【Epilogue(6 month later)】

 「双芭ちゃん、そろそろ体育館に行かんと」

 「あ、うん、わかった。すぐ、用意するね」


 リョーコに急かされて、慌てて体操着をかぶるボク。下は既にブルマに履き換えているので、髪をササッと直せば準備OKだ。

 リョーコやエリリンたちと一緒に更衣室を出る。


 「今日はバレーだってよー。ダルいなぁ」


 エリリンは気乗りがしない様子だけど、ボクはバレーって結構好きだけどなぁ。


 「男子は、この天気やのに外でマラソンだよ。それに比べたら天国やんか」


 リョーコもそう言ってたしなめる。

 

 (11月もそろそろ半ばを過ぎて、風もだいぶ冷たくなってきた中で、マラソンなんて、男子は大変だなぁ)


 ──うん、ご覧の通り、アレから半年経っても、結局ボクらふたりは戻れてないんだ。


 あの夜、お兄ちゃんに諭された時は、少なからずショックだったけど、一晩寝て落ちついたら(それだけじゃなくて色々シちゃったけど)、いたずらに焦っても仕方ないって、ボクも一応納得するしかなかった。


 それに。

 確かに、双芭だったお兄ちゃんの言う通り、ボクには女の子生活の方が合ってるのかもしれない。


 高校では、あまり親しい友達もできず、せっかく入った陸上部もサボりがちだったけど、双芭に“なって”からは、学校に行くのが毎日楽しいし、部活にも熱心に参加してるし。

 エリリンたちお友達との仲も極めて良好。最近ではトワラーの部活でも多少は後輩にも頼りにされるようになってきたし……。


 その点はお兄ちゃんも同じみたいで、相変わらず学校の成績はあまりよくない(本来中二だから当り前だよね)けど、部活は頑張ってて、1年生ながら県大会の予選で結構いい記録出したらしい。


 この間なんて、放課後、リョーコたちと駅前の繁華街に遊びに行った時、女の子(たしか、隣のクラスの新藤さん、だったっけ?)連れのお兄ちゃんとバッタリ出会った。


 お兄ちゃんは、「単なる部活仲間だ」なんて言ってたけど、どちらも意識してるのがバレバレだよ~。あのままなら、遠からずくっつくんじゃないかな♪


 お兄ちゃん──“六路俊章”に恋人ができると知っても、不思議とボクは動揺しなかった。

 そしてそのコトで、ボクは改めて今自分が“六路双芭”としての立場に完全に適応していることを自覚する。


 (まぁ、今更だけどさぁ)


 半年経った今では、首と胴体の肌の色の差もほぼなくなり、むしろほっぺの肌触りとかは随分女の子らしくなった気がする。

 元々体毛は薄めだったけど、ヒゲも全然生える気配がないし、カラオケとかでの声のキーも上がったしね。


 この身体になって、自慰はもとより、生理とかも体験しちゃったし、ちょっとだけ胸が大きくなった反面、体重も増えたことに一喜一憂したり、お友達と下着や服の買い物に行ったりもした。


 そういった、楽しいことも嫌なことも全部ひっくるめて、ボクは今、「これからもずっと、双芭のままでいたい」と思うんだ。


 「双芭ちゃーん、今日は部活ない日だよね。三笠庵に寄っていかへん?」

 「! 行くいくーーー!!」


 “本体”の嗜好に染められたのか、甘いものも大好きになっちゃったけど、現役JCとしては、別段大いにアリだよね!


 ボクは、半年でいくらか伸びた髪を揺らしながら、リョーコたちと一緒に校門へと急ぐのだった。



-Happy End?-

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