第4話 その頃、カイル達は……
―――37階層
カイル率いる『二刀流』のパーティーは順調に地上に向け、帰路に着いていた。
「何か魔物の数が多くないか?」
盾役のアランはアンに治療されながら、困惑気味に口を開いたが、
「そうかしら? こんな物でしょ?」
「そうだよ。あの無能が消えて、こちらの人数が減ってるからそんな気分になるだけだろ?」
と言うアンとジャックの言葉に、(2人は何も気にならない様子だし、気のせいか……)と納得しながらアランはルークの荷物から水を取り出し、みんなに投げた。
「あぁー……。ダンジョンで飲む水は格別だな!! それにしても、アイツの顔ヤバかったぜ!! カイルが足をぶっ刺した時なんて……ハハハハッ」
ジャックは笑いながら声をあげた。皆も一時の休憩に腰を下ろし身体を休める。
「不相応の『夢』なんてみるからだわ!」
「ハハッ!! アイツが『夢の果て』を手にしたら何だってやってやるぜ!」
3人の笑い声を聞きながら、カイルは「魔物の数が多くないか?」と言ったアランの言葉を考えていた。
確かに今まではルークを捨てた事で上機嫌になり気がつかなかったが、
(確かに少し多いな……。確か前も少し多かったような……? まさか、アイツに特殊な能力が……? ハハッ! あり得んな……)
と少し眉を顰めるも、あの苦悶の表情を思い出し、また一つ笑った。
最近、パーティーを追放された人間が活躍しているのをよく耳にするので、カイルは万が一を考え、ルークなしでダンジョンに潜ったりなど、入念に準備した。
いつもの装備にいつもの食料をルークに準備させ、いつものコンディションでテストもしてみた。いつもと違うのはルークを連れて行かない事だけだ。
結果は「いつも通り」だった。魔物の強さや種類など様々な可能性を考慮し、行動した結果、まさに「いつも通り」だった。4人だけのパーティーでも全く問題なかったのだ。
強いて言えば、今のように少し魔物の数が多い事があったが、活性化していたと考えれば許容範囲である。もう一つは少し道に迷ってしまったくらいだが、それもルークが書き込んだマップを回収したので、なんら問題ない。
ルークに特殊な力は「確実にない」と判断できる要素をかき集めての「追放」だ。
あと数分で『夢が叶う』とキラキラした青い瞳に吐き気を催しながらも、絶望と苦痛に顔を歪めるルークの顔は3年間待った甲斐のあるものだった。
(クククッ。本当に馬鹿なやろうだ……)
この入念さもカイルをSランク冒険者に押し上げた要因の一つである。
(元Sランクパーティーに所属していたって言われているサポーターの『ローラ』も確保してある……。確実にルークよりも『使える』ヤツのはずだ。……完璧だ!! クククッ。完璧すぎる……。『お荷物』を捨てて、俺は更なる高みに到達できる!)
確信するカイルの笑みは不気味な雰囲気を醸していたが、パーティー内の3人は全く気づかない。ここに勘のいいルークがいれば、バレる可能性もあったかもしれないが、ここにはいない……。
(さっさと野垂れ死んじまえ……)
カイルは心の中で吐き捨てながらルークとの「これまで」を振り返る。
ルークは同郷の同い年。カイルにとってルークの存在は目の上のたんこぶだった。優秀な両親、目を引く容姿。いつも劣等感に耐えていたが、7歳の誕生日でそれは解消されるはずだった。
『洗濯』と言うクソスキルのルークと『二刀流』と言う2本の剣で相手が死に絶えるまで、無数に斬撃を与えるスキルのカイル。
それでもなお、村の人達に好かれるルークが気に入らなかった。『洗濯』という無能のレッテルを貼られたのにも関わらず、いつも自分の目標に突き進み、努力するルークがムカついて仕方がなかった。
「俺がお前の夢を叶えてやる」
と言ったのは、「俺の方が優れているぞ?」と言う嫌味だったのにも関わらず、さらさらと銀髪を風に揺らしながら、あの忌々しい青い瞳をキラキラと輝かせたルークに、さらに神経を逆撫でされた気がした。
人を疑う事をしない、誰の悪口も言わない、常に未来へと瞳を輝かせるルーク。
声をかけたのは気まぐれだったが、その瞬間いい事を思いつき、今日、やっと実行した。
今日のルークの顔は、本当に最高だった。
あの苦痛に満ちた表情は本当に、これ以上ないものだった。
(じゃぁな、ルーク……)
カイルは心の中でそう呟き、思い返す度に笑みが溢れてしまいそうになるのを誤魔化すように、水を飲んだ。
「なぁ、カイル。一応幼馴染だったんだろ? 本当によかったのか?」
アランは笑いながら声をかけてくる。
「ククククッ。あんなクズどうでもいい……。ただの俺のオモチャだっただけだ。居なくなって清々する! 最高の気分だぜ」
「容赦ねぇな、カイル!!」
「ほら、さっさと行くぞ! 今日のうちに28階層まで帰るぞ」
とりあえず、魔物の出現のない28階層の「カタル」までの道を急ぐ。雑用を捨ててきたから、荷物が多いし、食料も底をついているので、宿屋までは今日中に行かなくてはならないのだ。
「そうだな! 俺たちが46まで降りた事を他の冒険者達にも自慢しようぜ!! 何てったってもうSランクだからよ!!」
「それ、いいな!! 今日は女を抱くって決めたぜ!」
「ジャックはそればっかり!! もうSランクなのよ? 少しは自覚を持って貰いたいわ! 『最短記録を樹立した』パーティーとしての自覚を持って欲しいわ」
3人の会話を聞きながら、カイルは鼻で笑う。
(俺の『力』のおこぼれを貰っているだけのくせに……)
カイルはこの3人も使い捨ての駒のように考えている節がある。自分の恵まれたスキルと他を圧倒する戦闘センスに絶対的な自信があるのだ。
確かに3人とも有能なのは間違いない。
アランは『硬化』、
ジャックは『魔法・極』、
アンは『治癒・極』
のスキルを持っているが、Sランクに昇格した事で、もっと優れたスキルを持っている冒険者が俺のパーティーへの加入を求めるはずだ! と信じて疑わない。
カイルにとって3人は、最上位スキルである「聖」の文字の入った冒険者が仲間に加わるまでの『つなぎ』だ。
(まぁせいぜい今のうちに喜んどくんだな……)
心の中で吐き捨てながら、そそくさと準備し、慌てる3人に声をかけることもなく、また一つ階層を上がった。
少しずつ歯車が狂っている事に気づいている人間は1人もいなかった。
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