リチタマ騒動記1 3章 燃えるような赤い薔薇、夢に添えて

第36話 シールメダル

【バッファロービル五階 ユリアナ・オルクベキ所蔵宝物庫】


 十八時に集まった面々は、

ユリアナ(はぐれ皇女。政治家)

フラウ(ユリアナ専用メイド)

ユーシア(変身する美少年忍者)

リップ(美少女芸能人)

イリヤ(リップの守役。コノ国騎士)

エリアス(ユーシアの使い魔)

クロウ(雷系聖剣)

カイアン(アノ国僧兵)

ヴァルバラ(アノ国騎士。リップの守役2号)

サリナ(ユーシアとリップの乳母)だった。

 タウはエイリンに預け、他の階層で呼ばれるまでは戻らないように厳命されている。

 集まり次第、ユリアナは全員を立たせたまま、話を始める。


「これからする話は、この面子と、宝物庫の警備に噛んで聞き耳を立てているシーラ・イリアスだけしか知らない事にする。

 家族・恋人・セフレ、恩人にも師匠にも話すな。

 自宅でサボテンや推しキャラのポスターに話す事も許さん!

 最低でも一ヶ月。

 最長で半年。

 秘密を厳守してもらう。

 これはユリアナさんが、この秘密の危険度を下げるまでの期間と知れ」


 声と表情の厳しさに、誰もボケなかった。


「アノ国の皇室には、野放しにするには危険な宝物を受け継いで管理する義務を、子孫に負わせる伝統がある。ユリアナさんも、ここにある宝物を、そうして任された。最初は、三つ。管理体制が評価されて、今の七つに至る。

 本日、アノ国の祖父からリップへの誕生日祝いと共に、三つの危険な宝物が贈られてきた」


 ユリアナが、三時間前に銀行で受け取ったカバン型金庫を、開けて見せる。

 中にはアサノ帝国の大型金貨がぎっしりと詰まっているが、ユリアナはその中央底に鎮座した赤・青・黄色の三枚のメダルを指差す。


「ユリアナさんは宝物を(レンタル料金目的で)積極的に使わせる方だが、この三枚のメダルは、封印が原則だ。例外は認めない。一枚でも野放しになれば、戦争一回分の損害が出るのは間違いない危険物だ。

 玩具のメダルとは違う。

 この大きさに圧縮して封印した、災厄でしかない」

 

 剣呑な説明を受けて、リップは仏頂面で問い糺す。


「あたし、遠回しに殺されそうなのかな?」

「ユリアナさんも、そいつらを任された時は、そう感じた」


 七つのベッド型封印用ケージの方から、鼻で笑う音が複数、返ってくる。

 人間形態のクロウだけは、言葉で返す。


「最高級のシール(封印)メダルは、破壊不可能だし、半端な攻撃は封印を緩めてしまうだけだろう。封印のみが、正しい対処になる。

 ところで、どのような厄介者たちか、教えて貰えるのか?」

「全て教えるので、正しく恐れてくれ。

 秘密厳守には、それが一番効果的だ」


 イリヤはもう少しで、知りたくないでありますと口走りそうになった。


「青いシールメダルは、『鋼鉄元帥』ハウバウ。

 全ての電子機器を支配下に置ける特技を持っている。これを悪用した場合、その者は全ての戦闘機、軍艦、戦闘車両を支配下に置ける。

 本気で世界征服を狙える戦闘ユニットだ。

 赤いシールメダルは、『吸血卿』アテニル。

 現存する吸血鬼の中で、最も古くから確認されている存在です。悪行が酷過ぎて、同族からも封印を支持されている。

 本気で世界の破滅を行える悪魔だ。

 黄色いシールメダルは、『芳香大神』ニラウス。

 植物を媒介する心理操作で、誰でも洗脳可能。

 一説には、人類の7%は、未だにニラウスによって洗脳されたままだと言われている。

 本気で世界を狂わせている厄介者だ」


 リップが頭を抱え、ヴァルバラとカイアンが顔面蒼白になっている。

 コノ国はアノ国よりも五倍以上治安が良いとされているので、ヴァルバラとカイアンはプチ旅行気分で赴任して来たのである。

 彼らと同じ飛行機で、封印された災厄が三枚も運ばれて来たなど、初耳である。

 ユーシアはリップの左手を握りながら、ユリアナに確認する。


「封印は、指定された皇族が解かない限り、解けませんよね?」

「この封印を解けるのは、祖父かリップだけ。だから、安心していい。毎日、この三枚を気にして鬱になる必要は、全く無い。墓守だよ、実質」

 ユリアナの言い草に、リップは一切気分を解さなかった。

 ユリアナの預かっている宝物は、自我を持ったイロモノキャラばかりで悪用が難しいのに対し、リップに預けられたのは歴史的な災厄ばかりである。

 比較にならない。

「銀行での襲撃も、それのせい?」

 リップのこの問いには、シーラがエリアス経由で応えた。

『単純に、金貨狙い。捕虜に確認済み。シールメダルが在ると知っていたら、逆に襲わなかったかも』

「シールメダルの解放狙いで、誰かが唆した可能性は?」

 カイアンがその可能性に言及すると、ユリアナが即座に否定する。

「ならば既に、ユリアナさんが追撃を喰らっているはずだ。これから来るかもしれぬが、コノ国との連携で迎撃する」

 ユリアナの言に、カイアンは一応安堵する。


「で、その手紙には、なんと?」

 ユーシアは、わざわざカバン型金庫の中に、金貨と混ぜて入れてある手紙の方を、警戒する。

「…まだ、ユリアナさんしか見ていない。読んでいいのはリップだから、その内容を教えるかどうかは、リップが判断を」


 ユリアナが手渡した手紙を、リップは一読する。

 そして、音読での公開を選ぶ。


「かわいいリップ、十歳の誕生日おめでとう。

 金貨を送るのは例年通りだが、今年は義務も贈りたい。

 管理に負担を感じたら、ユリアナに相談の上、返品や移譲の準備を進めなさい。

 ただし、それを行う場合、皇族としての能力が足りないとされ、今まで受けて来たような特典は、消えていくだろう。

 これが現実だ。

 無料で厚遇される皇族など、おらん。

 十歳からは、リップにもちょっぴり、パパりんの負担を背負ってもらう。

 パパりんと絶交して、負担も特典も拒絶する道もある。

 その場合、今までの養育費の八割を返却するように。


 愛する娘へ

 立場上、やや厳しめな父より         


 追記 三枚のシールメダルは、アルディアにだけは、渡すな  」


 リップは手紙をカバン型金庫に仕舞うと、ユリアナに突き返そうとする。


「勝手に皇族扱いされて、ムカついた。アルディアとかいう人に、渡しちゃおう」

「…その場合、敵対と看做されて、払うペナルティは『八割』じゃ済まないと考える」

 ユリアナは、短気&短慮を諌めようとする。

 リップも、アノ国から『敵対勢力』と看做される危険を考えて、不満をぶつける方向性を変える。

「で、アルディアって、誰?」

 リップの強い目力に晒されて、カイアンとヴァルバラは、とぼける道を諦める。

カイアン「陛下の臓器スペア用クローンです。陛下は延命を望みませんでしたので、今は特例として、個人で活動をしています」

ヴァルバラ「皇族としては遇しておりませぬが、陛下の客将扱いで、飼い殺しております。今の所、問題は、起こして、おりません」

 オブラートに包んだヴァルバラの言を、リップは聞き咎める。

リップ「もう一度、あたしの目を直視して、アルディアは問題を起こした事がありませんと言ってみて」


 ヴァルバラ・シンジュは、騎士になった時に主君に虚偽報告をする愚を諦めたのと同様に、リップに対しても言葉を濁すのを放棄する。


ヴァルバラ「刑事罰を受けた事はありませんが、陛下が直々にお仕置きした回数を、二回は目撃しております」

リップ「どの位の力加減で、バカ親父はアルディアをボコったの?」


 ヴァルバラは、言葉に詰まる。

 あの元気な老人の本気を見る程、長生きはしていない。


ヴァルバラ「不心得で迂闊なヴァルバラが、陛下にお仕置きされた時との比較ですが…80%かと」

リップ「ふ〜ん。確かに、余計な物は渡さない方が、いい人そうだね」

 ユーシアは、その人物と戦う場合、クロウの何%が必要かを考えようとして、材料不足なので止めた。

 そして、リップが重大な決断をする。


「あたしは、今更皇族扱いされたくない。これはユリアナ姉様に、移譲します。金貨は半分あげるから、手続きを、お願いします」

「よし、引き受けました」


 ユリアナは、カバン型金庫を受け取ると、緊張を抜く。


「ふ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜。これで、重要な案件は、終わり。解散。

 ユーシアだけ、少し残れ」



 ユーシアにとっては、ここからが本番だった。

 他の者が他階層へ移動を始める中、リップも残ろうとする。

 だからイリヤも残る。

 エリアス・アークは、勿論ユーシアの肩に乗ったまま。そのエリアスを通じて、シーラも聞いている。

 ユリアナは、そういう人間関係を背負い込んだユーシアに対し、簡潔に言い渡す。

「クロウを装備すると、ユリアナさんとユーシアの区別が困難になる。無用の混乱を避ける為に、ゴールドスクリーマーに変身可能な間は、ユリアナさんとユーシアの行動記録を、地元警察と公安に提出する。というか、もうされている」

「…それって、許可を得てから行動記録を提出するのではなく…」

「リアルタイムで、ずっと行動記録を提出し続ける。ユリアナさんが死亡した場合でも、地元警察と公安からの監視は続く。クロウは運用を間違えると、首都機能を破壊してしまう危険な宝物なので、これは受け入れてくれ。装着者が必ず負う制約だ」

 無双可能な聖剣の代償に、プライベートは監視下。

 表情を固くするユーシアを解すように、ユリアナは実状を伝える。

「監視の目的は、『首都機能を破壊するような行為の抑止』です。ユーシアは武鎧の運用にはストイックだから、ユリアナさんは心配していない」

「監視の目的は、それだけですね?」

「そうだとも」

「では、俺とリップが…深い関係になっても、干渉はしてこない?」

 ユリアナは首の骨を鳴らしながら、このエロいクソガキに対しての言葉を選ぶ。

「お互いの合意の上であれば、子作りしたって誰も止める権利はない。

 勝手に好きに、二人で愛し合え」

「…あのう、ユリアナ様に現在、恋人がいないのは、この監視体制が問題という訳ではないのでしょうか?」

 ユリアナはクロウで変身してユーシアに電撃を浴びせるお仕置きを一秒で断念し、返答する。

「会う頻度が少ないだけで、恋人は、いる!」

「失礼しました」

「お前がユリアナさんの事を、モテない残念な無駄美人だと見做していた事は、生涯忘れないからな」

「俺の方は速やかに忘れますので、ユリアナ様も忘れた方が、良いですよ」

「ユリアナさんは、悪い感情が体内でポップコーンのように弾けるのを、楽しめる大人です」

「不健康ですね」

「これが普段通りの、ユリアナさん。気にしなくて、いいの」

「はい、では、普段通りに」

 ユーシアは、平静を保つ。


 ユーシアの脳内で、

(俺、もう忍者じゃないな)

 という淋しい考えと、

(シールメダルと同じ扱いか)

 という厳しい感慨と、

(リップとデート中の行動も監視? うわお。逆に燃える)

 照れる余裕が、存在した。

 リップと繋いでいる手が、自然と緩くなる。

 既にリップ経由でアノ国やラフィーに監視されていると思い直し、平静を保つ。

(監視する組織が、一つ増えただけ。と思おう)

 ユーシアの平静を見届けてから、ユリアナは話を結ぶ。

「ユリアナさんは、既に十五年も監視を受け入れて平気で暮らしている。この偉大さは、見習うがいい」

「はい、自分もそうします」

「では、解散」

 ユリアナの面の皮の厚さは、確かにユーシアとリップの負担を軽くしていた。


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