第5話 一歩前へ
ーー45階層
ルシファーの「孤独」を目の当たりにして、命の恩人に何かできないかな? と頭を撫でた。不謹慎なのは重々承知しているが、ポロポロと綺麗な涙を流すルシファーはとても綺麗だった。
抱きしめてあげたい! と思ったが、自分がボロボロで汚かったので、ルシファーを汚してしまうかも……と懸命に衝動を抑えた。
どうやら階層主であるサイクロプスはいないようでホッとしつつも、ここから上での戦闘をどうすればいいかを思案する。
ルシファーの力は凄まじいものだと思うけど、これから先の事も考え、色々な実験をしてみたいと言うのが本音だ。
先程からずっと考えているが、
(『罪』を『洗濯』できたのだから、どんな物でも洗い流せる力があるのかもしれない……)
と言う考えが頭にこびり付いて離れない。
『洗濯』の可能性にワクワクしている。
恐怖心がないわけではないが、それ以上に『冒険』する事へと好奇心の方が遥かに大きい。
(俺は『冒険者』だから……)
心の中で呟けば、さらに好奇心が高鳴るのを感じた。
「ルシファー。色々試して見たい事があるから、なるべく俺に任せて? サポートしてくれると嬉しいけど……?」
「任せて下さい! ルーク様の力になれるよう精一杯頑張ります!!」
ルシファーはすっかり元気になったようでとても嬉しそうでホッとしたけど……と俺はずっと気になっていた事をルシファーに聞く。
「ルシファー。その『ルーク様』って……?」
「…………?」
ルシファーは首を傾げて、真っ直ぐに俺の目を見てくる。あまりの可愛さに照れてしまう。背中の白羽も綺麗な手足も金色の髪と瞳も、どれもが綺麗で、見つめられると心臓がうるさくなる。
「ふ、普通に『ルーク』でいいよ? あと敬語も使わなくていいから。ルシファーは俺の命の恩人だし!」
「ぃ、いえ! ダメです! これだけは譲れません! 私はルーク様に忠誠を誓ったのです!!」
ルシファーは少し大きな声を出してハッとしたように顔を青くする。
「ん? ルシファー?」
「また私は神の意に逆らって……」
「ルシファー!?」
「私はなんて傲慢なのでしょう……」
ルシファーはがっくりと肩を落とし、泣きそうになってしまう。
「わ、わかった! それでいいから泣かないで? それに俺は『神様』じゃないよ? 嫌な事は嫌って言ってくれた方が嬉しい! 地上に出るまで何日かかかると思うしね!!」
「……何て慈悲深い、ルーク様……」
うっとりとした顔のルシファーに俺はタジタジだ。地上に出るとルシファーと居る意味はなくなり、少し寂しくなるけど、ちゃんと楽しい思い出のひとつでも作ってあげられればいいな! と思った。
この階層は階層主しか居ない階層だ。また復活する前に急いで上に上がった方がいい。全ての中層への分岐が収束しているので、上に登る階段は無数にある。
来た道を帰るのが1番いいのは百も承知だが、今、カイル達に会うと、また憎悪が湧いてくるかもしれない。ワクワクした気分に水をさされるのはごめんだ。
「ルシファー。どの道から上がりたい?」
「……あそこの道は1番危険ですね……。強力な魔物がいます。あそこは数と強さのバランスからみて比較的簡単です。そちらは数が多い……。あちらは数は少ないですが、この中では1番の強者の魔物が居るようです……」
淡々とそれぞれの道の様子を言っていくルシファーに空いた口が塞がらない。
感知スキルも持っているのだろう……。さっきの光の矢と漆黒の矢もかなり強力だったし、足の傷も直してくれた事を思い出す。ルシファーはかなりの強さを秘めているのは最早疑いようのない事実だ。
ぼんやりと見惚れていると、ルシファーと視線が合う。
「ふふっ。ルーク様ならどんな道からでも余裕ですよ? ルーク様は『最強』です!!」
一切の曇りもない金色の瞳は真っ直ぐに、俺を捉え、ルシファーは綺麗に微笑んだ。
また父親の笑顔を思い出しながら、ルシファーの期待に応えたい!! と強く決意した。単純だけど、美人からの期待に応えたい!! と思うのは男の性質なのだから仕方がない……。
先程とは違った感情だ。嬉しいことであるのは変わりないが、今回は不安はない。悲壮感に包まれていた俺ではない……。
(ここから始めるんだ……。俺の『冒険』を!!)
「よし。1番強いヤツの所に行こう!!」
「はい! ルーク様ならそう言うと思っていました。1番の困難に立ち向かう勇敢な方であると、思っていたのです!!」
本当はちょっと弱い魔物で試してから挑戦したいかなぁー? と思っていたが、屈託のない笑顔を浮かべるルシファーを見てたら、何か大丈夫な気がした。
不安がないか?
と問われればもちろんある。さっき「無能が!」と殺されかけたばかりなのだから当たり前だ。
でも試して見たい事が山ほどある。
『俺はまだやれる!』
って証明したい。これまでの努力は無駄じゃないって思いたい。……「死」に怯えるよりも、『夢』を追う資格があると証明したい!
何よりルシファーの信頼や期待に応えたい。こんな俺に何の悪意もなく「忠誠を誓う!」などと言っているルシファーが間違っていない事を教えてあげたい。
不意に両親とピクニックに行った時のことが脳裏に浮かんだ。
「やっぱり男は女の前でカッコつけないとな!!」
「そう言う事は、好き嫌いを無くしてから言ってよ! ねぇ、ルーク」
懐かしい記憶に「ふふっ」と笑い、ルシファーと視線を合わせて口を開く。
「やっぱり、男は女の子の前でカッコつけないとね?」
俺がそう言うとルシファーは顔をほんのりと紅く染め、
「流石、ルーク様です! とってもカッコいいです!!」
と弾ける笑顔を浮かべた。
(さぁ、俺のスキル実験の開始だ!)
気を引き締めながら大きく深呼吸をし、上の階層へと足を踏み出した。
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