エピローグ

 巨大な穴が開いていた。底が見えず、どこまでも暗く深い穴だった。

 穴の淵に、巨大な人形の獣だったものが三体、立っていた。石像のように硬くなり、ピクリとも動かなかった。

 穴の近くの岩に、人が二人もたれかかるようにして座っていた。黒い髪の男と、赤い髪の女は、互いに手を握り締め、肩を寄せ合いながら、穏やかな表情で眠っている。

 破壊し尽くされた街の跡が見える丘の向こうから、何かが移動してきた。

 濃い紫色の短い髪を持った、ガラス玉のように無機質な瞳の少女だった。

 少女は、男女の前まで歩み寄ると、目線を合わせるようにしゃがみ込んだ。

 少女の足元には、赤や白、紫色のアネモネの花が咲いていた。

 男女をじっと見つめる少女。呼吸を確認し、脈拍を確認する。生きていることを確認した。

 そして少女は、徐に口を開いた。

「私の個体識別名称はカレナ・ラドフォード」

 男女の指先や眉がピクリと動いた。

「破壊された世界を復興するために、あなたたちを迎えにきた」

 少女——カレナ・ラドフォードが手を伸ばす。手のひらを上に向けて、誘うように。

「起きて」

 二人の瞼が、ゆっくりと開いた————

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壊獣は世界崩壊の夢を見るか——幼なじみには願いを叶える力があるらしい Yuki@召喚獣 @Yuki2453

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