花の世界

獅子月 シモツキ

第1話 鬱金香の話 幼少期

産まれた時はとても喜ばれた。待望の女の子だったから。

彼女はあまり外の世界と触れずに幼少期を過ごした。兄弟が産まれることもあり、保育園・幼稚園に預けられることはほとんどなく父方の祖母の家、母方の祖母の家、家の3つで幼少期は構成されていた。

公園などへは行くも、同年代はほとんどが保育園・ 幼稚園通いな為、基本はひとり遊びだった。

一番下の子が産まれる頃、保育園へ通い始めた。そこは小さいけれど対人関係がしっかりした保育園だった。

だが彼女は変わり者と影で大人たちに囁かれる少女だった。大人と関わることばかりだった少女は同年代の子と同じようにはしゃいだりすることが少なかったのだ。だからといって、特別落ち着きがある訳でもなかったから大人の言葉が理解出来すぎる子供、そのような感じだった。

皆と歌うことの意味が分からなかった。そんなことをするくらいなら本を読む方が楽しい。そんな風に思うばかりで、集団行動が苦手だった。

1年にも満たない保育園生活は最初から最後まであまり代わり映えしないものだった。

1つ変わったとすれば、彼女は大人の反応を伺ってどうすればいいのかをなんとなく理解できるようになったという所だろうか。今までは失敗から学ぶという事ばかりだった少女は、こっちの方が大人が笑うかも、褒めてもらえるかもという思考で瞬時に判断し行動するようになった。


まだまだここでは、春になる兆しはあまり無い。

深い憎しみを抱く相手も愛情を抱く相手も存在しなかったから。

彼女が春になることがおおよそ決まるのは次の話である。

鬱金香のような、キラキラした鮮やかな花が心に咲いていた期間は本当に極僅かの時間だったのだ。


けれど彼女は次の話では今回の数百倍、数万倍笑顔を見せる。わざと、とでも言わんばかりに。




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