第三章

第三章


 6人の首脳陣は無事に地球へ戻された。……が、既に混乱の最中さなか、誰も気にする者は居なかった。


 ジャミール人は、2万年の歳月を仕切りに話していた。

確かに長くもあり、地球にとっては短い一瞬でもある。


 人間はこの先も進化が必要なのだと言っている。

 植物の様に、光合成が出来るよう進化すれば、摂取栄養素は少なく済む。砂漠で暮らす昆虫の様に、水分摂取を少なくしても生きていける。水生生物の様に、雄雌おすめすどちらにもなれれば、種の存続にこだわる必要も無いだろう。……ナノレベルの遺伝子操作。人体を犠牲にしても、早急に進めていかなくてはならなくなった。

 但し、人間がその様に都合良く進化出来ればの話だ。

……いや、今まで都合の良い進化を遂げてきたはずだが、更に別の都合に合わせて進化を追い求めるのか?

一体どうしたらそれが叶う……。どれだけの技術者や科学者が生き残っている……。しかも同じ場所で行動出来ないだろう。


 またあの声が世界中の映像、音声、ネット環境下で伝えられた。

「収容された人間は、直ちに内部の生命維持カプセルに収まりなさい。守れない者は死ぬ事になる。収容人数が1千万人に達したら地球外へ移動する。我々が創り出した人工の居住空間に名前を付けようと思う。後程お知らせする。」


 地球の1/4程の超巨大な長方形の物体が、世界各地の人間を収容している。

この人口物が29もやって来て人間を収容しては地球外へ移動する。今の人間には未知の世界だった。


 「さてお知らせしよう。君達人間が収容されていくのは、EternalエターナルParadiseパラダイス、永遠の楽園と名付けよう。略してEPとする。これから地球を出た順に、EP−1から数字で呼ぶ事にする。惑星ジャミールとは連絡出来る。EP内部全体に音声が行き渡る。我々は人間との個別の連絡は必要としていない。何の要求にも応じない。今後、君達人間が過ごしていく中で、決め事を作るなりする事だ。EP間での連絡は出来る様になっている。過ごしていくうちに学び取る事だ。そのEP内部では常に監視されている。反逆者は直ぐに消えてもらう。周囲の人間に対する行動は常に協調を持って過ごす事。それが出来ない者は反逆者となる。もちろん消えてもらう。EP内部の建物、設備の一切は自由にして良い。但し、未来の進化の為に君達に与える物だ。個人利益の利用を考えた者は反逆者。当然消えてもらう。しばらくはカプセルが自分の居場所であり、命であるのを忘れるな。カプセルは個人の所有物ではない。空いたカプセルは常に清潔に浄化されるので、いつでもどのカプセルにも入ることができる。死を迎えるまでカプセルに閉じこもっていても良い。ただ1つ忘れるな。未来の進化の為にEPの中で過ごす事を勧める。でなければ人口は減少の一途だ。」


 ジャミール人の話の間にも次々と地球外へ移動を始めているEP。地球に残される人間を選んでいるのかどうかは分からない。


 またジャミール人の声が聞こえてくる。

「進化の研究を重ねる事が未来をより過ごし易くする。即刻取り組むべきであろう。それぞれのEPの中で進化が見られたら、惑星ジャミールに招待しよう。新たに必要な物は全て提供を約束する。移動をコントロール出来る様になったEPは、我々の監視を緩くしてやろうと考えている。何事も協調性、チームワークだ。」

声は一旦切れた様だ。


 地球に残された人間が楽なのか、EPの中で進化の為に尽くして行くのが楽なのか……。

 残されたとしても未来への技術の成長はあるだろうか。


 EPで進化の研究を続けろと言う。一体誰がそれをになう?

専門分野に長けた者がどれだけいるのか?


 それぞれのEPでそれぞれの進化をしていくのだろうか?それとも同じ進化が現れてくるものなのか?

 疑問は尽きないが、今は従うしかないのだろう。


 ジャミール人の声が聞こえてきた。

「もう半数程が外へ移動した。残る半数が移動を開始したらEPでの過ごし方をお知らせする。」

それだけでまた声が切れた。




 G20の首脳陣が集合写真の撮影中に、突然姿を消してから4、5時間程経った今。地球では考えられない様な事態になっている。

 11の国は消されてしまい、3つの国は軍関係の全てを消されている。人口は3億人程になっている様だ。


 1時間程の間の出来事が世界中継される事態だったが、その後間も無くして首脳陣の1人からのメッセージが地球全土に伝えられた時は耳を疑ったが、ジャミール人とやらは現存するのだと、今更になって分かった。


 数カ国の首都が消滅してしまった。この光景も世界中継されていたので、多くの地球の人々は知っている。

他にも消滅した数カ国が有るらしい。

TV放送されたりはしていなかったが、何処かの国の軍部の人間が暴動を起こしたが、それは跡形も無く消えてしまったそうだ。


 一瞬にして消えてしまう事を考えると、あっという間に原子レベルまで粉砕された様にも思えるし、そっくり別の場所に転移されたと考える事も出来る。

ただ、地球人の技術力ではどれも不可能で、頭が混乱してしまうのだった。


 もう手遅れ、だとは考えたくない。このまま、ジャミール人の言う通りにしかならないだろう。……さらわれていく、とは考えたくない。地球人は言う通りにしか行動出来ないだろうから、EP内部のカプセルに入って大人しくしているのだろう。


 地球人を1千万人ずつEPに収容しては、また別のEPがやって来る。

膨大な人の数だが、それをいとも簡単に収容していくのだ。

それは超巨大な長方形だが、外観に窓1つ無い。既に様々な心配事で頭が一杯になっている。どうしたものか。その一言しか思い付かない。

 EPには酸素は有るのか?ちゃんと食事は出来るのか?……いや、そもそも生活出来る所なのか?


 経済が無くなっている訳で、金融は?等と普段気にした事もない様な事まで気になってくる。……EPでは、全て無くなり、ただ過ごしていくだけになるのか?

 

 当のジャミール人の常識は、地球の常識では考えられないものだろう。今後は地球の常識では生活出来ない環境なのだ。


 EPに収容されるか、ここに残されるか。まだ分からない。

 もうEPはかなり上陸している。半数はやって来ては出て行っただろう。


 あの内部はどうなっているのだろうか?全く想像が付かない。


 遥か昔、地球ではコロニー計画が持ち上がったが、それに似たものか?ジャミール人は内部に有る、生命維持カプセルに入れと言っていた。外に出て行ったEPの中の地球人はカプセルで何をしているのか?


 超巨大な長方形の物体は、水平線を隠してしまうほどに大きい物だったが、別の地域の収容に移ったのか?見える所には姿が無くなった。


 とすると、この辺りにいる人間は地球に残る事になるのだろうか?


 そこにまたジャミール人の声が響く。

「さぁ。あと3機のEPで収容完了だ。地球に残るだろうと察した人間は、この先どうするか考えた方がいい。では収容完了後に再びお知らせするとしよう。」




 あと3機だと?収容する人間はあと3千万か⁉︎


 この国の首脳はG20に出席後に姿を消したらしい。

 世界中継もTVで見ていた。20人の記念撮影の時、画面が光ったと思ったその後、首脳陣は居なくなっていた。


 あの大きなブロックに皆んな収容されていく。一体内部はどうなっているんだ?

 

 さっきまで映っていたTVには街の風景しか映らなくなった。カメラの移動がないところを考えると、TV関係者はもう収容された様だ。


 インターネットはどうか?

誰かがこの状況を伝えようとしていないのか?


 ……ネットを通じて何か伝えようとする者はいない。収容されたと言う事か?


 巨大なブロックに、小さな、人1人分位の光っている空間に吸い込まれていく人達が見える。

 ジャミール人の言う通りに中に入ったら、カプセルに収まっているのだろうか?内部が珍しくてそれどころじゃないのでは?


 あっ。近くにその巨大ブロックが来たようだ。

窓1つ無い。濃いグレーのブロックだ。


 人間しか収容しないのだろうか?動物はどうやら収容しているのが見えない。


 出来れば飼っていた昆虫達も一緒に収容されたいものだが、それはどうなんだろうか?


 スマートフォンのバッテリーはフル。このまま三脚に取り付けて映像を撮影しよう。巨大ブロックや収容の様子を記録しておけば、誰かが見るだろう。

 そうだ。パソコンも繋いでおこう。誰宛でも無いんだが、このカメラも起動させておく。


 地球の物を持って収容されたとしたら、内部で役に立つものなのだろうか?デイバックに詰めるだけ詰め込もう。

ボストンバッグに着替えの服を詰め込んで、スーツケースにも色々詰め込もう。……ん?護身用の銃……念の為入れておこうか。


 そろそろ収容されるかも知れないな。何か持って入れるのだろうか?自分の趣味と言えばガーデニング。庭ごと収容されるわけがないな。

種ならたくさん有るから、ポケットに入れて持っていくか。

子供と離れ離れは嫌。この子とは一緒。バッグに少しオモチャを詰めて待っていよう……。


 持病の薬が必要なんだが、内部に入っても薬は飲み続けなければ。治療や投薬は受けられなくなるのか?そうなると自分の死は近いと言う事か。


 どんな環境で過ごさなきゃいけないんだろう。ネットは当然無いよねぇ……。ゲーム機を持って行ってもしょうがないか。


 病院の入院患者はどうなったのだろう。どんな収容のされ方をするか心配だ。患者の今後も気掛かりでならない。


……様々な人達の行動が今後どうなるのだろうか……。











 





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