなくて、本当に良かった」
「10%でアレだけ腹ペコになるなら、フルパワーだと一分で戦えなくなるよ、きっと」
「あああああ」
ユーシアが追加戦力のデメリットに悶々としてリップを背中から抱き締めていると、イリヤが別の危険だと勘違いして(そら勘違いする)、峰打ちでユーシアの頭を吹き飛ばす構えを見せる。
「すぐに離れるであります、ユーシア! それ以上は…初夜に! 公式の初夜にするであります!」
「違うよ〜、今のは『新しい変身フォームのデメリット、めんどくさいよう〜〜』のストレスから、リップを抱き締めて精神の均衡を保とうとする、自然現象だよ〜」
「そうよう。『このまま肉体関係を進めて作品を15禁指定にしちまえ、ヒャッホー』なハグじゃないから、気にせずニチアサのスーパーヒーロータイム」
イリヤ「ぐぬぬぬぬぬぬぬ(二人がかりで言い訳ばかりして卑怯であります〜〜〜〜)」
ユーシア「ふっふっふっふ(邪魔だなあ、本当に。シマパン愛好家でなければ、追い出しに掛かるのに)」
リップ「くけけけけけけけ(木村昴の声は最高だなあ)」
九時半。
「仲間は選ばないとな…いや、選べないから、手持ちの駒でやりくりしないと…いや、これ参考にならないだろ」
今年のメガトン級に面白いスーパー戦隊を視聴しながら、ユーシアは自分の仲間と重ねて、何か暗然とする。
「何に不満でありますか? やはり自分以外の非シマパンでありますか?」
イリヤには返答せずに、ユーシアは自軍の戦力を鑑みてしまう。
「安定した回復役が、いないなと思って。レリーは昼間に使い辛いし、カイアンは何時まで一緒にいるか分からないし」
「武鎧で回復する時代に、敢えて回復役を望むとは、贅沢でありますな」
ユーシアはスーパー戦隊をリアタイしながら、リラックス出来ない頭の一部でチームの編成を練る。
「武鎧の潰し合いの果てに、回復役の有無が生死を分けた。保険として、一名は確保しておきたい」
「で、そんなに都合の良いスキルを持った、シマパン美少女が仲間になるとでも?」
「そこまで贅沢は言っていないよ? 性別年齢は問わない」
リップは追求を緩めずに、ユーシアの喉仏を人差し指で突く。
「でも、そういう人材が現れたら、誑し込むつもりだよね?」
「そういう時はね。リップもシマパンを装備すれば、問題は解決」
ユーシアの頬に、リップの爪が垂直に刺さり始める。
ユーシアは、厚くなった面の皮で、リップの嫉妬の焔に耐え切った。
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