第6話 「お姉ちゃんの弟だから」
宿に戻ると急に不安になってきた、優生はまだ自分のことを姉だと思ってくれるだろうか
見損なってはいないだろうか……まだ一緒にあそんでくれるだろうか。
そんな気持ちを感じ取った香澄が背中を叩いてくれた。
「ほら、部屋に行ってきな私はここで待ってるからさ」
そうだ、今はとりあえず優生に謝ろう
自分がどう思われるかなんて二の次だ
意を決し優生が住んでいる宿の部屋に入る
「優生……だいじょ……う」
扉を開け、待っていたのは別の不安だった
優生が……いない
〇〇〇〇〇〇
……………………………………
……………………………………
お姉ちゃんの手を掴めずに落下したあと、柔らかい感触がクッションとなり、ダメージを受けることなく地下に落ちた
辺りは真っ暗な闇が広がり、レベル上げをしていたポイントよりもさらに暗い。
恐らくここが最下層なのだろう
視覚は頼りになろないので、嗅覚と聴覚を研ぎ澄ます、あまり良くない臭いがる、新鮮ではない水の臭いと、嗅いだことのない不快な臭い、それに何か虫が飛び回っている音が聴こえる。
どうしてこんなことになってしまったのか。お姉ちゃん悲しそうな顔してたなぁ
あんな悲しそうな顔をさせてしまったことに深い罪悪感を覚える。それと同時に恐怖も
目が視えなくて良かった、恐らく良くない物の上にいる気がする。
こんなにも姉と離れるのは久しぶりだ
大体どんなときも、呼べばお姉ちゃんは来てくれて、手を握ってくれるから。
さっきだって、凄い速さで助けようとしてくれた。とめどない不安に泣きそうになる
自分はなんて情けないんだろう。いつも姉の後ろについて回り、助けてもらうばかり
宝石を見つけた時、お姉ちゃんにプレゼントできると思って嬉しかった。
だけどまさかこんなことになるなんて
結局お姉ちゃんに迷惑をかけてしまった。いやそもそもお姉ちゃんは香澄さんとゲームをしたかったんじゃないだろうか? それなのにゲームの中まで邪魔な弟が着いてきて迷惑してなかっただろうか?
いや、姉はそんなことを思わない。
自分のことを全て犠牲にして、弟のことを考えているあの姉がそう思うはずがない
そうだ、何を馬鹿なことを考えているんだ僕は、そんなのは姉を侮辱している
きっと今だって、僕を探しているだろう
なにかできることはないか? この階層の情報を少しでも知れれば後で役立つかもしれない
そうと決めれば行動に移そう、目が慣れてきて、ぼんやりと視えるようになってきた
上を見上げると、大きな空洞になっていて、よく見ると上からゴミなどが落ちきている
恐らく僕もあそこから落ちてきたのだろう
この階層全体は丸型で半月上にゴミがあってその半分ほどが湖になっている、湖とゴミ山は少し傾斜が出来ていて、少しづつゴミが湖に飲み込まれているのが分かる。このままでは僕も湖に飲み込まれるだろう
飲まれる前に移動しなければ、そう思い立ち上がろうとすると足元のゴミが崩れ、転倒してしまう。そのまま下に転がり落ち、すんでの所で何かに捕まり持ち堪える。
危ない何とか助かった。しかしこれでは上に戻ろうにも戻れない、しかしじっとしていれば湖にゴミと一緒に沈んでしまう
転がり落ちたせいで湖との距離は近づいている。
じっとしていれば飲み込まれ、動けば転がり落ちる。なんて意地悪なフロアなんだろう
僕がゲーム開発者だったらきっと怒っている
どうにかできないかと辺りを見渡すと、ある違和感のある場所に気が付く
ゴミが落ちていない場所がある、よく見ると他の場所と違い傾斜がなく、平坦なので物が落ちないのだろう。あそこまで行ければとりあえず安全だろう、しかしそこまでは距離がある。
この掴んでいる物もいつ落ちてくるか分からない。その時捕まっている場所からゴミが落ちる。まずい支えごと落ちてしまう。
しかし、掴んだ物体は落ちることなく、ガッシリと固定されている。上に乗っかっている物が無くなったおかげで手元の物体の正体が分かった。
これは動物の背骨だ。しかもとても大きい
掴んだ方と反対のむき出しの骨が傾斜の壁に突き刺さっている、さらに背骨は壁の方まで伸びていて、このまま骨を伝っていけば何とかあの場所に辿り着けそうだ。
覚悟を決め、ゆっくりと手を移動させる
いまだ骨は動いていない。よしいける
そう思ったところで、水の中から何かが出てきた音がした。恐る恐る振り返ると、黒くて大きな蛇みたいな生物が吐いた液体でゴミを溶かしている。しかも今気づいたけど、これは湖では無い。紫色の液体……恐らく毒だろう
落ちたら間違いなく溶けてしまう
恐怖を抑えて、少しづつ壁に近づく
(お願いこっちにこないで……)
手を伸ばせば壁に届きそうなところで掴んでいた小骨が折れる
咄嗟に片方の手で掴み何とか堪える
落ちなかったことに安堵のため息を吐くと、背後から気配がする。
(……!!見られている!)
あの蛇に液体を浴びせられたら終わりだ
片手で骨を掴み、もう片方の手を壁に伸ばす
(あと少し! あと少しで……)
壁に手をかけた所で、骨は折れてしまった
壁に両手でぶら下がる体勢になる
かけた手が少しづつずり落ちていく
(……もう駄目だ!……お姉ちゃん!!)
諦めかけたその時昔の記憶がふとよぎる
僕が三八度の熱を出した時にいつもそばに来て頭を撫でながら言ってくれたこと
「優生は強い子……優生は強い子……」
いつもはゆうくんって呼ぶのに、その時は僕のことを優生と呼んでた
後でなんで優生と呼んだのか聞いたら
「優生が頑張っているから、子供扱いしたくなくて、頑張って欲しいからそう呼んだの」と答えた。僕は笑いながら「じゃあいつもは子供扱いしてるってこと?」って言ったけど
今はあの時の姉の気持ちが分かる。
諦めるな優生、お前は強い子なんだろ?
もう壁にかけた手は指先しか残っていない、ぶら下がる腕は細身で男らしくない。でも僕はお姉ちゃんの弟だ。生徒会長でとても賢くて、優しくて、誰よりも強いお姉ちゃんの弟
耐えるだけでも苦しいけど、これはゲームだと脳に信号を送る、すると現実では信じられないくらいの力が湧いてきて、体を持ち上げる
持ち上がった体はもう壁よりも高い所あり、勢いよく上半身を乗っけて、転がる
(僕、出来たよ……!お姉ちゃん……!)
さっきまで見ていた蛇はまた毒沼の中に潜っていき姿を消した。
こっちも相当疲弊したのでしばらく体を休めることにした。
「お姉ちゃんに…会いたいな」
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