第二章

第ニ章


 「そろそろ196の中心地は片付く。諸君には歓迎のスピーチをしてもらう。メッセージの準備はいいかな?……あぁ、君達の中で既に帰る場所が無くなってしまった方がいる様だね。スピーチはその方以外でお願いする。帰る場所が消えてしまった方には残念だが、今ここで消えてもらうとしよう。さぁ、その方は前に。」


 誰も前に出ようとしない。映像が信じられない様子でいる。


 「誰も思い当たらない様なら、地球の言葉で、その国を伝えよう。……イギリス、日本、メキシコ、韓国、インドネシア、トルコ。以上6つ。国土のほとんどが消えてしまったのは、日本、韓国だそうだ。小さい島だそうだな。さぁ代表は前に出なさい。」


 膝をガクガク震わせながら、名指しされた首脳6人が前に出た。


 部屋が一瞬まばゆく光りながら、その6人は消滅した。

 愕然とする残りの首脳達。


 また声がする。

「帰る場所が消えてしまったんだ。当然ここに居ても役に立たんだろう。誰に宛てる言葉も無く、届きもしない。消えても差し支え無いのではと思うがどうかね?……さて、残った14人の皆さん。盛大なる歓迎スピーチの時間がやってまいりました。代表で1人がメッセージを伝えるのか、それぞれ1人づつが好きな事を伝えるのか。直ぐに決めなさい。」


 目の前で一瞬にして消えてしまった6人の事が信じられない様子だったが、小声で何やら話し込んでいた。


 恐怖のあまり、声が上擦うわずって話になっていない。ただただ震えてお互いを見ているだけだった。


 しばらくの時間が過ぎただろうか。シビレを切らして声が聞こえてきた。

「いい加減にしたまえ。もう君達の未来は決まっている。外へ出るか居残るかだ。我々にはどんな抵抗も出来ない、出来る技術力が無いだろう。我々に言われる通り、従うしかないのだよ。完璧にスピーチを終える為に1つ教えておこう。1度しか言わない。頭に叩き込め!……我々はマークロン星団に有る惑星ジャミールの有能なる生命体だ。君達の地球からどれ位離れているかなど知らん。だが君達の時計なる物で2時間も有れば辿り着く。……ん?……うむ。そうか。……いや、失礼した。どうやら予定よりも人間が消えてしまった様だ。これは我らの手違いだった。だがまだ君達地球の数字で30億人程が生存しているそうだ、安心したまえ。予定では35億人を外に出してもらうつもりだったが、これは我々にも好都合。それでも変わらず地球には1千万人を残して外に出てもらう。我々が地球に向かわせる自立移動の星にはそれぞれ1千万人ずつ入って移住先を探す事になる。これをしっかり伝えたまえ。」


 首脳の1人が速記でメモをとっている。


 更に続けて聞こえている。

「君達に差し上げるのは、小さな移動体だ。人間が1千万、十分に過ごせる。これは地上に住まう場所ではない。内部に十分な設備が有る。内部には支障無く取り込んでやる。どの人間がどの役割をするかは我々は関知しない。好きに振る舞えばいい。そこでは言語には困らない、機械的操作にも困らない。言葉だけで十分過ごしていける。新たな基盤作りは人間達次第。環境に甘んじては移動体諸共もろとも直ぐほろんでしまうのを忘れるな。気を緩めていれば、何処かの恒星に吸い込まれてしまうぞ、小さいからな。」


 1人が口を開いた。

 ここの外はどうなっているのか知りたいむねを伝えた。


 「ほお知りたいか。よろしい、映像をお目にかける。」

 映像が映し出される。


 「ここ惑星ジャミールは地球とほぼ同じ大きさ。映像はジャミールの中心地、ギルバインの都市の様子だ。この惑星の重力はコントロールされている。生命体も素晴らしい進化をげているんだ。地球の君達も、今に甘んずる事なくこの様な進化を遂げるべきである。進化にも様々現れようが、それも我々は関知しない。……さぁ、地球へは誰がメッセージを送る?ここで叫べば地球全土に伝わる様にしよう。今、移動の為の構造物を送った。地球の時計で言う2時間後。強制的に1千万人ずつ収容して外に出る。誰が何処に収容になるかまでは関知しない。」




 1人が大声で伝える事になった。

 2時間後には1千万人ずつ収容され、移住先を探して地球の外に出る事。身分も人種も関係無く収容される事。一刻も早く移住先を探し当てる事。新たな人間の進化を求めて過ごす事。


 地球上では、映像、音声、ネット環境下で伝えられた。

おそらくパニックになっているものと考えられる。


 地球の大抵の人間は居残りを考えているだろう。何せ今に甘んじて過ごしている者達ばかりなのだから。


 だがジャミール人は強制的に収容だと言った。


 収容された人間同士、協調性に欠けるのは明らか。直ぐに生死を賭けて争う事になるかもしれない。

 これは有って当然だ。何かと言うと直ぐに略奪だの独り占めだのが始まる生き物なのだ。1千万人の内、日々人口減少を辿たどる事態になろう事は予測がつく。


 地球に残った人間にも同様の事が始まるに違いない。


 例えばだ。今以上に、より平和な過ごし方が出来る様になったとする。ジャミール人の言う『我々の様な進化を遂げろ』とはどう言う事なのか?

 2万年掛けてようやく生命の頂点に君臨した人間。この先どう進化していけば良いか、今の人間にその術は持ち合わせていない。実際、進化はあるのだろうか……。


 天井からまた声が聞こえてきた。

「代表でメッセージを送ってもらった。これは地球全土に届いている。君達には一旦元の場所に戻ってもらう。国の主導者を続けるのか、また放棄するのか。それは君達の自由だ。正しい秩序を作り上げなければ、この先の未来は無いと思いたまえ。」


 ここで1人が疑問を投げかけた。

 これからの人間の進化とは何かを……。


 「進化を遂げて、今の君達でなくなることだ。一体何を望んで進化とする?例えば何であるのか伝えてみなさい。」


 人間の今と改善点を伝え、進化によって改善するかを問うた。

どういう工程を経て次の進化をするのか知りたかった。


 「植物の様になったらどうだ?……恒星の近くで過ごしていれば身体に支障は無いが?……それとも鉱物の様になって丈夫な身体になっても良いな。……水ばかり必要にならないとするならどうだ?取り入れるものが少なくなれば余分な物は要らなくなるが?……人間同士が争う事も無く平穏な日々を暮らせる様、脳を変えられたらどうだね?……そこまでの進化はそう簡単では無いのだよ諸君。こんな事を聞いただけでは進化は遂げられない。我々には多くの犠牲もあった。おっといけない。犠牲ではない、奉仕が有った。だから今のジャミール人が有る。……我々は元々、惑星ジャミールを居住地としてはいなかった。ようやく手に入れた惑星にジャミールと名付けて過ごし始めただけだ。それも更地さらちの惑星をここまでにしてきた。君達も無事に素晴らしい進化を遂げたなら、我々としても手を貸した甲斐があるというもの。それはジャミール人の楽しみでも有る。惑星ジャミール中が地球の事態を理解しているからな。……さぁ、そろそろ君達には地球に戻ってもらう。……ん?……うむ。……何と!……それはそれは、いけませんねぇ……。」


 ジャミール人同士で何か話している様だった。


「地球人諸君。残念なお知らせだ。今、地球の幾つかの場所では人間同士の争いが始まった様だ。そして略奪行為。殺人。……地球人とはこんなにも愚かな生命体だったのか……。少しショックだな。」


 その後は天井からの声は無くなった。


10分程経っただろうか。


 ようやく声が戻ってきた。

「今、地球の5つの国ではひどい事になっている。申し訳ないが、移住の為の星に移って欲しくない人間達の様だ。この人間達は消させてもらう。壁の映像を良く脳裏に刻んでおく事だ。」


 映像には国土面積らしき広さにまばゆい光が届くと、その後には赤茶けた大地のみ残されていた。あらゆる物が消し去られたのだった。当然該当する人間は消滅してしまった。


 再び声がする。

「残念ついでに、消し去った国とやらをこれから調べる。もし、君達の国であったなら……該当する貴兄きけいはやはり消えてもらわねばならない。30億人から更にまた減ってしまったが、これは仕方があるまい。地球人の悪い癖のしでかした汚点だ。」

声はまた切れた。


 ジャミール人が移住用の構造物を向かわせてから50分程経過しただろう。

 その構造物に収容する人間も減ってしまった。既に地球上の人口の過半数は消し去られたと見ていいのだった。




「お知らせしよう。先の君達の国を。ドイツ、中国、インド、ブラジル、EUの一部2国は消させてもらった。ここに居る君達の国であるなら前へ。」


 抵抗する首脳5人。

 あからさまにどの首脳の国かが分かってしまう程の醜態しゅうたいさらした。


 「その者達だな。ふっ、なんだその態度は?せっかく話が出来たのに残念だよ。」

言うなり部屋が眩く光り、その5人は消えていた。


 「どうして地球の人間はこうも愚かなんだ?未来を見据えて過ごしているとばかり思っていたが、非常にショック、残念で仕方がない。……どうする?もう一度メッセージを伝えるか?……どうやら地球の人間には全く伝わっていない気がするが、どうだ?」


 もう誰も何も言わなかった。


 「2万年も掛けて進化したのだろうに、間違った進化を遂げてしまったのだな。その責任は一体誰に有ると思う?。君達地球人に他ならないであろう。……我々が移住に手を貸すのも半減してしまった。既に残りの人間は7億程だそうだよ。本当に申し訳ない事をしたね諸君。こんな事を続けたら、人間達はいなくなってしまうな。だが地球の時間であと1時間程で到着する。1千万人単位は変わらない。強制的に収容だ。それまでに何事も起こらなければ、君達も消されずに済むし、平穏な日々を暮らせよう。但し、もう間も無くの間に何事も無ければの話だ。」


 残る9人の首脳陣は祈るばかりだった。

祈るのも当然。また何か起こったならば、その国の国土、そしてここにいる代表首脳は消されてしまうのだから。


 祈るばかりの首脳陣9人。再び天井から声が聞こえてきた。


 「君達人間には失望したよ。この後に及んで、協力しようとせず、兵器を持ち出して、他の人間に危害を加えようとしている国が有るとの事だ。……アメリカ、フランス、ロシアの諸君。情けないな。同じ人間を兵器を持って屈服くっぷくさせようとするとはな。」


 3国の首脳は動揺を隠せない。逃げ出したくても何処にも逃げられない。……このまま消される。


 「ほう。皆広い国土面積の様だな。今の様子から察するに、もう統一は図られてはいまい。勝手に軍人が兵器を持ち出すのだからな。ふふふ、笑うに笑えん。……さてどうしたものか。厄介者のいる場所だけ消し去るか、それとも国土全てを消し去るか。人間の減り具合を検討してからにする。」

そう言って声は消えた。


 3国の首脳は何も語らず、顔を見合わせているだけ。

 私は何も指示していないとでも言わんばかりな顔をしていた。

 3国それぞれの首脳は離れた壁にもたれかかっている。


それを遠目に見ている他の6人。他人事ではない事は十分分かっているのだろう。通じもしないと分かっていながらスマートフォンを手にしてみたり、メモに何やら書き込んでいたりしている。


 天井から声が聞こえてきた。既に残りの9人は声がすると硬直し怯える様になった。


「お待たせしたね諸君。……検討の結果、兵器を持ち出した厄介者だけ処分する事になった。その為、建物にはそう被害は及ばないので安心したまえ。但しここの3人にはその責任は取ってもらう。今すぐ消えてくれ。」


すぐさま3人は光に包まれながら消えていった。


 「残る6人にはすまなかったが、これから厄介者の処分映像をご覧いただく。我々が、ここまでピンポイントでも消し去る技術が有るのだと認識して欲しい。……よく今まで何もせずに観察を続けてきたなと感じる事だろう。」


 壁に映像が流れている。3国の軍事基地や関連設備、艦船や航空機に陸上兵器。全てが一瞬の内に消えて無くなった。


 「残った6人の諸君は晴れて地球へ戻してあげよう。だが既に君達に従う人間は居ないと思った方がいい。新たなルールを作り過ごさなければならない。今の地球の生存者は3億人を切っているそうだよ。……さぁ、お帰り願おうか。帰ったら、2億9千万を選ぶか1千万を選ぶか。慎重に検討しなさい。」

言うと声は切れ、残された6人も居なくなった。












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