第9話 カイル一行の休息
――28階層 「ロアの宿」
カイル達は30階層主オークロードに少しの苦戦を強いられたが、問題なく28階層に到着し、ダンジョン内に展開されている「カタル」の街に入り、1番の高級宿「ロアの宿」の扉を潜った。
魔石をふんだんに利用した煌びやかな内装はカタルの街でも一際目立っており、煌々と光を放っている。
女、食事、殺人、全ての「欲」の解放が許されている治外法権のダンジョン内にて、道徳的で紳士な対応がその冒険者の格を決める事など一切なく、ここでは『力』こそが正義だ。
要するに、冒険者ランクで全てが決まると言っても過言ではない。
「ロアの宿」の受付に、45階層主サイクロプスの巨大な魔石をドスンッと置けば、皆がゴクリと息を飲むのは必然だ。
「『二刀流』だ……」
「何だあの魔石の大きさは……」
「もしかして……」
ざわつく店内にアランは大声をあげる。
「コイツは45階層主の魔石だぜ!! これが何を意味するかわかるか!!??」
嬉々とした表情でパーティーの『力』を誇示するアラン。単純だが、その効果は計り知れない。
「マジかよ……」
「やりやがった……」
「ってことは……」
さらにざわつく店内にカイルは薄く笑みを浮かべた。
「『最短記録樹立』だ……」
客の中の1人がボソッと呟いたのを皮切りに歓声があがる。
「すげぇぜ!! 『二刀流』がやりやがった!!」
「3年かよ!! 化け物みてぇな強さだ!!」
「うぉおおおおお!! すげぇ!! 何てパーティーだ!!」
「最短記録でSランクだ!!」
歓声が歓声を呼び、カタルの街に噂が駆け巡る。
(クククッ。もっと崇めろ! 俺は『最強』だ……)
カイルはその様子に気分を良くする。『荷物』を捨て、更なる高みが待っているはずだ。
「『二刀流』の皆様、大変おめでとうございます。この店1番の部屋へお通しさせて頂きます」
「ロアの宿」の宿主。元Sランク冒険者である『狐人のロアナ』が丁寧に頭を下げる。このような場所で宿屋を営むにはそれ相応の「力」は必須であり、ロアナの実力の高さは周知のものだ。
「あぁ。最高の飯に酒を頼む」
「あっ! ロアちゃん! 女の子もね?」
「ジャック! ほどほどにしなさいよ!」
ロアナはクスッと笑い、「承知しました」と頭を下げ、「ん?」と少し目を見開いてから口を開いた。
「……4名様ですか?」
「あぁ」
「承知しました……」
カイルの短い返事にロアナは眉一つ動かす事なく、準備を進める。
案内された部屋は広々としており、飾られている物も一級品ばかりだ。
「見たかよ? さっきのザコ冒険者共の顔!」
「やっぱりSランクともなるとみんなの見る目が変わるな! みんなビビってやんの!」
「ふふっ。こんな所で満足しちゃダメよ! ねぇ、カイル!」
「ああ。ここからはあの無能が足を引っ張る事もねぇだろ……。すぐにSSSまで駆け上って、あとは『夢の果て』を手に入れるだけだ」
「まぁ今日くらいは羽伸ばそうぜ!!」
「そうだよ! 3年でSランクなんて、聞いたこともねぇんだし」
アランとジャックの言葉にカイルは笑いながら、心の中で舌打ちをし、
(この無能共が、コイツらも足手纏いのくせに……。ギルドで正式に昇格したら、もう用済みだ)
などと蔑んだが、確かに今日くらいは羽目を外してもいいだろうと息を吐き、久しぶりにアンでも抱くか……とカイルはニヤリと口元を緩めた。
風呂で魔物の血や汗を洗い流し、次々と運ばれて来る料理に舌鼓する。美女達に囲まれ、美酒に酔いしれる。
(これが冒険者の醍醐味だぜ? ルーク)
いつも綺麗事を並べ、自分達に倫理や道徳について口うるさく言っていたルークに、カイルは心の中で吐き捨てた。やかましいハエがいない事が嬉しくて仕方ない。
すり寄ってくる美女達。豪華な食事。美味い酒。
「完璧だ……」
カイルは誰にも聞こえない声で呟く。首筋を舐めてくるアンを片手で抱き寄せながら、馬鹿騒ぎしているアランとジャックを笑う。
「カイル。今日は『して』くれるの?」
アンが耳元で囁く。
「あぁ。この中ではお前が1番綺麗だからな……」
カイルは素っ気なく答えるが、アンは頬を染めカイルの腕に自分の胸を押し当てた。
「失礼致します」
そう言って酒を持ってきた美女を見て、カイルはニヤリと笑みを浮かべる。
「おい。アン。どけろ。今日はアイツにする」
「えぇー! カイル。私もう『その気』だよ?」
「また抱いてやるから今日は我慢しろ。気が向いたら後でお前も抱いてやる」
「もぉ〜!! 絶対よ?」
アンは少し拗ねながらもそそくさと自分の寝床へと消えて行く。カイルは立ち上がり、酒を持ってきた女に声をかける。
「今日、俺と寝ろ」
女はキョロキョロと困惑したように周囲を見回す。
「わ、私は配膳の者でございます……。そのような事は……」
「うるさい……。お前に拒否権はないぞ?」
「……えっ? あの、」
「来い……」
カイルは女の手を取り、寝室に向かう。怯えた表情で、不安そうに唇を噛み締めている女の様子など気にする様子もなく、自分の欲望のままに事を済ませた。
(何て最高の夜だ……)
走り去っていく女に目もくれず、カイルは窓からカタルの街を見下ろしながらふぅ〜と長い息を吐いた。
ベッドに倒れ込むと、立てかけてある双剣と少しだけ破損している汚れた鎧が目に入る。
「クククッ。この鎧も、もう捨てちまうか……」
と絶望したルークの顔を思い出しては、込み上がる笑みを抑えられなかった。
すぐに眠りにつこうかと思っていたが、さらに気分を良くしたカイルは「ふっ」と小さく笑い、アンの寝床へと足を進めた。
明日起こる事なんて知るよしもない……。
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