第35話 「正確には、聖剣同化型武鎧を装備する、美少女戦士」

【バッファロービル二階 メイド喫茶『百舌鳥亭』パーティ&ライブフロア】


 同時刻。

 サラサ・サーティーンは、流したゴールドスクリーマーの動画への反響に、首を傾げていた。

 閲覧数は、過去最大の伸びを見せている。

 高評価も、過去ベスト3に入る勢いだ。

 だが、反響がボヤけて、妙な方向に行っている。

 開店準備で忙しい同僚たちの視線を流しながら、サラサは違和感を突き止めようと、ネットの書き込みを注視する。


【〜とあるネットの片隅で〜】

「おいおい、今日のサラサ・チャンネル、マーベル化が酷いぞ」

「ヒーロー着地を素でやったよね?」

「揺れたな」

「ミニスカの魔法少女スタイルの方が、良いよね、やはり」

「ぴっちりスーツ型だと、パンチラのロマンが無いものね」

「小童どもめ。ナイスボディの薄型武鎧ぞ? 世界国宝だ」

「あれ、ユリアナ様じゃね?」

「別人だろ」

「あれから十五年も経っているし」

「え? ユリアナ様が魔法少女だったのって、そんなに前?」

「正確には、聖剣同化型武鎧を装備する、美少女戦士」

「細かい!!」

「そんな武鎧が在るの?」

「ウルトラレア物か」

「昔はコミケで、ユリアナ様の同人誌を買い漁ったなあ…」

「そして、お世話になった」

「今夜、世話になろう」

「もう十五年前か」

「ゴールデン・ユリアナ様が爆誕したのは、十五年前か」

「十五年前連呼、やめて、心臓が」

「アニメ化が立ち消えになってから、もう十年か」

「あの顔は二次装甲だから、中身はユリアナ様とは限らない」

「おお、二代目なら、辻褄が合う」

「中身は美少年忍者って情報、ソースは?」

「はああ!????」

「夢も希望も破壊するなよ」

「戦死して空に舞っていたのに?」

「死んでねえよ」

「あのダメージで?」

「詐欺だ」

「くっ、あの巨乳が飾りとか」

「あの巨乳は、ウェポン・ラックだよ」

「すると、揉むと爆発?」

「夢と希望を破壊して楽しいのか?!」

「楽しい!!」

「決闘だ、ばかやtロー」

「誤字が(笑)」

「噛んだ(笑)」

「リップが、ゴールドスクリーマーと命名しとるぜよ?」

「? 本当だ」

「リップ、平気そうだね」

「恋人、存命?」

「死んでいたら、こんな投稿していないだろ」

「ゴールドスクリーマー?」

「確かに、めっちゃ叫んで飛んで行ったな」

「投降勧告も、煩いし」

「騒音被害で起訴されるレベル」

「投降勧告の声、完全に美少年忍者と一致(データ併記)」

「あ、うわっ」

「マジで同一人物だ」

「女装平気だものなあ、ユーシア」

「だが、それはそれで」

「問題はない」

「良い戦闘ユニットだ」


 サラサは、一度スレの閲覧を止めて、整理する。

(聖剣同化型武鎧の存在を知っている? 明かしていないだろ、ユリアナ様が使っていた頃は。バレたとしたら、今日、ユーシアが都会の屋上で変身したからだ。逆算して推測? いや、そうだとしても、食い付き方と断言の仕方が、おかしい。

 まるで…経験者)

 サラサは、「正確には、聖剣同化型武鎧を装備する、美少女戦士」という書き込みをした人物の特定を図る。

 実はユリアナの書き込みというオチだと話は楽だったのに、海外のサーバーを複数経由した、匿名の利用者だった。

 サラサが手繰ろうとすれば、難なく姿を眩ますだろう。

(ユリアナ様にだけ、話しておくか)

 不確定ながら無視できない要因に、サラサがシリアスになっている隙に、ネットの書き込みは他所の方向へと流れていく。


「で、結局、ユーシアの事は、これからゴールドスクリーマーと呼べばいいの?」

「ゴールデン・ユーシア?」

「いや、滅多に変身しないだろう。ユリアナ様と勘違いされるし」

「つーか、ユーシアのフォームチェンジ、多くね?」

「日に何度も変装して、アキュハヴァーラを巡回するし」

「俺は『佐助』呼びしたい」

「通だね」

「ユーシアだって、いつまでも美少年忍者じゃないだろ」

「呼び名が複数になるのも、有名人らしいのでは?」

「覚えるのが面倒だから、看板になる名前だけ知りたい」

「何だろうな」

「本当に暇だな、我々は」

「ふむ、暇が民草の本分か」

「では名付けておこう。新しいヒーローに。名付けておこう、敵に回るかもしれない者に。

 アキュハヴァーラのイージス忍者と」

「なんかラスボス口調の人いるけど、大丈夫?」

「おかあさーん、ラスボスっぽい人がいるよ〜?」

「ダメよ、視線を合わせちゃいけません!」



 サラサは珍しく、真面目な顔のまま、パソコン機材を仕舞った。



 ある時は、生身の美少年忍者。

 ある時は、女装した神出鬼没の忍者。

 ある時は、武鎧『佐助』を装備した漆黒の忍者。

 ある時は、雷系聖剣クロウで変身したゴールドスクリーマー。

 姿と戦闘力のバリエーションをコロコロと変えていくユーシア・アイオライトに対し、アキュハヴァーラの人々は個別に呼び分けるのを面倒に感じ、統一したヒーロー名で呼ぶようになる。


 アキュハヴァーラのイージス忍者、と。


 名付け親の名をサラサが知るのは、もう少し後になる。

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