2度目の初恋
のぶ焼き定食
第1話 始まりの朝
「もうすぐ。もうすぐあなたに会えるよ。」
まだ肌寒くてしっかりと布団の中で寝ていないと油断して風邪をひきそうな4月。
今日から新学期が始まる朝、ちょっとした新生活への期待と今日から通常営業の日常生活が始まることに憂鬱感を感じる俺が見た夢は、今まで見たことのない不思議な夢で始まった。
その夢は、何もない薄暗い場所に俺が1人何をする訳でなく、ただ立ち尽くしていると向こうから光と共に人影が見えた。俺は手で光を遮りながら、その人影に目を向ける。その光はとても優しく、温かい光だった。
「もうすぐ。もうすぐあなたに会えるよ。」
その人影は優しい女の人の声で俺に声をかけた。
俺はその人影の腕を掴もうと腕を伸ばしながら問いかけた。
「きみは誰?」
答えが返って来る前にその人は光と一緒に消えていった。
普段夢を見ても内容を覚えていることがほとんどないのだがこの日は、はっきりと覚えていた。
俺は半開きの目をこすりながら洗面所に向かい、顔を洗う。
「早くしてよ。髪の毛セットしたいんだけど。」
朝から俺を邪魔者扱いするのは、今年高校に入学し、今日から高校生活をスタートさせる1個下の妹である。
「はいはい。でも、髪をセットしてもお前は何にも変わんないぞー。」
俺はタオルで顔を拭きながら朝食が準備されているリビングに向かう。
目玉焼きにみそ汁。いたって普通の朝食で我が家の1日が始まる。
我が家は共働きの両親と、1個下の妹の冬華(ふゆか)と俺、古川陽(はる)の4人家族。どこにでもいるごく普通の家庭である。
「冬華は今日から高校生だけど、大丈夫?初日から忘れ物してない?」心配性の母さんが声をかける。
「大丈夫!もう子供じゃないんだから!」
冬華は自信ありげに言いそうな一言を言って胸を張る。
俺はそんな二人のやり取りを横目に朝食を済ませ台所に食器を置きに行く。
「あっ。うちの学校、入学初日は自転車での登校禁止だから早く行かないと遅刻するぞ。」
俺は同じ高校に通う妹に先輩としてアドバイスを送ると、
「近くまで乗せてくれるんでしょ?」
そう微笑みながらゆっくりとみそ汁をすする。
朝食を済ませた冬華は鏡に向かってまた髪を整えている。
全く、女の子は実に面倒くさい。鼻歌交じりで未だに鏡を見ているもんだから俺まで遅刻しかねないので呼びに行くことにした。
「早くしろよー俺まで遅刻するだろうが。置いていくぞ」
「もー。急かさないでよ!第一印象が大事なんだから。」
全くこの妹は学校でアイドル活動でもするつもりなのだろうか?
そんなやり取りをしていると時間はもう午前8時になろうとしていた。家から学校まで自転車で15分。
冬華の準備がようやくでき一緒に家を出る。
うちの学校は8時25分までに正門を通ってないといけない。
今日は冬華と一緒に登校するので、自転車を飛ばすわけにはいかないから正直ギリギリだ。
「しっかり捕まっいてろよ。二人乗りなんか慣れてないんだから重くてふらふらする。」
「なにそれ!私が重いって意味?」
冬華が少し不機嫌になりながら
「こんなに可愛くてスレンダーな妹にそんなことを言うわけー?ひどーい」
確かに冬華はごくごく普通のどこにでもいるような俺に比べると確実に可愛い。
むしろ、今まで学年問わずモテていた気がする。
「スレンダーすぎてもう少し胸が出てれば尚いいんだけどなー」
俺は笑いながらからかう。
冬華はタコのように顔を赤くしてフグのように膨れているが、これは俺たち兄妹のコミュニケーションなのだ。
正直、このやりとりをしている時間が結構気にいっている。
そうこうしているともう学校の近くまで来ていた。
正門では生徒指導の先生が立ち、登校してくる生徒の服装や頭髪のチェックをしている。
さすがにその前を堂々と二人乗りで行くにはリスクが大きすぎるし、そんなキャラではない。
「ほら、ここから歩いて行けよ。」
「えーじゃあ一緒に行こうよ!」
「俺も?なんでー?」
「いいから!一人で歩くのが寂しいでしょ!」
はたから見たらカップルの痴話喧嘩に聞こえるやり取りをしながら学校に着く。
「あっ!冬華おはよー」
「あーマリちゃん!おはよー」
俺たちのもとに笑顔で来る美少女。
肩までの長さの青髪に綺麗な黒い瞳。すらっとしたスタイルで出るところは程よく出ている。
俺はそんな彼女に釘付けになってしまった。
そして、どこか懐かしい感情が心の中に優しく入ってきた。
「おはよう冬華。あのー隣の人は?」
謎の美少女が俺の顔を覗き込みながら聞いてくる。
「この人は私のお兄ちゃん。お兄ちゃん、この子は同じ塾で仲良くなった大和マリルちゃん!日本人のお母さんとアメリカ人のお父さんとのハーフなの!」
「初めまして。俺は陽。こんな妹だけどよろしくね!」
「あっ、大和マリルです。私こそ冬華に仲良くしてもらっています。」
俺たち3人は簡単に挨拶を済ませ、各々新しい生活の舞台となる教室へむかった。
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