第5話 鬱金香の話 高校生時代

彼女は人との関わりを避ける道を選んだ。自身の心を守る為に。

彼女の周りはその選択を批判する者達で溢れかえっていた。教師と親族だ。親族からは会う度にクレームの嵐だった。両親にも何故だ??と度々責められた。

彼女はその光景を懐かしいと思っていた。久々に聞こえる暴言たち、睨んで血走った目でこちらを見る人。

なにもかもが懐かしかったのだ。数年ぶりに浴びる狂気にも彼女は動じなかった。

懐かしさに浸りながらもフラッシュバックで脳内は埋め尽くされていたし、適当に口に出したみたいな大人たちの狂気など視界にすら無かった。

少し面白いとすら思った。アニメや漫画、小説でしか聞いたことが無いセリフを両親が本当に口に出した時には、ついにどこかおかしくなったかと言葉を失ったが、そう思っていたのが今までの言動に現れていたなと酷く納得した。

彼女は何を言われても自身の胸の内を話さない程度で筋の通った話をしたから、受験の時が迫ると大人たちは諦め、口を揃えて失望したと嘆いた。

期待がかかっていたのは彼女自身も分かっていた。そりゃ、親戚に東大に行けると言われけれど学費の為に県の大学に行った、絵に描いたような出来た人間が身近に居れば年齢的に次は彼女の番だろう。

彼女は成績もいい方だったし県立の中のトップの高校にいける学力もあったから尚更だ。

それでも彼女は保守を選んだ。これが良い選択なのかと言われれば分からないが、少なくとも彼女自身の学校面での安寧は保証されたのだ。

学校生活は大して苦になるものも無く静かに過ぎた。

家庭の話をすれば長くなりそうなのでやめておくが、皆さんのお察しの通りだ。

彼女は今まで通り独りで考え悩みながらも、受験前に思い描いた通りに生活していた。


高校3年生の春までは。



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