第27話 アキュハヴァーラのイージス忍者(6)

【スリーポイント銀行 アキュハヴァーラ支店 屋上 ヘリ発着場 上空】


 ユリアナがラスター号に乗り込み、カルタ・ベルナに緊急発進を命じて離陸した五秒後に、屋上がひび割れて、ユーシアの装備する『佐助』の頭部が、屋上に顔を出した。

 続く爆発に押されて、ユーシアの全身が、屋上より上空に舞い上がる。

 ユーシアの腰に張り付いたエリアスがシールド魔法を張り続けているが、それでも武鎧『佐助』は、頭部以外、ほぼ大破している。

 猛攻撃を受ける間、ユーシアはエリアスと頭部だけは、守り抜いていた。

 それ以外は、守りきれなかった。

 受け身も取れずに、ユーシアは屋上に落下した。

 そこに転がっているのは、黒夜叉隊を圧倒した美少年忍者ではなく、全身に膨大なダメージを受けて生死の境を彷徨う、死にかけの子供だ。

 僅かに身体に張り付いた武鎧『佐助』の破片は、出血を少し抑える程度の回復能力しか発揮していない。

 呼吸は不規則に浅く雑音だらけで、心音も微弱。

 意識は既に無く、脳は大破した各箇所の悲惨な情報を受け止めきれずに、走馬灯を観ながら残された時間を潰し始めた。

 エリアスも身体を半分以上損壊しているが、ユーシアの命を取り戻そうと、最終手段に手を出す。

「お母さん助けて! お父さんが! 助けて!」

 エリアスがシーラ・イリアスに助けを求めると、空間を丸く切り裂いて、シーラ・イリアスが登場する。

 ユーシアのズタボロの姿を見ると、固い形相で魔杖トワイライトをユーシアに充てがう。

「ユーシアの治療を最優先。私は、ステゴロしてくるわ」

 シーラ・イリアスは光輪を幾重にも身に纏わせながら、屋上の亀裂の中へと降りていく。

 魔杖トワイライトは、怖くて「魔法使いがステゴロですか?」というツッコミを入れられずに、ユーシアの救命治療に専念する。

「レリーが来るまで、止血と輸血に専念します。痛み止めは、期待しないように」

 魔杖トワイライトは身体の一部をユーシアに上書きするように重ねて、出血を塞いでいく。

 同時に、シーラが亜空間に私有する輸血用呪刻血液を、ユーシアに輸血する。

「一時的に魔法が使えるかもしれませんが、貴方は一時的な力には、興味がないでしょうね」

 治療を進めながら魔杖トワイライトは、ユーシアの首にしがみ付いたエリアスが、回復魔法を使用し続ける為に、限界を超えて働いているので声を掛ける。

「エリアス・アーク。もう休んでいいですよ。ユーシアは、死にはしませんから。痛みにも強いし」

 死んだらシーラ・イリアスが無理にでも転生させるだろうなとか、輸血用呪刻血液のお陰で転生もし易いとか、不安にさせるような情報は与えない。

「やだ。ずっと、起きている」

 エリアスは安堵した訳ではないのだが、限界を自覚した途端、スリープモードに入る。

 光の蝶は、ユーシアの血で汚れた首筋に留まり、翅を休める。

 走馬灯を見ている最中のユーシアの唇が、僅かに開く。

 聞くつもりはなかったのだが、魔杖トワイライトは、その言葉を耳に入れてしまった。

「…シマパン…」

「大丈夫そうですね」


 床下では、光輪と爆発の激突が爆ぜり、スリーポイント銀行アキュハヴァーラ支店が派手に振動し始める。

 



【アキュハヴァーラ上空 ラスター号機内】


 ユリアナは帰路に就きながら、その屋上にシーラ・イリアスが出現したので安堵する。

「ユリアナさんの命令を、適当にこなそうとした教訓は、今後に活かせそうだね」

 冷や汗を拭きつつ楽観するユリアナに、カルタ・ベルナは釘を刺す。

「敵は一人しか無力化されていません。シーラ単独では、危ない」

「これはユーシアの仕事だ。ユーシアにケリをつけさせる」

「はい?!」

「死にかけていようと、甘やかしはしない。回復次第、最後まで戦わせる」

「ユリッ!!!?」

「そういう契約だ。ユリアナさんは、契約を守らせなかった事など、一度も無い」

 あんな目に遭ったばかりのユーシアを、なおも戦わせようとするユリアナに、カルタ・ベルナはこの仕事に就いて初めて、この主人を機体から落としたくなった。

「帰ったら、クロウを持って引き返す。一日繰り上げで、変身ヒーローへの階段を登らせよう。瀕死の重傷も治るから、一石二鳥」

 その言葉に反応して、バッファロービルから返信が入る。


レリー『もう用意してあります! わたしも地獄へ連れてって! そして地獄ボーナスを!』

クロウ『日程を繰り上げると分かっていたら、昨日は酒を飲まなかったのに。本気で作者が書いた「あらすじ」を無視する気か? まあ、いいけど』

サラサ『サラサの立ち会い抜きで、よくも戦争を始めたな。同行させなかったら、起訴してやる。最高裁まで争うぞ』

サリナ『行くのはクロウとレリーだけ。機体を重くするな』


「ユリ、愛しているよ」

 カルタ・ベルナは、ユリアナを見直して、操縦しながら足にキスをする。

 ラスター号の翼が、アニメイトの看板を擦る。

「前見て、前」

 ユーシアが想定以上に皆に心配されているので、ユリアナは少し不機嫌になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る