第8話 「立ち向かう」

街を後にしてからおおよそ三分くらいで洞窟に辿り着いた。機敏性にポイントを振ったおかげで想像以上に速く走ることができたのだ

洞窟の入口付近には、時間が経過したためか倒した敵が再度湧き出している。


ゾンビ系のモンスターが一体と犬のモンスターが二体立ち塞がるようにしている。

向こうもこちらに気づいたらしく戦闘体勢を取っている。しかし、私の足は動きを止めるどころかさらに強く地面を踏みしめて加速する。


こちらが止まると思っていたらしい敵は反応が遅れ、目の前を通り過ぎる突風に吹き飛ばされた。私の目的は優生だ、無駄な戦闘は一切せずにこのまま最下層まで走り抜ける。


洞窟内にも無数のモンスターがいたが、最高速度を放つ私を止められる者は誰もおらず、ただ洞窟内には一閃の光が突き抜けていく

さっきは戦闘をしながら洞窟を潜っていたが

戦闘をしないで走ると思いの外早く進める。


さっきレベル上げをした地点の三層に辿り着いたところで香澄から借りた「猫の目」が下に続く道を示し目を光らせている。


そこには下に続く階段があった

階段目掛けて猛加速すると何かにぶつかり弾かれる。なにかとても大きい物体だった

受身を取って、目の前をみるとそこには

自分の身長の四倍ほど大きいクマのモンスターだった。


《ブラッディングベア》 警戒度:赤

「グルルァァァ!!!」


「っ…!!やるしかないみたいね…!」


〇〇〇〇〇〇


ーー同時刻ーー


餌を食べて食い疲れたのか蛇のモンスターは呆気ないほど早く眠りについてくれた

沼の中で寝ていたらどうしようという心配もあったが、顔だけは上を向いた状態で寝ているので、中に入れればそこは心配しなくて良いだろう。しかしまた別の問題ができてしまった。


というのも蛇はいま自分がいる場所から反対の場所にいて、とてもじゃないけどそこに行く方法が見つからなかった。


そもそもこの安置もやっとの思いで辿り着けた場所なのだ、安易にここを手放せば次こそ取り返しがつかなくなるだろう。

何かボートのような物があれば渡って行けるだろうけど、それこそ大抵の物は毒沼に触れるだけで溶けてしまう。あそこに浮かべても溶けないものなんてそれこそ、あの蛇しか……


いやまて、溶けない物体はあるではないか

やつは蛇型のモンスターなので脱皮をするはず、そしてその脱ぎ捨てた皮ならあるいは…

周囲を見回し、今までより一層注意深く辺りのゴミを注視する


視界は完全に闇に慣れ、落ちている物一つ一つを視認できるほどに見えてきてる

でもまだだめだ、この広いゴミ山の中から目当ての物を探すのは最高難易度のまちがいさがしをしてるようならものだ


意識を研ぎ澄まし、もう一度自分に思い込ませるんだ、これは「ゲーム」なんだと

刹那、変化が起こった。


《「透視」を会得しました。》


集中して見つめると壁がすり抜けて見える

この目ならさらに多くの物を探せるはずだ

意識を集中させると、下に大きくて長い物体が見える。手を突っ込み、引っ張る


ゴミの下敷きになっているのでビクともしない、普通に引っ張っていてはラチがあかない

上のゴミをどかそうにも、次から次にゴミが落ちてくるので意味がない。


現状を打開するため、プロパティを開く

中には今日のレベル上げ中に手に入れたモンスターのドロップアイテムが入っている

しかし見たところ小骨や、動物の毛ばっかでそこら辺に転がっているゴミの山と内容はほぼ同じである。そもそもこのゴミ山は上の階層で倒されたモンスターの残骸が流れてきているので、'ほぼ同じ'なのは当然である。


………ん?ほぼ同じ?

そうだよく見るとここのゴミ山と持っているドロップアイテムは同じ物だ。その事に気が付いたことで、まだ試していなかった思いつきが脳裏に浮かぶ


その思いつきを試すためそこら辺の骨を拾い注視してみると……案の定思っていた通りに


《「骨」を収納しますか》

《認可》← 《拒否》


掴んだ骨は目の前から消えて、確かに自分のプロパティに追加された。

(やっぱり、こっちがアイテムだと意識して見れば収納できるようになっているんだ)

この考え方を元にもう一度蛇の皮を掴み見る


《「オロスナーヂの抜殻」を収納しますか》

《認可》 ← 《拒否》


かくして蛇の皮を手に入れることに成功した

あとはこれを何かに加工すればあの毒沼を渡って、寝ているオロスナーヂに近づける

しかし、どうやってボートを作ればいいのか

例えば、皮の中に何かを詰めて膨らませたらどうだろうか?皮が覆っているので中の物が溶けることはないはず。


問題はそれが浮くのかどうか、見たところ毒沼はさらさらの水とは違い、少しドロドロしている。ならば浮く可能性はある。もうこうなったらやるしかない

プロパティを開き、道中集めていた「魔砂」という黒い砂を持ち合わせる限り、出して

蛇の皮に詰め込む、砂は蛇の顔の方に溜まっていき、砂は中でどんどん増えていく


そうして満タンにしたら尻尾の方を縛って砂が抜けないようにする。見た目はまさに蛇の顔をした浮き輪が完成した

上から押すと、横に広がり、自分が乗れそうな窪みが出来上がる、あとはこれを沼に浮かせて沈まなければ成功だ。


蛇ボートを流れるゴミ山に乗せて、自分もその上に乗っかる

体重を前に寄せた勢いで、ゴミ山を下に滑っていく。傾斜を利用しグングン加速したボートはそのまま沼の上に着水し見事浮いてみせた。まだ残っている余力でオロスナーヂが寝ている方に進んでいく。


毒沼が想像したよりもさらさらしていたおかげで、滑るように目的地に進んでいく。そしてついに目の前に寝ているオロスナーヂの顔が現れた。

遠目から見ても大きかったが、近くでみるとその迫力に圧倒される。昔こういう大きな蛇に襲われる映画をお姉ちゃんと見て泣きついたことを思い出す。

懐かしくも恥ずかしい記憶に寂しさが込み上げ、泣きそうになる。


まだ泣くわけには、いかない

この怪物に立ち向かわなければと決意を固くし……………




「え?」






次の瞬間大きく口を開いた蛇に僕は呑み込まれたのだった。




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