第3話 超体育会系上司②
「かんぱーい!」
春が主催した(?)山県の懇親会である。春はそれなりに人望もある。それもあって、急にも関わらず、山県が指定した「4人以上」より大幅に多い11人が集まる宴会になった。支社長の野原はいないが、営業グループのメンバーも参加している。
支社のおじさんキラー担当女性社員「伊達あゆみ(27)」も参加してくれ、山県の隣に座ってくれたので、山県の機嫌はすこぶる良好だ。
結局春は仕事を一時中断して懇親会に参加した。普通なら断るところだが、異動してきた上司の最初の依頼であるので、無理矢理調整したのだ。ただし、家での晩酌含めて毎日飲んでいるくらいお酒自体は大好きであるが、さすがに今日は仕事が気になり、セーブしながら飲んでいた。
「いやー、急に悪いねみんな!仕事は大丈夫?急だから調整大変だったんじゃない?伊達ちゃんは大丈夫だった?」
「いや、大丈夫ですよ!今日は楽しいです♪」さすが「おじさんキラー」という対応で伊達がすぐ反応し、山県は更に上機嫌になる。
(ん?あんなに強引にしたがってたのによく言うよ。そして心配相手は伊達さんかよ。)
他のメンバーは細かい経緯を知らない。しかし、唯一経緯を知ってる春は山県が軽く言ったこのような発言がどうしても腑に落ちず、モヤモヤした感情を持っていた。もちろん今日のお酒は美味しくない。
しかし、飲み会とは不思議なもので、ある程度の人数が集まると勝手に盛り上がる。今日のように主役が上機嫌だと尚更だ。そのため春の感情とは関係なく、懇親会自体は大いに盛り上がった。
そんな状況の中、2時間が経過し、そろそろ会を閉めようと春が考えてると、不意に山県がいつも通りの大声で話し出した。
「みんな今日はありがとう! 茨城支社をより良くするために定期的にこんな会が出来るといいね!」
普通であれば特に気にならないような話ではあるが、本日の経緯を考えると「定期的」という言葉に対し、春は少しばかり不安な気持ちになった。
山県は続けて言った。
「一軒目はそろそろ時間みたいなんで、いったん締めようか!」
自分の懇親会を自分で締める人間を春は初めて見た。そして「一軒目は」という言い方も気になった。ただ確かに時間的にはそろそろ…という時間だったので、この流れを逃さず締めに入ることにした。
「はーい、じゃあそろそろ時間もあるので締めたいと思います。今日は皆さんありがとうございました。そして山県課長これからよろしくお願いします。元々別で歓送迎会を考えてたのですが、今日は先行して懇親会をさせていただきました。とても楽しい会でした、ありがとうございました!! では、今後の『山県課長よろしくお願いします!』という気持ちを込めて、関東一本締めで締めたいと思います。皆様お手を拝借。よー……」
「パン」
「パチパチパチパチパチパチパチパチ」
色々気になるところはあったが、なんとか時間通りに宴会を締めることができ、まずは安堵した。
お会計は山県を除いたメンバーで割り勘だ。
お会計の前に忘れ物チェックをしてると伊達が近くに来て「西島さん、忘れ物チェック私がやっておきますよ!」と言ってくれた。
「おー、ありがとう! じゃあお会計してくるからお願い!」
「西島さんこれから仕事戻るんですか?」
「そうだね。さすがに資料作らなくちゃいけなくて。。。そのためにお酒もセーブしてほぼ飲んでないし、少しやってくるよ!」
「山県課長次に行く気マンマンでしたけど、大丈夫ですかね?」
「そうだね。ちょっと心配だけど元々言ってたからね。」
そんなやりとりをした後、お会計を済まして、外に出ると店の前にみんながたむろしていた。時間はまだ20時。普段ならまだまだ2軒目に突撃する時間だ。
しかし、今日は仕事があり、少なくとも春はこのタイミングで抜ける必要がある。そのため、「1度解散して、後は有志で…」という流れに持っていこうとしてると、
「よし!じゃあ2軒目いこう!西島、店はどうする?」と先に山県が言い出した。
(おっ、また変な事言ってる…)
そんな感情を抱きつつも春は極力柔らかいニュアンスで言った。
「山県課長お話した通り、どうしても仕事があるので、今日は引き上げます。次行ける方達で楽しんでください。」
しかし山県は引き下がらない。
「いや、まだ早いし次行こうよ! 営業グループの人も来てくれてるんだし、行こうよ! やっぱリーダーは来てくれないと。店どうする?」
(なんだこの人は。。。)
ずっと引っ掛かりは感じていたものの、ここで引っ掛かりは純粋な嫌悪感に変わった。
(本当自己中過ぎる)
他のメンバーの状況を見ると、まだ飲みたい人もいそうだが、帰りたそうな人もいるように見えた。
そのため、やはり有志で2次会に行くのが良さそうに見えた。
ここまでは新しい上司に気を使っていたが、元来春は短期な性格である。今日1日ずっと腑に落ちなかったところも含めて、多少なりとも思いをぶつけようとした時、
「山県課長!急だったんで今日は行きたい人だけ2次会に行く形にして、みんなで行くのは今度にしましょう!」と伊達が言ってくれた。
すると山県は急に態度を変え、
「まーそうだな。伊達さんどこか店案内してくれる?」と言い出し、結局有志だけで2次会に行くことになった。
--結局2次会には山県含めて4人のメンバーのみが参加することになり、春は仕事に戻ることが出来た。
春は事情を知ってる伊達のフォローのお陰で無事仕事に戻ることができた形になった。
伊達と春はよく一緒に仕事をすることもあり、先輩後輩という垣根を越えて仲が良く、山崎含めて3人で飲みに行ったり、時には2人でも仕事終わりに飲みに行くような間柄だった。
そのため、おそらく春の事情と短気な性格を考慮して、切り出してくれたのだ。
(今日は後輩に借りが出来たな。でも雰囲気も悪くならず終われたこともあり、正直助かった。山県課長には腹が立ったけど、まずは伊達さんに感謝だな。)
こうしてモヤモヤした感情と後輩への感謝の気持ちを持ち、山県の懇親会は終わったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます