第39話 ジャージ運命黙示録(2)

【タワーマンション・ドレミ 住宅棟一階】


 コウガへの旅を守役たちが手配する間に、ユーシアはクロウに身体の支配権を二時間明け渡す準備に入る。

 娯楽街で遊ぶのに、『薄型武鎧を装着したユリアナ・オルクベキ』というビジュアルを改善しないと、余分な騒動が増える。

 ユーシアはゴールドスクリーマーに変身すると、クロウに外見のカスタマイズを行わせる。

「まずは、武鎧の部分を、最小限に抑えよう」

『オーケイ、マイケル』

「おいおいおいおいおいおい」

 薄型武鎧が、マイクロビキニの領域にまで、収縮する。

「ユリアナ姉様。このナイスボディで、彼氏がいないとか、おかしい」

 横で見物するリップが、この姿の元ネタであるユリアナの男関係に言及する。

 その話題には誰も食い付かずに、ラフィーの提供してくれる衣服を見繕う。

「…これだなあ、露出度を抑えて、エロさを中和するには」

『いや、これは別の意味で、トラブルを招きそうな』

 クロウは、ユーシアがスズメバチ色彩のジャージを選ぼうとするので、抗議する。

「自由時間だからって、ナンパはしないだろ? いいじゃん」

『可能な限りお洒落な装いで自由を満喫する自由を阻害するな、ガキ』

「失礼した。どうぞ、好きな服を」

 クロウ(ユーシア)は、露出度が少なめのレモン色のワンピースドレスを選ぶ。

 この作品を読んでいない限り、中身が廃棄聖剣八本に取り憑かれた美少年忍者だとは気付かれずに、金髪碧眼美人にしか見えない装いだ。

「靴はどうするの?」

『自前のサンダルを持参しておる』

 クロウ(ユーシア)は胸部装甲から、ペガサスの意匠を施したサンダルを取り出す。

 ラフィーが目を輝かせて、ガン見する。

「レプリカ、作って販売していい?」

『うむ、作った者は二百年前に死去しているから、問題は発生しない』

「おっしゃああああああああ!!」

 ラフィーのテンションが上がり、ペガサス・サンダルを六十回ほどスクショしまくってから、クロウ(ユーシア)に返す。

「カッコイイけど、機能は?」

『空中停止。空中歩行。あと異世界に散歩できる』

「…そういやあ、二時間の自由時間で何をするのか、全然言わないよな」

『心配するでない。少しパラレルなアキュハヴァーラに転移するだけぞ。二時間きっかりで、リップの尻の下に戻してやろうぞ』

「尻の下には、戻してもらわなくても、常に居るぞ」

『あー、はいはい』

 クロウ(ユーシア)は、室内でサンダルの踵を鳴らすと、ダッシュで何処かへ飛ぶ体勢を取る。

「おい、嫌な予感がする」

『我はそういうフラグを踏み潰して、此処におる』

 リップとラフィーの目前で、クロウ(ユーシア)は異世界にウサギ跳びした。

 エリアス・アークを置き去りにして。

「真剣に、除霊を検討します」

 激おこのエリアスを慰めようと、ラフィーがランチに誘う。



 二時間後きっかり。



 レモン色のワンピースドレスの腹部を大きく膨らましてクロウ(ユーシア)が室内に帰って来たので、リップとラフィーは衝撃で死にかける。

『満腹するまで食べただけである! 心配致すな』

 クロウが変身を解き、ユーシアが元の美少年忍者に戻る。

 腹部の膨らみは、そのままだ。

「胃薬を、お願いしま、うっ」

 ユーシアが、食い過ぎで死にかけている。

 エリアスが慌てて胃薬を手配する。

「そう言えば、我が家には胃薬が無かったわね」

 ラフィーは、健啖家揃いの一家のデメリットに思い至る。

「胃薬って、効くの?」

「さあ? お世話になった事ないし」

 リップの質問に、母は応えられなかった。

「ねえ、駄剣ズ」

『我を呼んだか、べしゃり屋』

「何を食べたら、ユーシアが死にかけるの?」

 リップの目線が、非常にキツい。

 クロウは、とても正直に、二時間で何をしてきたか白状する。

『バーガーキングという名店の存在する世界で、ワッパーを思う存分、食してきた。これこそ、贅沢』

「暫く肉要らない暫く肉要らない暫く肉要らない暫く肉要らない暫く肉要らない暫く肉要らない暫く肉要らない暫く肉要らない暫く肉要らない暫く肉要らない暫く肉要らない暫く肉要らない暫く肉要らない暫く肉要らない暫く肉要らない暫く肉要らない暫く肉要らない暫く肉要らない暫く肉要らない暫く肉要らない」

 ユーシアが、エリアスの持ってきた胃薬を鯨飲しながら、刻まれたばかりのトラウマに震えている。

『胃腸の負担は、ユーシアに押し付けられるしな』

 クロウの傍若無人に、リップがキレる。

 リップは、クロウ排除計画を実行するべく、携帯電話で専門家に注文を出す。

「カイアン、駄剣ズがユーシアをイジメたの。こういう悪霊は、早めに除霊して」

『リップ様。緊急の除霊ですと、料金は30%増しですが、よろしいですか?』

「構わないから、除霊して」

『承りました。拙僧一人ですと、見積もりでは四十八時間で完全に除霊可能です』

「では、始めて」

『六分後に到着次第、除霊を始めます』

 駄剣ズが、ユーシアの身体を折り曲げるように、土下座する。

『お詫び致します。今後二度と、常軌を逸した暴飲暴食でユーシアに負担はかけませんので、何卒ご容赦ください』

 土下座する駄剣ズ(ユーシア)の後頭部を、リップが生足で踏む。

「二度目は警告無しで除霊して、溶鉱炉に沈める。判断基準は、あたし。以後、ユーシアで遊ぶ時は、必ず許可を得るように」

『了承した』

「了解しました、でしょ」

『了解しました』

 そのやり取りを間近で見届けながらエリアス・アークは、踏まれているユーシアが喜んでいる事にウンザリする。

「カイアン、除霊はキャンセル。キャンセル料金は100%払うから、受け取って」

『ご寄付、感謝致します、リップ様』

 そうなるだろうとは予測していたカイアンは、電話を受けてから一歩も動かずに、ご当地映画をホテルで観賞しながら酒盛りをしていた事は、誰も知らない。

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