第15話 カイル一行の異変 ②
―――25階層
28階層から出立したカイル達の後には4つのパーティーが連なっていた。
カイル達の力を見てみたい。
楽に地上に帰りたい。
そんな思惑が目に見えているが、カイル達にそれを気にする余裕はなかった。
「なんで、こんなに魔物が居やがるんだ!!」
「クソが! 魔力をかなり消耗してる。アン! さっさと治癒しろ!」
「私だって魔力が……はぁ、はぁ、」
3人の言葉に悪態を吐く暇もなく、カイルは魔物を斬り続ける。
(明らかにおかしい……。こんな事は今まで一度もなかったぞ?)
カイルもかなり困惑する。これまで見た事のないオークソルジャーの群れに苦戦を強いられているのだから、それは当たり前だ。
「……『二刀流』って大した事なくないか?」
「もっと強いのかと思ってたぜ……」
「オークソルジャーって、『B』だろ……?」
他の冒険者は各々、思った事を口に出す。
「『双剣連撃』!!」
カイルはスキルを発動させる。腕をゆら〜と脱力し、頭の中を空っぽにさせる。
(あとは身体が勝手に……)
オークソルジャーが四方から取り囲みカイルに襲いかかるが、肉片となってダンジョン内に飛び散っていく。
残っている8匹も即座に切り倒し、一掃する。
「おぉー!! 流石!」
「はじめは調子悪かったのか?」
「『二刀流』は派手だなぁー!!」
周囲からの歓声を浴びながらもカイルは眉間に皺を寄せ、何がどうなっているのかを思案する。
(こんなザコ共にスキルを使うハメになるとは……。何でこんなに数が多い? オークソルジャーは多くても5匹くらいの群れのはずだろ?)
心の中で思考を進めていると、同じように困惑しているアラン、ジャック、アンの姿が目に入る。
「おい、どうなってる!?」
「わ、わからねぇよ。なんだよ、この量は……」
「お、おかしいぜ! 魔力の消費も半端じゃない!」
「はぁ、はぁ。1日で何が起きたのよ……?」
焦った様子の3人に苛立ちが募る。
「お前ら、なに手を抜いてやがる!! 二日酔いなんて理由じゃ説明つかねぇぞ? クソが!」
「何言ってんだよ……? 俺はいつも通りやってる! お前こそ、さっさとスキル使えばよかっただろ?」
アランは負傷した腕に顔を歪めながら、鎧を捨てて来た事を後悔する。
「ま、まぁ落ち着こうぜ!! 水でも飲んでリフレッシュだ! 一度、休憩したら大丈夫だろ?」
「そうね……。少し休憩しましょう……」
ジャックとアンは疲れ切ったようにその場に座り込む。未だ釈然としないカイルは、苛立ちを抑えながらも冷静にこの原因を探る。
(クソが……。何が違う? 体調は大丈夫だ。酒は抜けてる。鎧を装備してない事か? いや、スピードはいつもより早くなってる。ルークが居ない事か? バカか。しっかり試してみた。……何だ?)
「すげぇな。『二刀流』!! 最初は何かあったのか? 苦戦してるように見えたけど?」
付いてきていた冒険者の1人がカイルに話しかける。カイルはいまそれどころではない! とギリッと睨みながらある事に気づく。
(……コイツらか……?)
4つのパーティー。計17人程度の冒険者達を見ながら一つの結論を出す。
たくさんの人間に反応して、これだけの魔物が出てるんじゃないのか……? 他に説明なんてできない。鎧がない事が魔物を引き寄せる原因とは思えないし、『無能』がいない事が原因なら、28階層まで上がっている時も魔物に囲まれてるはずだ。
確かに少し多かった気もするが、こんなにたくさんの魔物に囲まれる事などなかった。
(そうか……。コイツらのせいか……)
カイルは結論が出た事に頬を緩め、こんな仕打ちに合わせた4つのパーティーの連中に憤怒が沸く。
「テメェらのせいだな……?」
「え? 何がだよ? 俺達は見てただけだろ?」
話しかけて来た男は明らかに怒っているカイルに後退りする。
「うるせぇ。テメェらのせいだ!」
カイルは何の躊躇もなく、男の首をはねた。首がゴロッと地面に着くと同時に、悲鳴があがる。
「な、何してんだよー!!?」
「ふざけるなぁー!!」
「クソぉーー!!」
「アイツが何したってんだよー!!」
おそらく斬り殺された男の仲間たちが、カイルに向かってスキルや魔法を発動させるが、
「『双剣連撃』……」
スキルを発動させたカイルはタンッと地面を蹴り、超加速し、その4人を斬り捨てる。
それを見て悲鳴を上げながら、逃げ出そうとする2つのパーティーも同様に、血走った瞳で次々と斬り殺した。
最後のパーティーは腰を抜かし、
「な、なんだよ? ……邪魔してねぇだろ?」
「……ネジが飛んでる……。こ、殺される……」
「た、助けてくれ……。誰にも言わねぇから」
と、戦意喪失し涙を流し、すぐ目前にある「死」に恐怖した。
カイルはゆっくりと剣を振り上げる。
「何やってんだよ! カイル!!」
アランが大声を上げるが、カイルはさらに声を荒げる。
「うるせぇ!! コイツらのせいで、こんなに魔物が寄ってくるんだよ!! それ以外に理由なんてねぇだろ!」
「……そ、そうだったのか……!? チッ! おかしいと思ったぜ!! Bランクのザコ冒険者のせいで、こんな事になってんのかよ!! ふざけやがって!! カイル! 俺にもやらせろよ!」
アランは鼻息を荒くしながらカイルの方に歩いて来ている。残った冒険者は、何のことかわからず、ただこの状況に「死」を覚悟しながらも、カイルに声をかける。
「た、助けてくれ……」
「無理だな……。お前らのせいで俺がオークソルジャーなんてザコにスキルを使っちまったんだ……」
「なっ……。群れなんだから、スキルは使うだろ? 俺達が何したって言うんだよ……?」
「オメェらが付いてくるから魔物がこんなにも寄ってくるんだよ……」
「な、何言ってんだよ……? オークソルジャーはいつもこれくらいの群れだろ……?」
「そんなわけねぇだろ!! 嘘ついてんじゃねぇ!!」
「う、嘘じゃねぇよ! あ、あれくらい普通だろ?」
カイルは(どう言うことだ……?)ともう一度思考を再開させる。この危機的状況で、この男が嘘をついているとは思えない。
(他に理由でもあんのか……? ……何が……)
「テメェらのせいで腕に傷がついたじゃねぇか!! 死ねやー!!」
アランはそう叫びながら、斧を振るう。
死体の山の中で、確信に近い異変に気づいたのはジャックとアンだった。
【ダンジョンで飲む水は格別で、疲れなども吹き飛び、身体に染み渡る】
この『二刀流』のパーティーでの「普通」の常識のはずなのにも関わらず、今飲んでいる水は何の変哲もない、ただの水だ。
ジーンと身体の底に沈んでこない。
「な、なぁ……。水がおかしいぞ……?」
ジャックの声は震えている。アンの顔色も悪い。
「何言ってやがる? いまそれどころじゃねぇんだ!」
カイルはジャックに声を荒げる。
「カ、カイル!! 水が……。アイツの作った『水』って……」
「水はただの水だろうが!! 喉が乾いてりゃどんな水だって美味く感じるんだよ!!」
「ち、違うんだ……。アイツって……。ルークって……」
ジャックはうわ言のように呟く。
(しっかり確かめただろうが!! アイツに特殊な能力はねぇんだよ……。あれ? そう言えば『水』はアイツに準備させたな……)
カイルはアンが持っていた水を奪い、一気に飲み干した。
いつも感じていた、五臓六腑に染み渡り、「生き返る」感覚が全く感じられない……。
「……何が、どうなってんだ……? まさか……ルークか……?」
カイルは小さく呟くが、それは誰の耳にも届かず、薄暗いダンジョンに飲み込まれて消えた。
『二刀流』パーティーの失墜は始まったばかり……。「大量の魔物」と「ルークの水」は、これから待ち受ける序章でしかなかった。
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