2 異世界ものー異世界機関銃ー
学校で教わるような、典型的な人生。
大学を出て東京の端っこにあるアニメ制作の下請け会社に入社し、一人暮らし中の35歳。
勿論、彼女なんていない。いるわけがない。
両親は5年前に二人仲良く他界、手続きやらめんどいのは、2つ下の妹がやってくれた。
そのため、独身貴族。まぁ、貴族というには、雀の涙ほどの給料しかないのだが。
身長は170よりは高いが、75の壁は超えられていない。
顔は普通。少し見栄を張って普通。見たからと言って食欲が失せる程は悪くない…………と思いたい。
先述の通り、彼女はいない。いや、視線を向けたら絶対にほほえみ返してくれる女の子はいる。身近に、というかポッケの中に。
うん。二次元だよちくしょー!!
スマホのロックを解除すれば、現在制作中のアニメキャラ。パツキンでまんまる青色の瞳をした美少女がこちらを見つめて微笑んでくれる。
確か、この子はサブヒロインでメインは赤髪のツンデレだった。
俺の担当はこの子。まぁ、担当と言っても顔なんて書かせてもらえないけどなハハハ。
「らっしゃいせーーー」
そんな事を考えながら、自宅付近のコンビニエンスストアに入る。
テレレレレンという入店音が心地良い。
店員さんがニッコリ笑ってレジ横のお惣菜コーナーの誘惑をアピールしてくるが、俺の目的は一つだけ。
トイレの横に位置する飲み物コーナー。そのさらに端っこに隠すように置かれている酒だ。
なにしろ、今日は土曜日。本来なら今日も休みのはずなのだが、まぁ若干ブラック気味。ダークグレイの我社では、土曜日のカレンダーに青色はないのだ。
「あっ、シャンプー……」
なんとなく缶酎ハイ一個だけ持ってレジに直行も悪い気がしたので、遠回りしていたところで白色のそれが目に入った。
そういえば、昨日の夜シャンプーが切れた事を思い出し、俺はそれを手に取る。
髪にこだわりはないから、いつも使ってる黄色パケージじゃないのは気にならない。ただハゲるのだけはゴメンだから、裏の成分表は見る。
ラウリル硫酸アンモニウムとかナトリウムが入ってたらハゲる、と掲示板で見た。
これは…………含んでないみたいだな、よし。
「おねが…」
「ありがとうございますぅ!!二点でよろしいですか?」
「……はい。」
食い気味の店員に若干押されつつ返事をする。
テレレレレン
俺が何故か2000円札しか入ってないので、渋々小銭を漁っていると、軽快に入店音が響いた。
現在時刻は22時過ぎ。けっこうこの時間帯でもコンビニって人来るんだなぁとか思いつつレシートを貰う。
家帰ったら何食おうかな。3日連続カップ麺はヤバいだろうし、久しぶりに自炊しようか。
俺はいつも通り、この短い週末を堪能するはずだった。
「手ぇあげろ!!!!こいつがどうなってもいいのか!!?」
ガチャリ
俺の右頬に真っ黒な物体が突きつけられた。
「えっ!!えっ!!!?…………は、はぃぃぃい!!!!」
「は、早くこのバックに金全部入れろ!!!!」
「わわわ分かりましたァァァ!!!」
ふむふむ、この形とこの小ささ。
グロック社のグロック17だな。
実は俺、アニメに興味を持ったきっかけが拳銃だったりする。
だから、顔の真横に突きつけられたこの非日常の塊みたいな物体も、何度も目にしてきた。勿論画面越しだが。
「は、はやくしやがれ!!!」
俺の肩を抱いて、拳銃を突きつけた男が叫んだ。この格好所謂バックハグってやつだ。まさか、生きている間に体験することになるとは。
まぁ、そのお相手は残念ながらコンビニ強盗犯。しかも男で、おまけに息が臭い。
あれ、これグロック17じゃない?
スミス&ウェッソンの
あっぶねぇ。
確かにシグマはグロック17をもとにしてて、グロック社から訴訟されるくらい似てるから間違えても当然なのだが、やはり拳銃を描かせりゃ社内1とまで言われた俺が、間違うわけにはいかん。
「遅いぞ!!!撃つぞ!いいのか!!?」
もうすでに強盗犯が入ってきてから5分位経っているから、男もしびれを切らしたのか、シグマのトリガーに手をかけた。
「す、すみません!!!あっ!!!」
バックの底が見えなくなる程度まで金を入れた店員が慌てた様子で、返事をして何かを落とした。
「おい!!それはなんだ!!?」
すぐさま男は俺の体ごとカウンターに近寄ってバックの中を覗き込む。
「お、お前これ!スマホじゃねぇか!!!?」
札束の上には最新型の某林檎製のスマホ。しかも、画面には通話中の文字。
「すすすすみません!!!」
店員は急いで謝るが強盗犯が許すわけもない。
「く、くそがっ!!!!」
俺の頬に強くシグマの先を押し付け、
「殺す!!ころ、コロしてやる!!!!」
そう叫ぶと、トリガーを触れる指先に力を入れた。
「だ、だめぇぇぇぇええええ!!!!!」
店員さんの叫び声も虚しく、俺の顔はゴムを巻きつけられたスイカのようにグッシャリ…………
カチャン
…………ならなかった。
「へ?」
「はっ!?」
二人分のすっとんきょうな声と、からあげが揚げ終わった機械音が響く深夜23時直前のコンビニエンスストアで、俺はゆっくりと口を開く。
「
「ハ?」
「ゑ?」
4つの眼に見守られながら、俺は更につぶやく。
「
決まったぁ。俺これ一回言ってみたかったんだよね。
銃刀法なんていう法律があるこの日本国で、言う機会なんてないと思っていたがまさか30代のうちに言えるなんて。
「シ………」
強盗犯がプルプルと震えながら、俺の肩から手を離した。
え、いいの?俺逃げちゃいますけど。GO TO HOMEしちゃいますけど?
「シ、シ、シ、シ……シネェェェェエエエエ!!!!!!」
あっだめですか。IT'S CANCELですか。
強盗犯はシグマを1mくらい離れた俺に向けて構えた。
「だから、
もう、おちゃめさんなんだから。
俺が丁寧にも今度はトリガー引く前に言ってあげると、強盗犯さんは憤怒ではなく羞恥で顔を赤く染めながら、
「シネェェェェヱ!!!!!」
シグマを握りしめて…………殴った。
OH MY GOD!!
このスミス&ウェッソン初のポリマーフレーム製ピストルで攻撃するのに、最も原始的な『打撃』を選ぶか!!?
俺だって死ぬならせめて、9x19mmパラベラム弾に貫かれて死にたかったよ!!!!
「キャァァァアアアアアア!!!!!」
うるさいな。そんなに騒ぐことか?ただプラスチックとごっつんこしただけで。
あぁ、頭が熱い。
痛みはないけど熱いし、なんかジャットコースター後の謎の浮遊感がある。
なんなんだよ、俺まじで死ぬの?
憧れのシグマさんに撃たれるではなく、打たれて死ぬの?
ないわ。そんなのないわ。スマホのパツキン美少女のほっぺの色塗りまだ終わってないのに。
それに、来週にはドラグノフ狙撃銃とレミントンM870 MCSの線画出さないといけないのに?
さらには、九九式狙撃銃とかFR F2、ブローニング・スーパーポーズドのチェックも待ってるんだぜ?
俺は痛む頭を抑えようと手を伸ばして、驚く。
「ゴ、ゴフォッ!!!!」
なんか生暖かいぞ。俺、こんな体温高かったけ?
ウゥーーーーウゥーーーー
遠くからサイレンが響いくる。この音は…………パトカーか?
なんにせようるさいな。
これ、このままじゃあ病院行き確定だから、上司に連絡しないと。
あの人、深夜に電話すると起こるんだよな。メールでいいか。
俺はコンビニの冷たい床の上でポッケに手を突っ込んで自分のスマホを取り出す。
「あ、アリス…………」
俺は相変わらず優しく微笑むパツキン美少女を見ながら、目を閉じた。
この瞬間、名前もわからない一人の男は死んだ。
今後彼の魂がたどるのは輪廻転生の道か、それとも生まれ変わりか。
どちらにせよこの地球という世界に留まるはずだった彼の魂は、その道を大きく外れた。
ここではない世界。同じく空気が有って恒星との距離が奇跡的であり、ホモ・サピエンスが文明を築く星。魔法があり、文化レベルが中世………というと批判されるかもなので中世くらいといっておこう。
まぁとにかく、所謂異世界で彼の死亡とほぼ同時刻。コンマ以下何億、何兆といった誤差で同じく死亡した15歳の少年の肉体に憑依したのだ。
ーーーーグロック17獲得…………未成功。代替で召喚術……獲得。SLOT1に拳銃……追加完了。
ーーーーSLOT2にSIGMA《シグマ》追加…………未完了。代替でSLOT2に拳銃弾(個数未制限)……追加完了。
ーーーーSLOT3にドラグノフ狙撃銃追加…………未完了。代替でSLOT3に狙撃銃……追加完了。
ーーーーSLOT4にレミントンM870 MCS追加…………未完了。代替でSLOT4に散弾銃……追加完了。
ーーーーSLOT5に九九式狙撃銃追加…………未完了。代替でSLOT5に狙撃銃弾(個数未制限)……追加完了。
ーーーーSLOT6にFR F2追加…………未完了。代替でSLOT6に照準器(倍率可変)(機種未固定)……追加完了。
ーーーーSLOT7にブローニング・スーパーポーズド追加…………未完了。代替でSLOT7に散弾銃弾(個数未制限)……追加完了。
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