第2話 鬱金香の話 小学生時代 前編

よく笑い、よく遊ぶ、明るく活発的な少女だったと彼女の当時を知る人は口を揃えて言った。

暇があれば本を読んでいたが、それはただ他と関わるのが面倒臭かっただけで特別好きという訳では無かった。どちらかと言うと遊ぶのは嫌いではなかったと思う。誘われるととりあえず付いて行っていた。

友達出来た?と親が毎日のように言うものだから作らなければならないものなんだと思い断ることをせず人と関わることを選んでいた。

正直面倒臭いと思うことも多かった。けれど学校の勉強は授業さえ聞いていれば分かるし、やりたいことも特に無かったし、なにより他の子と遊んでいると大人が喜んでいた。友達と遊んでるの〜楽しそうねと声を掛けてくる大人もいた。ただ遊ぶだけが友達なら誰とでも友達なのではないかと思ったりもした。

そんな風に当たり障りもなく生活していたように思うのだが、そんなに人間は簡単ではなかった。

小学3年生のある日突然、クラスメイトの3人から「男子の仇だー!」と言われ殴られ蹴られ、暴言を吐かれの日々が始まった。

全くもって心当たりが無いのが未だに不思議でならない。人並みにしか男子と接する場面も無かったし女子と同じように接していたし。

ここで彼女は図書室へ通い始める。ここではあいつらは大声を出せないし乱暴も出来ないからだ。いつも図書室の真ん中の、司書さんからよく見える位置に座った。いつの間にか特等席のようになっていた。

彼女は友達とよく遊ぶ活発な少女から、本をよく読む知的な少女へ変わった。

知的という言葉がこの学年の少女に合うかは定かではないが、小学校低学年で赤川次郎やコナン・ドイルを読み漁る少女は大人たちには知的に見えたのだろう。

けれど彼女は今までのキャラクターがあるからと言わんばかりに、遊びに誘われたら断ることは無かった。どれだけ続きが読みたくとも、司書の先生と話すのが好きであろうと断ることはしなかった。

同級生の間では、殴られても平気と笑う、本が好きな少女、強い少女と言うイメージがついた。


この時点で幼少期から崩れかけていた彼女の心はきっと粉々だった。言わずもがなという感じではあるが、いじめへの大人の対応は酷いものだった。対応なんて存在しなかった。

彼女は外の世界を知らなさすぎた。いじめだということにも気付かず、自分の知らない欠点があるのだろうと思い込んでいた。

彼女はここで憎しみと恨みの元を得たのだ。春になるきっかけとでも言うべきだろうか。

神はきっとここから春になる素質を見抜いていたのだろう。

彼女の小学校時代は違和感の塊でしかないが良ければ春になる前の彼女をもう少し知って頂けないだろうか。鬱金香の命が散る前を。


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