第2話 超体育会系上司①
山崎と飲んだ翌日、春はいつもと同じように業務開始の9時ギリギリに出社した。
山崎は今日代休をとっているはずだが、春は朝からたまっている事務処理をしようと思っていた。
「おはよう!」
春は挨拶を大事にしている。仕事が出来るかどうかと挨拶を大事にするかは関連性があるとさえ思っている。
「おはようございます!」IT企業ならではのやる気の無い挨拶から若手の元気な挨拶まで様々なトーンの挨拶が返ってくる。
ここまではいつもの光景だが、1人だけ見慣れない人物の姿が見える。
「おはよう!」
その人物はがっちりとした体格そのままに会社全体に響き渡るほど大きな声で挨拶をしてきた。
年齢は40代半ばから後半。
朝から他部署の来客かと思ってその時は深くまで気にしていなかった。
9時になり朝礼が始まると支社長の野原が話を始めた。
「皆さん、突然ですが他支社のプロジェクトの関係もあり、荒井課長が異動することになりました。そして後任として今日から
突然の異動に支社内はざわつきを抑えられない。
春も頭を整理できずぼーっと話を聞いている。
「では山県課長挨拶をお願いします。」
野原が言うと、山県が前に出て話を始めた。
「今日から群馬支社に配属となりました山県です。私はとにかく元気がモットーなので、元気を持ってみんなで頑張りましょう!よろしくお願いします!」
パチパチパチパチ。
戸惑いながらも支社のメンバーが拍手をする。
「荒井課長も今日は新しい職場であいさつをしてます。引き継ぎとかもあると思うけど、西島君フォローをよろしく!」
野原の言葉で全体朝礼は終了した。
全体朝礼後は各グループごとにミーティングを実施する。営業グループは支店長の野原が管理し、エンジニアグループは荒井と春が管理していた。……もちろん今まではだが。
山県が近づいて春に話しかける。
「これからグループミーティングだよね!」
相変わらずの大きな声で春に問いかける。
「そうです。山県課長も参加されますよね?」
勢いからして参加するのは間違い無かったが、春は念の為聞いた。
「もちろん!早くみんなと打ち解けたいからね!今日のグループミーティングはちょっと僕からも話をさせてよ!!」
「分かりました。」
山県に返事をすると春はいつもの調子でグループミーティングを始めた。
「おはようございます。じゃあグループミーティングを開始します。今日は山崎が休みだね。えーと、ホントならいつも通り昨日の振り返りと本日の予定をやるんだけど今日は山県課長から話をいただこうと思います。山県課長お願いします。」
エンジニアグループのメンバーは春以外に6人。ほとんどが春より年上だ。しかし年上年下関係なく、いつも和気あいあいとしている。
そのメンバーに山県が話しかけた。
「改めて皆さんおはようございます! 今日からこちらでお世話になる山県です! 何か相談事があればなんでも言ってください! そして早くこの支社の一員になれるよう頑張っていきたいと思います。皆さんと早く仲良くなりたいので、早めに懇親会も設定したいと思います!」
山県の挨拶が終わった後、春は簡単に事務連絡だけを伝えてグループ会を終了した。
本日は翌週の提案に向け資料を作成する予定なのだ。早速資料に取り掛かろうとパソコンでデータを呼び出していたところ、山県が近づいてきて、「西島ちょっと時間ある?会議室でミーティングしよう。」と言ってきた。
正直避けたいところではあるが新任の上司がおそらくグループの話などを確認するであろうミーティングなので無下にも出来ない。
「分かりました。」春はそう返事をすると、会議室に向かった。
「西島、早速だが今日は何時に仕事終わる?」
山県は突然聞いてきた。そして山県がいきなり呼び捨てで呼ぶタイプであることも理解した。
「今日は提案資料の作成があり、おそらく20時に終わるかどうかくらいだと思います。どうかしましたか?」
春が返答すると山県は「さっき話した懇親会の件、今日は全員じゃなくてもいいから、18時くらいからやろうよ!」
「えっ、懇親会ですか?」
返事として不適切ではあるが、春はあまりの驚きにそのまま返してしまった。
流れからすると完全に業務の引き継ぎの話と思っていたからだ。
「そう。懇親会。18時からだからそれまでに仕事終わらせてよ!西島は必須だから」
「いや、今日はさすがに終わらないので別の日にしませんか?」
翌週の提案は春が1年越しに手掛けた案件で、最終チェックまで念入りにしたい。というかそもそも部下の予定を無視した懇親会になんの意味があるのか。戸惑いと若干の怒りを滲ませながら春は答えた。
「分かった。」
(良かった。分かってくれたか。)春は一安心した。しかし……
「じゃあ西島は一度中断して18時に参加して!懇親会終わったら仕事戻りなよ! メンバーは4人以上なら誰でも良いから集めておいて! じゃあよろしく!」
ツッコミどころが多すぎて反応が遅れた春を会議室に残し、山県は席を外したのだった。
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