自由に思いついたの書き殴る

俺氏の友氏は蘇我氏のたかしのお菓子好き

1 悪役令嬢ものー他国の王子ー

「あはははは」


「おほほほほ」


「…………それ、もらえるか?」



様々な思惑が渦巻く、貴族のパーティー会場の窓際。

壁に寄りかかった少年は、実につまらんといった表情で、せわしなく動き回るうウェイターに飲み物を頼む。


「はい、こちらに。」


ささっとなれた手付きで冷水を差し出したウェイターを一瞥した少年は、


「ありがとう。」


そう、感謝の言葉を告げた。


「っ!!」


「ん?どうかしたか?」


もらった水の適度な冷たさに、少しだけ喜びを感じた少年だったがすぐに、その飲み物を差し出したウェイターが驚いたような声を出したのを見て、疑問符を浮かべた。


「いいえ、なんでもありません。ただ、ただ、その、私のようなものに貴族の方々が感謝を述べるのはまれなことなので。」


「そ。」


ウェイターがおずおずと述べた理由に少年はすぐに興味を失い、そっぽを向きながら返事をした。


「おほっほほほほ」


「あらあら、まぁまぁ」


「おっほほほほ」


少年は身にまとう簡素ながら、シッカリと凝るところは凝った、軍服のような鶯色の服の腰に刺した、短剣の柄をなでながら、やはり誘われたからといってくるんじゃなかったと、思考する。


「アリア=カシス=ドレッド公爵令嬢。この時をもって、俺は貴様との婚約を破棄する!!!!!」


「「「なっ!!!」」」


突然の宣言に会場の空気は一瞬で凍り付いた。

パーティーも終盤に差し掛かったそのとき、会場のど真ん中でそんな大きな声が上がった。



会場中の視線を集めたその金髪の青年は、ランスハント=クリムン。

クリムン王国の第二王子である。


「殿下、もう一度仰てくださいますか?」


彼の前で、そう絞り出すように逝ったのは、彼の婚約者。

いや、元婚約者の、アリア=カシス=ドレッド。この王国で最も王家に近いと言われるドレッド公爵家の娘でった。



彼女もまた、王子と勝るとも劣らない容姿端麗な金髪碧眼。少し上がったツリメが特徴の刺さる人には刺さるタイプの可憐な少女である。


「あぁ、何度でも言ってやろう。今このときより、貴様との婚約は破棄する。」


堂々と、王子は再び言い放つ。


「さ、左様でございますか。り、了解いたしました…。」


婚約破棄を言い渡されたにしては、やけにすんなり受け止めたように見えるが、彼女は内心でかなり驚いていた。


幼少期より施されてきた、いつ何時も公爵令嬢らしく冷静にという教育から、その驚きを表していないだけ。


その証拠に、彼女が体の後ろで組んだ手は、強く握られていた。


それもそう、二人の婚約は両家同士の合意のもとかなり前から決まっていたのもであり、いくら当事者であり、第一王子でも、そんな瞬間で決められるようなことではないのだ。


「へ、陛下のご了承は得られたのですか?」


故に、彼女は高鳴る胸を抑え、私情を押さえて、あくまでも公爵令嬢として質問をした。


「大丈夫だ。すっでに了承は得られている…………たぶん。」


「「「「っ!!!!」」」」


会場に驚きの空気が走る。

もし、王子の言ったことが本当なら、国王陛下承認の婚約破棄。

つまり、これが正当なものなのである。


まぁ、実際には王子のはったりであり、小声で「たぶん」といったのだが。


「り、理由をお伺いしても?」


そんな彼女の質問に王子は分と鼻を鳴らし、偉そうに告げる。



「お前は俺にふさわしくない故に。」


「……なぜ、そのように?」


「「「「「っ!?」」」」」


会場から再び息を呑む音が聞こえる。


この場にいる全員…………いや、数人を除いてのほぼ全員がその声を聞いて理解したのだ──彼女が今までにないくらい悲しんでいる、と。


そのくらい、彼女が発した声はうわずって、今にも泣き出しそうだったのだ。


「お前がか弱い女生徒を虐めていることは、知っているのだぞ!!ここに証拠もある!ルリヤこっちに来い。」


「はっはい」


王子の声におどおどとした、まだ幼さが残った声が返事をする。

すこしすると、会場の端っこから人混みをかき分けて、一人の女生徒が現れた。


「「「「っ!!!」」」」


その少女は、桃色の髪の毛とぱっちり開かれた目が特徴的な、小動物のように庇護欲をかきたてる愛らしい女子生徒であった。


彼女はカタシ=ルリヤ。カタシ子爵家の令嬢である。


本来なら、王子に並ぶことすらできない身分だが、何故か彼女は王子の直ぐ側にたって、なんなら腕まで組んでいる。


「待っていたぞ。……お前が彼女をを虐めたんだろう?」


「……ち、違います。」


ルリヤへ向けた慈しむような視線から一変、激しい糾弾の目をした王子の言葉にアリアは首を横に振る。


彼女、本気で身に覚えがないのだ。


というか、そもそも家格が違いすぎて、その存在を認知すらしていなかった。


「なんだ、白をきるつもりか!!!?」


「ち、ちがいます!殿下、本当に見に覚えがないのです!!!!」


シーンと彼女の一言に会場が静まり返った。

そもそも、王子と公爵令嬢のやりとり、いくらパーティーの場とはいえその間に口を挟める人なんて、王族か公爵家の者のみである。


「あぁ、もう我慢できない!!!!アリア!!おとなしく認めろ!!!」


皆が黙り込む中、烏合の衆から、一人の青年が飛び出した。


「さ、サナン!!!!!」


一瞬にして視線をかっさらった彼は、ライン公爵家長男、サナン=リ=ラインであった。


彼は、飛び出すとすぐにアリアの肩を押さえつけて、まるで土下座させるかのように頭を下げさせた。


「い、いたっ」


彼女の頭が床にぶつかり、思わず悲鳴が上がる。


アリアは、婚約者と幼馴染であるはずのサナンに裏切られたというか、こんなふうに憎悪の視線を向けられていることがん信じられなくて、なんとか誰か味方を見つけようと顔を上げた。


「っ!!!」


その目に写ったのは、まるで、見世物を見るかのような貴族たちの視線と、表情。

そしてなにより、見知った家族のゴミを見るような視線だった。


「兄様っ!!!」


「………もはや兄弟と呼ぶのも虫酸が走る。お前も公爵家のものならば、最後ぐらい往生際よく罪を認めろ!!!」


やっとみつけた身内の、味方の姿にすがったアリアだったが、彼から帰ってきたのは明らかな嫌悪。そして、憎悪の視線。


「あ、あぁ、あぁぁ…………」


彼女はその時、心から絶望する。


自分が今まで生きてきた意味。合う機会は少ないが愛しの婚約者と、幼少期から友だと思っていた幼馴染。そして、憧れでもあった兄。


その全てに拒絶され、否定された悲しみは婚約破棄の悲しみよりも、何百倍。何千倍に大きいものだった。


「くすくす」


「あははは」


「ぷぷぷぷ」


会場が、そんな声と、彼女を責めるような視線で一杯になったとき。


ふと、窓際でその光景をずっと見守っていた少年が一言。


「美しくない。」


その声はさして大きくなかったのにも関わらず、その場にいた貴族。さらには、王子すらも振り返るような、震えるような迫力があった。


すっと立ち上がった彼は、自分が全員の注目を集めているとも知らずに、飲みほしたグラスを先程のウェイターに渡し、


「うまかった。」


と、告げてニッコリと微笑んだ。


「き、貴様は誰だ!!!!!お、王子である俺になんてものいいだ!!!!!」


王子は圧倒されていたのから戻り、すぐさま彼の糾弾する声を上げた。

それもそうだ、彼はこの国のトップである王族。しかも、第一王子。


彼に逆らえるものなんて、国王陛下か王妃。今は引退した上皇くらいだ。


「おい、そこの女。」


されど、彼はその声を気にもせず、冷たいグラスがかいた汗をハンカチで拭いながらそういった。


「…………。」


「おい、貴様だ。その真中で抑えられて今にも泣きそうな顔をしているお前。」


「っ!!わ、私ですか!?」


いきなりふられたアリアは意味がわからず、そう返す。


「そういうことか」


「もっとやれ」


「いいぞ」


貴族たちは、彼が王子に対してではなく、アリアにいったのだと納得して、煽る声を投げかける。


「そうお前だ。お前、いま何色だ?」


「へ?」


その質問の糸が理解できないと行った声をもらすアリアに彼はコツコツといい音を鳴らしながら近づいていった。


「お前の世界は何色だ?その瞳が捉えた世界の色は、どんな色だ?」


いまだに土下座のようにサナンに床に押さえつけられたままの彼女の顔を覗き込んで、彼は言う。


「い、色は…………」


彼は内心すこしだけ笑いながらその言葉の先を待っていた。


絶望の黒か、それとも真っ白か。はたまた灰色か。紺か、紫か。


アリアは瞳に涙をたまらせたまま涙声で言った。


「鶯色です。」


「何?」


予想外の返事にかれはききかえした。


「あなたの、あなたの瞳の色です。」


そう、彼女が小さくつぶやいた言葉を聞いて、少年は、


「はははっはは。そうかそうか、鶯か。そいつはいい。はははっは」


と、大声で笑った。


「き、貴様何者だ!?王子殿下の御前だぞ!!!!!」


サナンが近くで笑い始めた彼のことを奇妙に思って、そう怒りの声を上げる。


「頭が高い」


















この日、王国は崩壊した。

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