第7話 「まだ諦めない」
宿に弟がいないことを香澄に伝えると、予想を二つ考えてくれた
一つはデスした優生がログアウトし、戻っている可能性。街のどこかにいる可能性は優生がまだ街に慣れていないのでまずないと見た
もう一つは優生はまだデスしていなくて、あの洞窟の中に取り残されているのでは無いかと言う可能性だ。これらを踏まえて私が導き出した答えは一つだ
「洞窟に戻って優生を助ける」
そう言うと香澄は否定した。
「いや、一度ログアウトした方がいいって!それに洞窟に戻ったって優生くんがいるのは恐らく最下層だよ? 勝てっこないって!それなら今度こそ洞窟で優生くんがデスするのを待っ……」
続きを喋ろうとする香澄を睨んだ
確かに優生がログアウトしている可能性を潰すためにも、私が一応ログアウトした方がいいのは分かる。しかしもし洞窟に取り残されていたとしたら、今すぐ行かないと間に合わない。優生がデスするのを待つ?姉が弟の死ぬ時を待てと、黙って見ていろとでも言うのか?そんなこと出来るわけがない。
もし優生がログアウトしているなら、洞窟に行った後に私もログアウトすると言った
「いや、もし行ったってただ負けちゃうだけだ
って…なんでゲームにそこまで……」
「香澄、私たちが姉弟なのはゲームじゃないの、それに姉の気持ちなんて香澄には分からないよ」
酷い言葉を言ってしまった。しかし今は優生以外のことを考える余裕はない。私は急いでコマンドのステータスを開き、ここまで溜めていたステータスポイントを全て機敏性に振る(香澄にはジョブや戦形が決まるまでは溜めておいた方が良いと言われている)
動きを軽くするために装備も全て解く
「ちょっと待って凛!それに洞窟に行ってもどこに優生くんがいるか分かるの?」
「それは……」
「はぁ…高一の時から無鉄砲なんだから」
呆れながら何かを渡される
「猫の目」を譲渡された
「これは?」
「ダンジョンとかの階段や出口が分かるアイテム。レアアイテムだから無くさないでね」
呆れた顔をしながらもその目には信頼の色が映っている。私は少し泣きそうになる
(ありがとう……香澄)
「うん…!さっきはごめん……絶対にゆうくんと一緒に戻ってきて返すから!」
大丈夫…長距離は速いほうだ、あそこまでの距離なら全力で走れば五分もいらない
かつてないほどの自信に背中を押され
私の脚は地面を強烈に蹴った、刹那加速
街が…香澄が…遠ざかっていく
「待っていてね…ゆうくん!」
〇〇〇〇〇〇
安全な場所に辿り着いたおかげで、さっきよりも冷静に周りの状況を判断できた
このエリアは恐らくさっきの蛇の縄張りだろう。こうして上からゴミや死体が落ちてくるのを待って、ゆっくりと溶かしてから食する
そうして今まで長い間生きてきたのだろう
今またドラゴンの死体が転がり、毒沼に溶ける。この場所に辿り着けなければ自分もああなっていたと思うと恐ろしい
そもそもこのゲームで死ぬとどうなるのだろうか? 流石に某人気アニメみたいにゲームの世界で死んだら現実でも死ぬなんてことはないだろうが、壁を登った時の肉体への痛みは本当だった。もし死んだらあれよりも痛いのだろうか。
蛇はあれ以降姿を表さず、ただ淡々と物が溶けていく様を眺めているのだろう
しかしここである疑問が浮かんだ
ここが最下層ならこの洞窟のボスモンスターは誰なんだろう? あの蛇がボスだとしたらどうやって人の前に姿を表すんだろう。もし地上に現れるなら真上の空洞からは出られないから、他の出口から出ていくはずだ。
しかし何度も周りを見渡しても出口なんて見つからない。だとしたら考えられるのは一つ
「沼の……中か…!」
あの蛇は沼の中で暮らしている、いくら餌があるとはいえ、この沼の中に一生いるというのは考えられない。でもだとしてどうやって沼に入る?僕が入ったら間違いなく溶ける。それに僕は一度も泳いだことがないのだ
体が溶けなかったとしても溺れて死ぬ
すると沼の中からまた蛇が現れた。
蛇は何かを探すように辺りを見ている
(こっちには気づいてないな)
すると何やら目当ての物が見つかったらしく、今度は溶かさずに口を開いて飲み込む
(ん!?よく見ると口の中の物が溶けていない)
どうやら物を溶かすのはあいつの胃液だけで、あいつの口の中にいても溶けないらしい
その時、あることを閃いたが"それ"を試すのはあまりにもリスキーだった。
「あいつの口の中に入ろうなんて……」
ここで食事を終えれば、いずれあの蛇も外に出ようとする。その時に口の中で隠れていれば一緒に外に出れるかもしれない。
自分のバイタリティは三分の一しか残っていない。どのみち時間はないんだ。やるしかない。やるならあいつが寝静まった頃、だけど寝る時に沼の中で寝ていたら、この作戦は終わりだ。もはや賭けに近かった。
だけどやるしかない、なんたって僕はお姉ちゃんの弟なんだから。
こうして如月 優生の蛇潜入作戦は決行した
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