第16話 幼女と一触即発?
―――32階層
人間相手にもスキルが使用できる事を思い返しながら、オーガを屠る。
多数を相手にするのも随分と慣れた。まぁルシファーの「光焔」のおかげというのも大きい。これだけ視界が良好なら、相手の動きが手にとるようにわかる。
「ルーク様。何度見てもお美しいです!」
「ルシファーの『光焔』もとっても綺麗だよね?」
「……ルーク様の『火玉洗濯』の方がはるかに上位ですよ? 下位互換が『光焔』だと認識して頂いて大丈夫です。……ルーク様の戦闘を見るたびに、自分がいかに傲慢だったか思い知ります……」
「ハハハ! ルシファーは俺なんかより、よっぽど強いでしょ?」
「そんな事あり得ません!! ルーク様に勝てる生物など、この世に存在するはずがないんです!! ルーク様はもっと自分の力を自覚すべきです!!」
金色の瞳には憧憬が滲んでいる。ルシファーの過大評価は相当な物だな……と苦笑すると、ルシファーは頬を膨らませる。
「……先程、痛感しましたが、ルーク様は私がどれだけルーク様の事を想っているか、わかってくれません……」
「ルシファー? 小さくてよく聞こえないよ?」
「い、いえ! 何でもありません!! どうせルーク様は信じてくれません!!」
ルシファーは唇を尖らせ、「むぅ〜」と俺から視線を外す。出会った頃に比べて、随分と感情表現が豊かになったルシファーに頬を緩めながら、何だか気を許してくれたようで嬉しくなってくる。
ルシファーの頭をポンッポンッと手を置き、
「ふふっ。ルシファーは怒ってても可愛いね? ちゃんと聞いてなくてごめんね?」
と言うとルシファーの顔がボンッと真っ赤になる。
「もぅ……全然わかってないです……!」
俺が何をわかってないのかはわからないが、ルシファーは嬉しそうにしながらも未だ口を尖らせた。俺はそんな可愛いルシファーにただただ笑みを溢すだけだ。
時計などもカイル達に持っていかれたので、時間の経過が全くわからない。でも、なんだかずぅーっと長い間ルシファーと一緒に過ごしている感覚がある。
まだ出会って間もないのは確実だが、この薄暗いダンジョン内で長年、苦楽を共にした仲間のような感覚だ。
「疲労」や「眠気」を『洗濯』しながら、騙し騙し地上を目指しているが、いくら肉体を誤魔化した所で「何日経ったんだ?」という精神的な疲労までは『洗濯』出来ない。
だが、垂れ流されている脳内のアドレナリンはルシファーのおかげであるのはわかる。どんな事でも綺麗な屈託のない笑顔で「流石です!」と輝かせる金色の瞳にはそれだけの魔法がある。
(本当に『天使様』だ……)
なんて考えながら足を進める。
「そういえば、先程の愚か者達の中に、『厄介な者』が紛れていましたね?」
「『厄介な者』?? 『紛れてた』?」
「もう『来ます』よ? 何を企んでいるのやら……」
「来る? ……何が?」
俺が困惑していると、先程通った道からタッタッタっとこちらに向かって駆けてくる音が聞こえる。「ん?」と目を凝らしながら、一応戦闘態勢に入るがルシファーが何も言わないので、おそらく敵ではないのだろう……なんて安易に構えた。
「おぉーい!! そこのお兄さん!! お姉さん!」
走って来ているのは明らかに子供だ。確かさっきの「火剣」パーティーのサポーターをしていた子だと言うのがわかる。
(報復……? いや、『奴隷』と言われていたし、そんなに義理があるようには思えない……)
子供は止まる事なく走ってくる。フードを被っているため性別すらわからないが、ダンジョンに潜っている事を考えれば男の子である可能性が高いだろう。
「さて……この『娘』は何しに来たんだか……?」
ルシファーはかなり警戒しているようにじっと子供を見つめている。(ん? 娘……?)と俺が困惑していると、10メートル程離れたところで幼女? は立ち止まった。
「お兄さん……。お姉さんが怖いよ……」
「それ以上、ルーク様に近づくではない!!」
ルシファーは『光焔』を手のひらに置き、いつでも戦闘できる体制を整えている。
(えっ? この幼女、敵なの?!)
俺も一応、注意して観察するが、フードの中から赤い髪がチラリと見えるだけで、本当にただの子供にしか見えない……。動く気配も、魔法を発動させる気配も何もない……。
(えっとー……これはどう言う状況なのかな? ルシファーがこんなに警戒してるなら、かなりの強者なのかもしれないけど……)
心の中で呟きながら、ルシファーに声をかける。
「ルシファー? そろそろ説明してくれる?」
「ルーク様。この娘は、」
「お姉さーーん!! 言っちゃダメだよー!! 消しちゃうぞー!?」
幼女は無邪気に声をあげる。理由なんかどうでもいいが、先程の発言は聞き流せない物だ。些細な言葉だが、確実に俺の琴線に触れる。
(ルシファーを消すなど俺が絶対に許さない……)
「ふざけるなよ……?」
俺の小さな呟きは誰の耳にも届いていないようだ。もう見た目に左右されない。ルシファーを……俺の命の恩人を傷つける事は絶対にさせない。
「……やれるものならやってみろ!」
ルシファーは『光焔』を放とうとし、手を上にあげるが俺はルシファーの前に出る。
ルシファーの瞳の色を確認する。
「ルシファー。お前は戦闘禁止な?」
「ル、ルーク様?? なぜです?」
「また目の色が変わってる。あんまり心配させないでくれ……。ここで堕天使になっちゃったら、どうなるかわからないだろ? 俺はルシファーが居なくなったらすごく寂しいからな……」
ルシファーはグッと唇を噛み、頬を染めたかと思うと、瞳の色が漆黒から金色に戻る。
「俺に任しときな? 一対一なら俺は多分、『最強』だろ?」
「一対一でなくとも『最強』です!!」
ルシファーは少し拗ねたように大声をあげる。俺は「ハハッ」と笑いながら頭を撫で、ふざけた発言をした幼女と向き合う。
「今の発言はちょっとムカついたな……」
「……これは……どうしよう……?」
幼女の呟きは俺の耳には届かなかった。
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