「やがて、当たり前の非日常へ」

『──商店街で起きた火災の原因は不明であり、警察は事件と事故の──』


 聞き飽きたニュースキャスターを無視し、鞄を抱え。

 はじめから、サボる気満々で呼吸を整える。


「行ってきます」


 声に返答を期待はしていない。

 儀式めいた感覚だ。そうしてお互いに定型句だけを口にするのに、どれだけの期間を重ねたものか。

 親という生き物に感謝こそあれど、信頼という物を預けるには、お互いに少しすれ違いすぎた。理解を拒み続けた結果、互いに不干渉を決めた結果、家族である筈なのにまるで他人のような人になってしまった。

 間違いだったと思うか。失敗したと断ずるか。

 きっと、それらはどれも正しい感情なのに。


(仲直りしようにも、仲が悪いわけでもないんだよね)


 玄関を破り、息を吐く。

 衣食住は提供され、安全は保証され、責任に至っても無視できる。理想の環境。だというのに。

 どうして、ここはこんなにも息苦しいのか。


「原因の一端は、私のこういう行動にもあるんだろうけど」


 通学路。

 を、真逆に行く。


「──やめられないよね、これは」


 都市伝説。

 そういった物が、意外とこの街には溢れている。



 曰く、人を飲み込み逃さない屋敷。

 曰く、三つまで願いを叶える神様。

 曰く、出逢えば絶叫を重ねる異形。

 曰く、夜間に人とすり替わる人形。


 曰く、曰く、曰く、曰く、曰く。



 他の街を知らないからこそ、確実に、とは言わないが。

 それにしても、あまりにネタが多すぎる。

 彼女の歪んだ好奇心を刺激するには、それらは過剰な程の魅力を発していた。


「行こうか。今日も『異常』を探しに」



 目指すは山奥。挑むは少女。

 そうして、もう一つの暗闇が口を開けた。

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