第5話 超体育会系上司④

「なんですかあれ!?」

 山県が去った後、グループメンバーで明日からどうするかを打ち合わせする場で山崎は感情そのままに言った。

「今まで問題無かったし、群馬地区はそこまで朝一で連絡するような顧客も無いし、朝早く来ても何かメリットがあるように思えない」「てか当番で7時に来るのがかなりきついわ」

 他メンバーも口々に発言している。表情と言葉からは不満が十分過ぎるほど見て取れる。


 春も個人感情的には反対ではあるが、優等生的な回答をした。

「まー全然納得は出来て無いけど、良い面もあるから、まずはやってみるか。とりあえず今週は俺がやってみるのと、さすがに7時からの当番制は辞めてもらうよう相談するよ。」

 春の話でメンバーは渋々納得し、業務に戻ることになった。

 みんなが会議室から出て行くと、山崎が近寄ってきて、「西島さん昼ご飯行きましょうね!!」と怒気を含んだ顔で言ってきた。


 その日の昼休み、春は山崎と昼前に出社してきた伊達をつれて、近くのイタリアンでパスタを食べに来た。この手の店に来れば会社のメンバーにはほぼ遭遇しない。


「伊達さん昨日ありがとう。大丈夫だった?」春が聞いた。

「大変でしたよー。あの後結局3時くらいまで飲むことになったんですけど、山県課長の話ばかりですし、面白くは無いですし。西島さん今度おごってくださいね。」

「了解。昨日は助かったよ。ありがとう。そして今度は山崎の番かな?」


「いや、本当ですよ。なんですかあの人!!本当あり得ないですね。なんですかあの一昔前の体育会系みたいなノリ。そして今日飲み会の幹事しないとダメなの?本当分かりません。」

 山崎は不満を爆発させている。

「あーマジガチャ引きたい。というかリセマラしたい。」


「リセマラ?」

 伊達が山崎に聞いた。


「あーそうそう。配属先ガチャ…というか今は上司ガチャがあればリセマラしたいなと。」

「あーそういうことですね。あれば私もやりますね。10連とか無いですかね。」


 同世代の2人なだけあって、話はすぐに通じた。


「まー確かにちょっとひどいよな。そしてお酒好き過ぎだよね。」

 春も同調し、その後も山県課長の話題を中心に話をしながら昼休みは終わった。


 昼休みが終了し、会社に戻る途中春はふと思い出し、山崎に聞いた。

「そういえばこの前飲んだ後の『上司ガチャ』あれ、凄いね。あんなの作れるの?」

「この前はありがとうございました。そういえばあの時もガチャの話とかしてましたよね。で、作れるって?」

 

 山崎は不思議な顔をして、こちらを見ている。

「いや、あの日の夜変なメールが来てリンクを開くと、『上司ガチャ』ってのが出てきたんだけど、あれ山崎でしょ?」

「え、何の話ですか?本当に分からないです。」

 山崎は本当に分かっていないようだった。これが演技ならたいしたものだ。


「え、ちょっと待って。メール見せるから。」

 春はメールを探した何故か見つからない。


「あれ、ごめん。俺が寝ぼけてたかな。確かそこで上司ガチャってのを引いたら、『超体育会系上司 ランクC』ってのが出たんだよね。」

「それまさに課長の事じゃないですか。ランクCのところも含めて。デジャブみたいなものじゃないですか?」

 山崎は笑いながら、そんな話をして、席に戻っていった。

 

 ----その日の午後、春は山県に叱責されていた。

「えっ、なんで!?指示が聞けないの?」

「いや、そういう訳ではないのですが、現状群馬支社では朝一緊急対応を求めるお客様もいらっしゃいませんので、全社方針も考えると、少しでも業務のスリム化をしたほうが良いかと思ったのでご相談です。8時からのミーティングは開催いたしますが、7時から当番が資料などを準備するのは印刷せずとも、データで代用出来るのでは無いかと思いまして。」

「いや、まず答えて。指示が聞けないの?」


 元々声が大きい山県である。声は事務所内に響き渡っており、山崎や伊達も心配そうな顔をしている。

 人によってはパワハラと捉える人もいるだろうか。しかし、春は続けた。


「聞けないという話ではないですが、群馬支社の現状を踏まえて、メンバーで検討した結果をご報告・ご相談してます。」

「分かったよ。とりあえずまずはそれで始めてみて。ダメならすぐ変えるから。あと業務指示に従わないって事については評価十分覚悟しておいてね。」

 

 全然納得はしていないようだが、なんとか山県の了解を得ることが出来た。周りを見るとちょうど、野原が外出先から帰ってくるタイミングだったので、これもあったのかもしれない。


(しかし、うちの会社の上司はすぐ評価の話を出すな。)

 そんな感想を持ちながら、春が業務に戻ると、栄養ドリンクを持った山崎が近づいてきて、「お疲れさまです。」と一声かけてきた。

 表情を見ると、怒りと申し訳なさを持っているようだった。


「本当なんとかならないですかね。きっとあれ支社長が戻ってこないと絶対納得しなかったですよ。」

 やはり、山崎も同じ感想だった。


「そうだよなー。どこかで野原支社長に相談してみるよ。そういえば飲み会の幹事はどうするの?」

「いや、それなんですけど…。。。今日荒井課長来るので、『今日は野原支社長と山県課長と荒井課長でいったらどうですか?』という感じで言ってみようと思ってます。多分みんなも今は山県課長と飲みたい感じじゃないと思うので。」

「なるほど。良い案かもしれないね。支社長はどちらかというと、少ない人数が好きだから、うまく誘導出来るかもね。」


 ----結局その日は山崎のもくろみ通り、野原、山県、荒井の3人で飲みに行くこととなり、春も業務が終わった後、普通に帰宅することになった。

 いつもの通り、家でハイボールを飲んでいたが、考えるのはやはり仕事の事ばかりだった。

(こんなことで本当これからうまくいくのだろうか。。。)


 お酒の力と仕事の疲れもあり、ウトウトしていると、「ピロン♪」と音がして、スマホが鳴った。

「あれ、また『上司ガチャ』のメールがきた。」

 前と同じようにURLをクリックすると、画面上には前回同様昔ながらのガチャガチャをアニメ化した画像と「クリックしてください」の文字が表示されていた。


(やっぱり来てる。。。)春は今日の山崎との話を思い出し、少し不思議な気持ちになりながら、画面をクリックしてみた。すると、前回同様ハンドルが回転し、カプセルが出てきた。

 カプセルをクリックすると眼鏡をかけた男性キャラクターが描かれたカードが表示された。カードの下には「ギラギラ上司 ランクC」と記載されていた。


 春は「またランクCか。俺引き弱いな。。」と変な感想を持ちながら、睡魔に負け、眠りについてしまったのだった。

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