第2話 「初めての世界」

知らない天井がある。

自分の部屋ではないので、ここは本当にゲームの世界なのだろう。

しかし頭では理解していても、あまりに現実と同じ感覚なのでほっぺをつねり確認する。


「夢じゃない……」


痛みで夢との区別を測ってみたが、よく考えてみたらそれは意味の無い行動だった。

というのもこのゲームは痛みも忠実に再現していると香澄に言われていたからだ。


まぁどのみちここまで意識がハッキリしているのなら少なくとも夢ではないということだろう。


だがこうも現実感があると、現実とゲームの区別がつかなくなるプレイヤーも多いのではないだろうか。事実私の体感では目を閉じたら部屋が変わっただけに感じる。


体を起こし窓から差し込む朝日を眺める。眩しくなったので目を逸らしてベッドから降りた。


改めて部屋を見渡す、配置されている家具はシンプルな物ばかりで殺風景な部屋だ。

なにより弟の写真が一枚も貼られていないことが強い違和感を与える。弟の物で埋め尽くされていないと、どうにも落ち着かない。


写真の一枚でも持って来られれば良かったが、しかし今回の目的はこのゲームの安全性を確かめることだ。


万が一弟にプレイさせて、某ゲームアニメのようにログアウトできなくなったら大惨事だ。


もっともそうなったらお姉ちゃんが一生守り抜くんだけども。


香澄から聞いた話では、このゲームで最初にログインしたプレイヤーは最初の街の宿家の部屋をしばらくの拠点としてスタートするらしい、ということは今いるこの部屋がその宿家ということだろう。


公共の宿が拠点ということで、他のプレイヤーとのトラブルになりそうだけど部屋が多いから、そういうことはあまりないらしい


それにそれが嫌なら街の外に出て一軒家を建てることも可能らしいのでとても夢がある。

お金を貯めたら絶対に弟と暮らす家を建てよう。話は逸れたがつまる所この宿にはとても多くのプレイヤーが行き来している。


大体のプレイヤーはパーティを組んでいて、受付の前にあるテーブル席で待ち合わせをしている。一応私のような初心者らしいプレイヤーも何人かいるけど、何をしたらいいか分からずにウロウロしてる人も多い


これも香澄談なのだが、この「ジェニュインザワールド」はとても自由度の高いゲームなので、冒険、のんびりライフ、建築、バトル……と楽しみ方が無限にあるのだ、その分初心者は何から始めるべきかが明示されていないので、戸惑うプレイヤーは多いらしい。


今回は香澄と一緒にパーティを組んで色々と教えて貰うことになっている……のだが辺りを見てもそれらしいプレイヤーはいないので早く来すぎてしまったのかもしれない。仕方ないので私も受付の前のベンチに座り、色々と試してみよう。


さっきから気になっていたことがある、私の視点にゲームっぽいボタンがあるのだ。(ゲームなので当たり前だが)


そこにはコマンドとバイタリティと表示されている。(コマンド:画面の右上端に脳をイメージした風なが表示されている。バイタリティ:画面下端に数字ではなく緑色のバーで表示されている)


スマホみたいに指で触ってみたが反応がないので、睨むように見つめていると開くことに成功した。そこに意識を傾けると選択できるみたいだ。ではそれぞれ詳しく見ていこう

《コマンド》を注視してみると、ちゃんと選択され、頭の中にいくつかのウィンドウがイメージされ表示されている

(例えて言うと頭の中にゲームのコマンド画面が表示されている感じ)

上から「ジョブ」「ステータス」「スキル」「プロパティ」「ログアウト」と出現

「ジョブ」無とだけ表示されている

「ステータス」注視すると「頭部」「上半身」「下半身」「腕」「脚」が人体の図のようにイメージされた。それぞれ確認しようとしたけど

《現在隠しステータスは確認できません》

と表示されて見ることが出来なかった

「スキル」も注視しても何も見えない

「プロパティ」を注視すると現在装備している「軽装備上」「軽装備下」「靴」と表示されとてもお洒落とは言えない見た目をしていることに後から気付いた。


一応確認できるものあらかた見終えたけど、正直言って全然理解できない。そもそも私が今までやったことのあるゲームはHPとか攻撃力とか可視化できる数値があったはずだが、このゲームには無いのだろうか? とりあえず香澄が来たら色々とレクチャーしてもらおう

するとタイミングよく前から金髪の女性プレイヤーが手を振っているのは友人の香澄だ。

頭上には【スミス】と表示されている。


「おっす、もう慣れた?」


「画面の意味は何となく分かるけど、何をすればいいのやら……」


「まぁまずはそのみすぼらしい見た目を何とかしましょう!」


張り切った香澄に着いて行くことにした


〇〇〇〇〇〇


「まずは近場の服屋さんに行こうと思うんだけど、見た目重視と実用性重視どっちがいい?」


「ゆうくんを守りたいから、実用性重視で」


「おぅふ……ゲームでも弟愛強いねぇ…じゃあリュールの武具屋に行こうか」


そうして連れられた武具屋は、最初の宿家から少し離れて、城下町の外にある小さなお店だった。



「改めて見ると、お城とかお店とか凄いリアルな世界だね」


「でしょー? このゲームの製作者は現実味を何よりも追求してるらしいからね」


そんな豆知識を聞きつつ、装備を適当に見繕ってもらった。


「それじゃ渡すから待ってて」


「どうやって受け取ればいいの?」


「コマンドのプロパティからアイテムを注視して譲渡するから確認メッセージが来たら認可ってのを選択して」


すると香澄の言った通りに画面に表示がくる

《【スミス】から「アイテム」が多数譲渡されました。》

《認可》← 《拒否》


「中装備上・鉄」を受け取った

「中装備下・鉄」を受け取った

「鉄の肘当て」を受け取った

「鉄の手袋」を受け取った

「受け取ったら自分のプロパティから装備できるからやってみて」


中装備上・鉄」を装備した

「中装備下・鉄」を装備した

「鉄の肘当て」を装着した

「鉄の手袋」を装着した


上半身の耐久力が上がった

下半身の耐久力が上がった

特殊耐久・肘を発揮

特殊耐久・手を発揮

消費バイタリティが上がった


「どう? ステータス上がったでしょ?」


「うん、でも消費バイタリティってのも上がっちゃった。これどうなるの?」


「まぁ少し疲れやすくなるかな。大して影響はないからまず気にしなくていいよ」


「確かに、ちょっと重くなったね」


「まぁ時期になれるよ。さて装備を整えたら、敵を倒しに行こう!」


〇〇〇〇〇〇


そうして香澄から色々とレクチャーを受けて、気がつけばゲームをプレイしてから2時間が経っていた。


「しまった! もうこんな時間! ごめん香澄ゆうくんが心配だから、ここら辺で」


「おう、りんりんの覚えが早くて助かったよ!また遊ぼうね!」


「うん、何から何までありがとう!

次は弟と来るから!」


そうして香澄に別れを告げ、ログアウトすると意識が一気に現実に戻される


「……ふぅ疲れたな」


〇〇〇〇〇〇

コンコン

学校の宿題を一息終わらせた所でノックされた、多分お姉ちゃんだ


「どうしたの? お姉ちゃん」


お姉ちゃんは何故か僕の姿を見ると狼狽えて倒れそうになる。


「っと……いけないいけない」


「?」


「ゆうくんにプレゼントがあるんだ」


そう言うとお姉ちゃんは後ろに隠していた大きめの箱を僕の前に差し出した


「えっ? これって今話題のVRだよね?」


「ゆうくん頑張ってるから、はい!」


お姉ちゃんから何かを貰うだけで物凄く嬉しいけど、僕は素直に受け取れなかった


「どうしたの? 嬉しく無かった?」


「ううん……凄く嬉しいけど、お姉ちゃん無理してない? 僕はお姉ちゃんと入れるだけで幸せだから、お姉ちゃんの欲しいものを買っていいんだよ?」


気持ちを伝えると、何故かまたお姉ちゃんは狼狽えてる


「っ!!ほんっとうに、ゆうくんはいい子なんだから! 大丈夫、これはお姉ちゃんが友達から貰った物だから受け取って?」


「そうだったんだ、じゃあこれ、本当に貰っても……いいの?」


お姉ちゃんは優しい笑顔で頭を撫でてくれる

お姉ちゃんに撫でられるととても気持ちいい


「もう遅いから、明日お姉ちゃんと一緒に遊ぼ?」


「お姉ちゃんも持ってるの?」


「うん、ゲームの世界でも一緒だよ」


その後はお姉ちゃんとお喋りして、眠くなるまで、一緒にいてもらった。


「明日が楽しみだなぁ……」


大好きなお姉ちゃんと一緒にゲームができる

明日が待ち遠しくて待ち遠しくて

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る