第4話 鬱金香の話 中学生時代

彼女は今までとガラッと雰囲気を変えた。いわゆる○○デビューというやつだ。

表舞台にはほとんど出ないようになった。けれど思い通りになるように裏で誘導したりすることは欠かさずに。

ある程度彼女自身も自分の限界に気付いていたのかもしれない。人と関わるだけで無理は要するのだが、それ以外は極力省き、本好きなキャラだけでやっていこうと決めた。本好きが定着すれば人とあまり関わらなくても違和感もない。けれど他力本願過ぎると面倒事を回されるのでそこは軽く覆せるようにある程度の人脈は作った。


彼女は中学校に入ると同時に、違和感と自分と周りの違いを身に余るほど実感した。

日常と化していた暴力暴言は勿論“普通”では無くて、お互いが常識を持って対応していた。その差と、何事も無く過ぎ去る日々に彼女の虚勢は静かに崩れていった。まぁ、崩れると言えど周りにはバレたりはしなかった訳だが。内心的には限界を感じていた。

自己暗示が氷のように溶けたのだ。あれ…?という、一瞬抱いてしまった疑問のせいで。

彼女は崩れた、笑った。やはり笑うしか出来ないのだと悟った。自己暗示が溶けて消えようとこれ以外はやりようが無いのだ。知らないのだ。酷いやり方しか知らぬのに“普通”にならなければいけない、それが強く根付いていて、それ以外の方法は見えないのだ。

勿論、彼女も馬鹿では無いから理屈の上では分かっているのだ、理解しているのだ。他のやり方の方が良いと。けれど初めて理屈ではどうにもならなかった。

彼女は本心すら分からずどれが私だ?となる日々が続いた。気付けば小学3年生の時の彼らはトラウマとなり強く刻まれていた。

彼女はきっと未だに後悔しているであろう。

自覚した過去の自分を。

自覚さえしなければ苦しいとも思わなかった、普通だ、これはよくある事だ、それで済まされていたことなのに。

幻覚、幻聴、フラッシュバック、彼女は精神的にはもう崩れ倒れ、もしかしたら死んでいたかもしれない。

真相はもう分からぬが彼女は事あるごとに知識人達から精神障害を疑われていたから、相当疲弊していたのだろう。

そんな時ですら彼女はにっこりと不気味な程に笑みを返していたが。


そんなこんなで、大して特筆すべきことも無く3年間は過ぎた。彼女の中では過去は全て無かった事になっているらしい。

心の奥底の井戸の奥に放り込んだ、と。


春になるにはもう暫くかかる。

彼女の井戸は過去を消し、彼女は自身を知った。

本心すら分からぬまま、次へ進む。




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