人食い兎は夢を指す(3)

 夕暮れに染まる街を歩く。

 普段なら目も向けない、人の居なくなった商店街へ足を運ぶ。

 目的は無い。というより、目的があるならこんな寂れた所に赴くような人は居ないだろう。


「……退屈だな」


 おそらく、それが回答。

 何かを見失った。満たされない穴を埋めたかった。

 歩を踏み、目を向け、思考する。繰り返す程に浮かんでくるのは結局「退屈」の一言。

 端的に言えば、生きている事に対する刺激が足りない。

 きっと、そういう事だった。


(なら、何をしたら──この退屈は埋まるのかな)


 きっかけは、きっとそれだけだ。

 考えた先にふと浮かんだ物が、たまたま現状に繋がっただけ。



「都市伝説の一つでも漁れば、何か暇潰しにでもなるのかなぁ……」






 目を開く。

 首無しが映る。


「おーい。……っと、戻ってきたか。ここで意識を飛ばすと本当に溶けるぜ。大丈夫かい?」


 軽薄な声。

 ただ、その言葉から心配の色を拾える程度には、そろそろこの声も聞き慣れてきた。

 立ち上がる──座り込んでいたのか。無自覚に。


「……死にたかったわけじゃない」


 ぽつり。

 言葉が漏れた。


「生きている事を、はっきりさせたかったんだ。惰性で生きて、ふらついて。そのまま何かに流されるまま自分を見つけられずに死ぬのは──凄く、嫌だった」


 無意識に、本心を探っていた。

 それだけは違う、と否定が先走り、それを補強する材料を探していた。

 確信はない。もしかしたらこれも後付で、本心のどこかに希死念慮は居座っているのかもしれない。

 それでも、今はこうだと、胸を張って言える。



「生きたいよ。──俺自身を取り返して、ここから帰りたいんだ」



「兎」が腕を組みながら黙って聞いていてくれた事に、今更ながら気が向いた。

 若干の気恥ずかしさを覚え始めたあたりで「ふむ」と一声。満足そうなその声に、何故か安心がやってくる。


「──言ったな。『生きたい』『帰りたい』って」


 だが、続く声は厳しそうに。


「おーけぃ。勿論協力しよう、元から私はそのつもりだ。だけど──現世と『夢屋』を隔てる最大の原因はまだキミの中に残ってる。そいつを解消してからじゃないと始まらない」


 とんとん、と自分の肩を叩く「兎」。

 続いてその手は体に、無い顔に、──こちらに。


「忘れたままでは帰れない。取られたままでは戻れない。決着を付けようぜ、少年。これが私からの最大の問いだ」


 指先が、こちらを向く。



「──『お前は誰だ』?」

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