第七章

第七章


 数ヶ月後……。

 惑星ジャミールに向けて連絡を取る3機のEPの代表者。

移住先の惑星を特定したと報告した。


 その移住先に指定した星は、かろうじて重力によって海が有り、陸地と別れている。有毒な気体は無く環境は良い。そこに移住を決定したと言う。太陽系とは違う、別の恒星系だ。

 移動にはかなりかかるが、ジャミール人に異論は無かった。


 EP内では、クローン技術を確立して人口は増えつつある。移住先では都市開発に着手したいと言う話も伝えたのだった。


 一方でジャミール人の反応も悪くはなく、都市開発には協力すると言ってきた。


 3機のEPは各々が航行し、その星に向かった。……だが、上陸してもEP外での活動は困難である為、ジャミール人がその為の用意をして待つと言う事だ。

 移住先でもしばらくはEP内で同じ生活状況に変わりは無いが、それでも30年以上前よりは進化している。


……だが、移住者達は、地球人の遺伝子を持ちながらも別の生命体として歩まざるを得ない事になろうとは誰も考えていなかった。


 移住先の惑星の陸地の3ヶ所に上陸したEP。場所はかなり離れてはいるが、相互に連絡が取れる為心配無いだろう。


 それぞれのEPは状況を報告し合う。

 星の環境は悪くなかった。ただ、人々もそれなりの進化がある。

 吸入酸素は少なくても過ごせるし、摂取栄養素は、皮膚細胞の一部が光合成を行い、不足栄養素を補っている。

 重力に関しては、地球から出た時に身に付けたスーツでコントロール出来るので、EP外での作業に差し支えなかったが、それは許可されなかった。

 個人が自由に振る舞えば、大衆が同様に変わっていく。そうなると歯止めが効かなくなる者が出る。この事は、過去の経験からであり、許可されなかった理由である。

 人口は8千万人余り。多くの人は年齢が高い。

 このままこの星で繁栄出来るだろうか……。もうここに移住して定住するとすれば、地球人の遺伝子を持った別の惑星の生命体として過ごしていくのだ。ジャミール人がきっかけとは言え、今のEP内では何不自由なく過ごしている。


 ジャミール人からの報告は聞いているものの、直接地球との連絡は30年以上取っていなかった。

 家族や友人が離れ離れになっている訳ではない。地球人同士が離れ離れなだけだが、それでも30年以上の時間が不思議な懐かしさを掻き立てる。



 

 さて、同じ頃の地球上に目を向けてみる。人口は1千万と少しであるのは以前と変わらない。また、クローン技術によって生まれた人間に対する倫理的問題に直面していた。親子関係が無い、誰がケアするか。今はまだ研究機関で管理する事で話が落ち着いていた。


 他にも、体質改善が行われた人々のあらゆる調査が進んでいる。

 必要酸素量の改善がされた者、皮膚で光合成により必要栄養素を取り込む様改善した者、圧迫による筋肉抵抗が上がっている者、視力・聴力が優れた者、運動神経が異常に発達した者……等々、技術力はジャミール人が関与する前と比べて遥かに進化を遂げている。

 大気の状態は以前から変わらないが、人間はその助けを得ずに過ごせるような体質に変わってきている。

 これらの人々同志のクローンを作り出し、便利な能力を同一人物に備わる様に開発研究段階だ。


 クローン技術が確立して以来、血筋・血統と言った概念は無くなった。倫理的問題と言うのはその部分であるが、人口の増減に対しての手段としては仕方がなかったのかも知れない。

 細胞の衰えを抑える事に成功した後、現在の地球では、クローン技術で生まれた者と、通常の健常者との間に生まれる人間に対する検証実験に進んでいる。

 

 この先、地球では人造人間が誕生するだろう。

 脳を制御出来るまでになると、作られた人間は機械同然になってしまう。これだけは避けなければ、人間が人間で無くなってしまう。

 そして今は、脳を制御する研究開発か、寿命を伸ばす研究開発かの議論になっている現状だった。

 

 その会議の場に、ジャミール人から連絡が入る。

「地球の諸君の言わんとする問題について。ジャミール人の過去をお伝えしよう。……我々はその昔、脳だけを培養し、人型のメカに組み込み、動作させた。当時のAI知能のメカでは、我々に追い付いていけない。生命体の代わりに、色々な事が出来ないのでは進歩が遅い。……計画は上手く進んだが、その人型メカは、ある時期から必ず暴走する事が分かり、以後その計画は中止された。……地球人の諸君。くれぐれもこのような計画はしない事をお勧めする。決して脳を制御しようと考えない事だ。これは我々の失敗談でもある。伝えたいのはこれだけだ。寿命を伸ばす研究には我々とて苦難の日々。そんなに甘くは無い。……だが、君達には我々が付いている。我々と同じ方法は通用しないが、簡単なレールは敷いてやれるだろう。また何か有れば連絡を待っている。」


 相変わらず、監視の体制に変わりは無かった。

しかし地球人は、この干渉が心地良くもなってきていた。


 地球人の遺伝子は残っているが、技術は全てジャミール人のテクノロジーで生まれた人間達。


 皆、同じ地域で過ごしているが、これもジャミール人のテクノロジーに頼っているからであり、ここを離れて生きていくのは難しいかも知れない。


 EPの様な設備と、生命維持カプセルが入っている、EPと同じ様な設備。

 地球では、もうこの2つの設備無しでは過ごせない。完全に依存してしまっている。

 

 地球上の人々は、EPで過ごしている人々も地球上と同じ様に、設備に依存しているのだろうと感じていた。


 移住先に上陸したと言う情報が入ったが、地球上の人々は、『EPの人々は、いよいよ別の星で過ごすのだな。』と、ほとんどの人が感じていた。反面、もう地球人では無くなるのだという、半ば諦めじみた感情が湧き上がってくるのだった。

 

 いずれはその移住先の星に名前が付けられ、◯◯人と呼ぶ事になるのだろう。……地球人と同じ遺伝子の、他惑星の人々となるのか……。星間交流は是非とも行いたいものだ。……ジャミール人の許可が降りればの話だが。

 

 EPの人々は、まだEPの外には出られないそうだ。常にカプセルに収まる日々。地球の人々の心配はそれが1番に思い当たる様だった。EPと地球上では、外に出ているかいないかの違いがある。それを30年以上続いた訳だが、地球上の人々には、そこが何より心配している点だった。







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