第六章
第六章
あれから30年が過ぎた。
地球では多くの命が生まれ、多くの命が去った。
世代は変わっても、人間の進化についての希望は捨てていなかった。惑星ジャミールから転移して来た巨大な建造物は、今や希望の中心。多くの人々が未来を見据えて努力していた。
中でも発展的なのは遺伝子操作やクローン技術。
まもなく地球では人間が人間を作る事になりそうだ。男女の細胞から無作為に選択し、新たな命を誕生させる事に成功していた。
また、摂取する栄養素を食事からではなく、別の方法が考えられる様になってきている。
あれから20年経った頃に、生命維持カプセルが並ぶ物体も転移され、それは地球人の病院代わりとなってもう10年程機能していた。
一方、宇宙空間のそれぞれのEPでは、生命維持カプセルが有りながらも、高齢で寿命を迎えた人々がかなり出ていた。
EP内での人口増加はなく、減少の一途だった。
一部のEPでは細胞レベルの研究発展見込みはあるものの、地球とは差が付いてしまっていた。
これにはジャミール人も驚きを隠せない。予想と逆の立場になっている、現在の地球とEPだった。
EPで過ごしていた子供は既に無く、最低年齢は35歳を超え、高齢に向かっている。
あるEPでは、ようやく最近になって、移住出来そうな星を探す者が出てきた。設備を駆使して惑星探査を始めている。
これに関しては、ジャミール人は異存はない様だった。
また、あるEPにおいては、遺伝子改良に成功。人間の必要酸素量を減らす事が可能になり、既に一部の人はその体質に改善され、副作用もないと言う。
ここ30年で変わったのは、EP間の連絡が認められ、現状報告のみ許可された事だった。
EPの全ての機体で現在地の把握が出来るようになった。それにより、近日中にはEP間での行き来も可能になる日も近い。
以前にEPが22機になってしまってから、更に人口調整をして、現在のEPの総数は約11機となっている。
連絡を許可されてからは、毎日情報交換がされている11機のEPだが、研究を続けていくには、人員が散らばり過ぎていて、殆ど何も進んでいないのも同じ状況だ。これでは地球との差は開くばかりだった。
連絡は惑星ジャミール宛にも可能だったが、それを行う事は今まで無かった。
当初は数日に一度はジャミール人からの連絡も有ったが、ここ10年程は、月に一度程度。それも地球の状況報告が主な内容である。
当初から、EP内部の人間に意欲が足りずに、進展していかない日々を、ジャミール人に指摘されていたが、それは全くEPの人間に響かず、効果が無かった。
あるEPでクローン技術に着手したのは2年程前になる。また別のEPでの遺伝子操作による体質改善の成功に至っては去年の事だ。これでは地球との差は離されるばかりだろう。
ある日、惑星ジャミールに宛てて連絡をしたEPが有った。
その内容は、EP同士の連結を希望していた。
30年前の当初、連結して行き来出来る事を知らされていたので、それを希望した形だ。
ジャミール人は残る11機のEPに答えた。
「本来は認められないが、残るEPは11機となってしまった事を重要視しよう。君達の年齢も高くなってしまった。だが良く考えてみたまえ。地球では自力で世界各地から人間が集まり、1千万余りの人口はほぼ同じ地域で過ごす様になった。EPと同じ設備を使って日々努力を重ねた結果だと感じている。……地球では10年前まで生命維持カプセルは無しだったが、それでも君達より進歩しているのだ。この差はどう説明するのかね?……EP内の人口も同じ1千万。一体30年何をして過ごした?それは協調性に欠けていたからこうなったのではないのかな?今残っている君達で、更に進歩出来るものか疑問は残っているが……。よろしい。こちらでEPを3つに分ける。それぞれ3機のEPの連結、そして残り2機からは、分けた3つに移動していただこう。3千万以上もの人口になる。今後は、進化の為の何の進捗が無いとは言わせん。心して過ごす様に。」
そう言って直ぐ、EPは動き始めた。どの場所で何処のEPと連結するのかは分からないが、内部設備では、移動経路を知る事は出来る様になった。
どのEPも、太陽系の圏内ギリギリに位置していたが、果たして今回の連結計画はどうなるのだろう。
3千万余りの人口で、果たして何処まで協力し合って、未来の進化の為の発展が見られるだろう。
EP内の人々の年齢からして、この先20年程で何らかの進展が無ければ、EPの人々はただ過ごしただけになってしまう。
2日程経った時、3機のEPが連結、数ヵ所で行き来が可能となった。ジャミール人の言っていた様に、残り2機からは指定されたカプセルが自動的に移動され配置された。
3千万余りの人口の、連結EPとなって、ちょっとした小惑星だ。
居住者は、もう年齢が上がってきて先が短い。中には焦り始める者も出ていた。
技術者はまとまって、研究を急ぎ、治験の為のドナーを集めた。
既に研究成果が出た事象は、更に確実なものに進歩していこうとした。
クローン技術の進歩も見られ、人間を作り出す事になるだろう。
植物の遺伝子移植、操作にも着手した。
EPの航行技術の進歩が見られる。3機連結していながらも、特定場所への移動を許可された。
ある日の事、3機のEPに、ジャミール人からの連絡が入った。
「3機にまとまり、これで上手くいくのではと考えていた諸君に残念なお知らせだ。この2年程、カプセルに収まったままの人間が大勢いる事が判明した。理由は病気や怪我では無い、全くの健常者である。およそ500万にも及んでいる。誠に残念である。……未来を見据えて努力、行動が出来ない様だ。今回、この人間には消えてもらう事にする。……あぁ。カプセルは開かないよ、該当者の人間達よ。悪あがきはよしたまえ、恥を知りなさい。これでまた3機の人口にバラつきが出てしまうが申し訳ない。……では、該当者にはここで消えていただく。」
多くのカプセルが消滅するのを横目に、普段通り、行動する残りの人々。そこにジャミール人の声が続く。
「現在の進捗状況は、地球に比べて極めて遅い。多くの人は死を迎えかねない。今必要な設備などが有るなら連絡を待っている。」
設備に不足も不備も無かった。先へ進もうとする意欲が足らなかっただけである。地球とは20年もの差は否めない状況だ。
それは、残るEPの人々には分かっていた。
もっと意欲的に役割を定め、ルールを定めて行動すべきだったろう。
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