第7話 戦闘と初勝利
―――44階層 VS スネイクスパイダー
(まずは挙動を盗む……。逆の立場になった時の最適解を探る……。牽制は恐らく蜘蛛の足での牽制か、跳躍からの『毒牙』での攻撃だろう……)
相手の思考を考慮しつつ、自分の思考を加速させる。
(何を『洗濯』する? 行動を先読み、蜘蛛の足から『洗濯』するか? いや、後々厄介になるこの魔物の『スキル』そのものを『洗濯』するか……?)
シュロロロロロロ
スネイクスパイダーは笑っているようにすら見えたと思ったら、身体を沈め、跳躍の動作を見せる。
(来る!! とりあえず簡易魔法で牽制。すぐに距離を詰める!!)
「『火玉フレイムボール』」
今まではパーティーの松明用だった俺の『火玉』。魔物に向けて打つのは初めてだ。見るからに弱そうな小さい火玉は牽制の意味すら持たないかもしれないが……と苦笑しながらも、的を絞らせないよう常に動き、その場に留まらない。
「あの火玉は!!」
ルシファーが驚いたように叫ぶので、俺はこんな簡易魔法を放った事が恥ずかしくなってくる。
(やっぱり『何か』を『洗濯』すればよかった……。まぁでも『触れない』とダメだから……)
と言い訳をしながら、バカ高い魔導書を買えば、ほぼ全ての人が習得できる魔法を放ってしまった事に羞恥心を煽られる。
跳躍するスネイクスパイダーの動きを先読みし、そこに魔法を放った。予測通り、こちらに向かって跳躍するスネイクスパイダー。
(とりあえず、着弾はするな……。目眩しくらいにはなるだろう)
俺はスネイクスパイダーへと走る。俺が出した結論は『魔体』そのものの『洗濯』だ。
(まずは一勝……!!)
実験は後でいくらでもできる。まずはこの「A+」の魔物からの勝利を優先する。
間合いを詰めた瞬間に、すぐに『洗濯』できるようイメージする。「戦闘にも応用できるのか?」はまだ曖昧だが、可能性は充分にある。
失敗したら、回避に専念しながら、別の可能性を探ろう……。
ジュグッブアア!!
「火玉」の着弾を確認。小さい火玉は確実にスネイクスパイダーの首に着弾した。
(よし。少しだけでも勢いを殺せた。後は一気に……)
ア、アッアガガガガアアア!!
「ん? 効いてる?」
スネイクスパイダーは凄まじい叫びを上げながら、着地と同時にその場に座り込み、蜘蛛の前脚で自分の首を切り刻んでいる。
「えっ? えぇー……?」
苦しそうに暴れているスネイクスパイダー。何かよくわからないが、これはチャンスだよな……? と後ろに回り込みながら、高く跳躍し、蜘蛛の背に飛び乗る。
(成功してくれ!! 頼む!!)
「『魔体洗濯デモン・ウォッシュ』!!」
俺が叫ぶと、光の粒子……いや、虹色の粒子がブワッと舞い、未だ暴れているスネイクスパイダーに群がる。
「……!! ルーク様!! とっても美しいです!!」
ルシファーの叫び声が聞こえるが、俺はただただその虹色の光に感動していた。
(あぁ。なんだ……。俺はちゃんと戦えるじゃないか……)
半ば確信に近い「初勝利」に唇を噛み締める。
「黙って『洗濯』してりゃいいんだ!」
「戦えねぇなら、大人しく雑用してりゃいい」
「邪魔だ!! ザコが!!」
「目ざわりだわ!!」
パーティーメンバーからの数々の罵倒がフラッシュバックし、これまでの努力していた事を思い返す。『夢』に向かって、進んできた今までの「全て」が断片的に浮かんでくる。
熱くなる目頭にギュッと目を瞑ると、
「なぁルーク……今どんな気分だ……?」
カイルの顔と言葉。ニヤニヤとした気持ちの悪い笑みと心底楽しそうな声が瞼の裏に飛び込んで来た。
スネイクスパイダーを包み込む虹色の粒子は、一斉に溶け込んだかと思うとスネイクスパイダーはパッと黒い霧へと姿を変え、
ボトッ!
と拳大の魔石がその場に落ちると同時に、消滅した。俺はトンッと地面に降り立ち、静かに口を開いた。
「ハハッ。カイル……。最高にいい気分だよ……」
ただの一勝。でも、俺にとっては大きな一歩だ。達成感が体内を駆け巡り、その場に座り込んでしまうとルシファーが走って駆け寄ってくるのが見えた。
「ルーク様!! 何て……なんて素晴らしい『力』でしょう!! やはりルーク様は『最強』です!!」
興奮した様子で座っている俺に飛びついてくる。何だか少し泣きそうになり、俺は小さく口を開く。
「ねぇ、ルシファー。俺はこのダンジョンを……制覇できるかな……?」
ルシファーは俺の声のトーンの異変に気づいたのか、俺から離れ、視線を合わせる。
「ルーク様……? もちろんです! きっとルーク様にしか果たせない事です……。ルーク様にできない事などありません!!」
「ふふっ。ありがとう……」
「もう何も心配いりません……。私がずっと側にいます……」
ルシファーはそう言ってまた俺を抱きしめた。
『最強』だ! と言ってくれて嬉しかった。
まるで父さんや母さんのように、心底俺を信用してくれている笑顔が懐かしかった。
自分の努力が間違っていなかった事に救われた。
自分に『可能性』が残っている事が嬉しかった。
夢の実現の予感に胸を締め付けられた。
「大丈夫です。何も心配いりません……。大丈夫です」
ルシファーの優しい言葉と甘い香りに包まれながら、俺はもう一度、甘い夢を見る。
無能だと言われた『洗濯』でSランク冒険者になる事。ダンジョンの最下層に眠っている『夢の果て』を手に入れる事。
俺はしばらくルシファーの胸の中で泣いた。
「大丈夫です。心配ないですよ? 全て上手くいきます……」
と何度も何度も呟きながら頭を撫でてくれるルシファーの手はとても温かくて、優しくて、どこか懐かしくて、涙が止まらなかった。
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