第3話 「姉の過去」
昔から弟は身体が弱かった
すぐに風邪を引くし、怪我もする。
だから私は家で出来る遊びを弟とした。
物を隠してみつけたり、おままごとをしたり、本を読んであげたり、ゲームをしたり
友達と遊ぶ気は無かった。
だって弟がいれば楽しかったし、弟を独りぼっちにさせたくなかったから。だけど一度だけ、家族旅行を親が計画した。
弟に付きっきりの私の気分転換にと、私は本当に弟がいればそれで良かったし、旅行なんて行きたくなかったけど。
私が行かないって言うと弟が、ゆうくんが泣き出してしまった。仕方なく、旅行に行くことになった。
家政婦を呼んで、弟を見てもらった。だけどその後電話がかかってきて、弟が病院に運ばれた。
家政婦はリビングでテレビを見て時間を潰していたらしい、部屋で倒れていた優生に気付かずに、20分もだ。
弟が治療している間、私はわんわんと泣いた
もう弟に会えないのではないか
私がいなくて、寂しかったのではないか
きっと怖かったはずだ、なのに私は……
弟は何とか助かったけど、この事件以降私は両親と距離を置くようになった。
八つ当たりになってしまうけど、元はと言えば家政婦なんかに自分の子供を任せた両親をどうしても許せなかった。
それからは今まで以上に弟と一緒にいるようにした。トイレに行く時も、部屋に行く時も、お風呂に入る時も常に弟をいつでも助けられるように
私が中学生になると母親が癌で死んでしまった。父親は私達を避けるように、単身赴任で家に帰らなくなったけど生活費は送られる
両親がいなくても、私の弟への愛情は変わらなかった。いやむしろ今まで以上に弟を愛していた。
私の人生は弟を中心に回っている
それから勉強を頑張って、県立の高校に行って、成績も県で一位を取った。
さほど嬉しくないけど、弟が褒めてくれたから嬉しくなった。でもそのせいで弟と入れる時間が減ってしまった。
弟の事を考えない時はない。一緒の家にいても、いつも心配でおかしくなりそう
神様は不公平だ、どうして優生の身体は弱いのか、私なんかに栄養を回さないで、優生が
元気に生まれて来てくれればそれだけでーー
○○○〇〇〇
時計を見ると時刻は七時を表していた
朝ごはんを作って、ゆうくんとゲームをしよう。そうと決まれば軽めなあさりのお味噌汁と出汁巻き卵にしよう。
「ゆうくーん、朝ご飯できたよー」
声をかけたがしばらくしてもリビングに来る様子がないので、部屋に行こう
ーーコンコンーー
「ゆうくん? 起きてるー?」
部屋の前に来ても返事がない
こういうことは珍しい、優生は朝にしっかり起きてくるので、手間のかからない子だから
だけどこれはこれで久しぶりに起こしてあげると思うと姉としては嬉しくなる
「入っちゃうよ〜……」
ゆっくりドアを開けると壁の方に顔を向けて寝てる優生の姿がある
よし、布団の中に潜ってからかってみようかな。
「ゆうくん……お き て」
耳元で囁くように声をかけると、よほどびっくりしたのか、優生は布団から飛び起きる
「お お お お姉ちゃん!?」
顔を真っ赤にして照れてる優生
「起きたならすぐおいで、朝ごはん冷えちゃうから」
「も、もう普通に起こしてよね!」
ちょっとふざけすぎたかなぁと思いつつも、弟の可愛い顔が見えて嬉しい
それから二人で他愛のない会話をして、洗い物を終わらせてから優生の部屋にゲーム機をセットして弟がログインするのを見届けてから私も自分の部屋に向かった
ログインは昨日やったので、前よりスムーズにゲームの世界に入れた。
〇〇〇〇〇〇
ゲームにログインするとそこからはお姉ちゃんの説明で聞いた通りに進んでいった。
キャラメイクを終わらせるとゲームの中での名前を決める画面が出てきた。
どうしようか悩んだ末に、お姉ちゃんにいつも呼ばれているゆうくんから取ってyuuという名前に設定した。
ちなみにお姉ちゃんは普段はゆうくんと呼ぶけど、怒った時や本気で心配した時だけ僕を優生と呼ぶ
それはさておき、気が付くと周りの景色が変化している事に気がついた。さっきは黒い部屋で文字が出ていて、けれど今は物凄くリアルなまるで現実のベッドの上にいるような気持ちだ。
まだこの部屋を散策したかったけどお姉ちゃんを待たせるのも気が引けたので、ベッドから起き上がり、部屋の外に出た
「うわぁ……」
外に出てまず驚愕したのがこのホテルの広さだ。パッと見僕の部屋が五階くらいでそこからひとつの階に視界の端まで部屋がある。数えただけでも千は超えるだろう。
さらに上を見上げるとこれまた視界の限りに階層が続いていて、まるで大旅館だ。
僕の身体は弱くて、昔から旅行なんかに行ったことがなくて、だからこんな大きなホテルをこの目で見るのは初めての事だった。
そうして感動に浸っていると後ろから肩を叩かれた
「驚いたでしょ」
振り向いた先にいたのは、恐らく姉の凛であろう。恐らくと言ったのはアバターがほとんど現実のお姉ちゃんと一緒だけど、身にまとっている服があまりにもファタジーチックで現実離れしているから一瞬理解が遅れたのだ
「うわぁ……お姉ちゃんかっこいい!」
「友達に揃えてもらったんだ、後でお金を稼いだらゆうくんの分も揃えに行こっか」
そう言ってお姉ちゃんは手を差し出す
僕はいつも通りお姉ちゃんの手を離さないようにしっかりと握って姉に着いていく
姉と一緒に歩いている途中にも視界にはお城とか騎士のような人が沢山いて、初めて目にする世界に僕はワクワクしていた
度々足を止めて眺めていると、お姉ちゃんは一緒に止まってくれて僕が満足するまで見させてくれた。そうしてしばらく歩いていくと森の中に入っていった。
初めて目にする自然の世界に恐怖を感じるけど、幸いまだ日は明るいし、なによりお姉ちゃんがいる
「とりあえずクエストをこなしながら、倒せるモンスターがいたら倒していこうか」
「クエストってどんなの?」
「えーとね、赤いキノコと、木材を集めるってクエストだね」
しばらく森を散歩していると素材がどんどん集まって、度々うさぎのモンスターだったりスライムだったりが現れるけど、流石のお姉ちゃんは手馴れた手つきで難なく倒していく
そうして1時間ほど散歩した所でお姉ちゃんと一緒にお昼ご飯を食べることにした
「結構採ったねぇ。そっちは何個採れた?」
「僕の方は赤キノコが68個と、木材が82個採れたよ」
「私はキノコ92と木材104個かな、まだまだお姉ちゃんには及ばないね♪」
「うわぁ、流石僕の自慢のお姉ちゃん♪」
「でも、ゆうくんもたった一時間でよく頑張ってるよ」
「えへへ、ありがと」
そんな頑張り屋さんには、と言ってカバンから何かを取り出す姉
「じゃじゃーん、サンドイッチ作って来ました! いっぱい食べてね!」
「おいしそう! 食べていい?」
「どーぞめしあがれ!」
そんな幸せの一時を過ごしてからまた一時間ちょっと素材を集めた。
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