第37話 交渉のセオリー
身体がふわふわする。。。
この感じ。。。
そうか。。。俺は賭けに勝ったんだ。。。
『お。。。。』
『おー。。。』
『おーー。。。』
『おーーーーーい!!』
「。。。」
『あら? いつもの”うわっ” じゃないのね。 何かつまんなーい』
目の前にいる少女。。。まぁ、何百年も生きてるらしいからこんな言い方したら怒られるか。
「ルギ、見てたんだろ? タギアタニア王国の事」
『ルギ ”さん” でしょ? 何度言えば分かるのかしら。
あのねー、私はそんなに暇じゃないのよ。でも、まー見てないと言えば嘘になるかしら』
ルギがクロガネの頭をポンポンと叩きながら言った。
「それなら、タギアタニア王国で今起こっている事も知ってるだろう?頼むからあの国を助けてくれないか? ルギは神族なんだろう。国の一大事なんだ、あんたの。。。」
バシンッ!
「痛っ!」
矢継ぎ早に言うクロガネの頭をルギはおもいっきり叩いた。
『焦りすぎ! 落ち着いて喋りなさい!』
クロガネはタギアタニア王国の現状を事細かにルギに伝えた。そして、この異世界と並行世界の間はざまに来るために自らの身体を瀕死の状態にした事も。。。
『石橋を叩いて渡るような性格してるのに、ずいぶんと無茶をしたわね。ここに来れなかったらどうしてたのさ?』
「絶対に来れると思ってたよ」
『ふーん』
クロガネの真っ直ぐに自分を見る瞳に、ルギは一瞬ドキリとした。
『悪いけど、あんたの願いは聞けないわ。だって、神族が1つの国の命運に手を貸したなんて事になったら異世界の均衡を崩すことになるし、それに管理協会も黙ってないわ』
「そうかー、やっぱり無理だよな」
クロガネはガッカリするどころか、ルギの周りをグルグルと意味も無く歩き始めた。
『ねぇ、あんた さっきから何やってるのよ?』
「。。。」
『何よ?』
「ここに俺が来れたと言う事はルギは賭けに負けたんだろ?」
『え? うー えー あー 、 な ん の こ と?』
「ははっ!神族は本当に嘘をつけないんだな。ある意味不便だな」
『どうして賭けをしてるのが分かったのよ!』
「前に賭けをしてルギは負けたんだろ? ルギが負けたまま終わるはずがないと思ったんだよ。ルギなら勝・つ・ま・で・賭けを続けるはずだってね」
『ふんっ、 その通りよ! あー ムカつく! クロガネに行動を読まれるなんて!』
クロガネは突然片膝を着き、ルギに向かって頭を下げた。
『な な な 何よ! 気持ち悪い!』
「神のスキルを授けて欲しい!」
声色こわいろがクロガネの真剣な気持ちを物語っていた。
「考えましたね」
クロガネが顔を上げるとルギの横に見た事のある男が立っていた。
『もー、 田中っち。勝手に出てきちゃ駄目でしょ!』
「いやー すみません。 クロガネさんの成長した姿をこの目で見たくなってしまって」
クロガネの目の前に居る男は田中、そうこの男がある意味クロガネを異世界へ連れてきたようなものだった。
田中は膝を折ってクロガネの目線に合わした。
「田中。。。さん。。。でしたっけ?」
クロガネが目の前の男の事を思い出そうとする。
「本阿弥さん。。。いや今はクロガネさんでしたね。いい顔つきになりました。貴方なら異世界でも生き延びれると思いましたよ」
『ちょっと ちょっと ちょっとーーー 2人とも私の事を忘れてるでしょ!』
ルギが頬を膨らませて怒る。
『ねぇ、田中っち。クロガネに向かって”考えましたね”って言ったでしょ? どういう意味よー』
田中はクロガネを横目に見ると、クロガネの考えている事を説明し始めた。
クロガネが欲しい神のスキルそれは。。。 ”神の言葉”。
クロガネは、あの現状を打破する為には、武力では無く言葉の力。そう、あの時にルギが言っていた”神の言葉”のスキルを思い出したのだった。
『なるほど、そういう事ね。 クロガネ! ちょっとこっちに来なさい!』
ルギがクロガネを手招きする。
恐る恐るクロガネがルギの前に立つ。
バシッ!
「痛っ!」
『黙りなさい!汝なんじ、我が力、”神の言葉”を授ける。跪拝きはいして‟受ける”と答えよ』
「えっ? じゃあ。。。」
クロガネが田中を見ると、人差し指を口にあてた。
それを見たクロガネは素直に跪ひざまつき答えた。
「受ける」
ルギがクロガネの頭の上に手をかざすと光の粒がクロガネを包んだ。
『クロガネ よく聞きなさい! 次も同じような事をしたら私はあんたを見捨てて逆転送させるからね。 あんたを呼ぶ時は私の都合であって、あんたの都合じゃない 分かった?』
「分かったよ、後、数回は呼んでくれそうな気がするからその時まで待ってるよ。
所で、”神の言葉”のスキルってどうやって発動するんだ?」
『うーーー! ”神の言葉”を決して悪用するんじゃないよ!もし悪用したら、その者の舌を失う代償になるから。 善の為に偽りの無い心の叫びを相手に伝えようとした時に発動する。 ただし、使用した者の生命力を奪うことになるの。
弱い者が使用すると生命を奪われて廃人とになるからよーく考えて使いなさいよ!
代・弁・者・が・い・い・加・減・な・奴・だ・っ・た・ら・本当に危ないんだから。
後ね、一回使うと暫く発動する事が出来ない。だってそうでしょ? 多用されたら異世界の均衡が崩れてしまうでしょ?
あーもう! 大嫌いな長話になっちゃった。
さぁ、 さっさとタギアタニア王国へ帰ってやるべき事をやりなさい!』
「クロガネさん。頑張ってください。貴方なら成功出来ると信じてますよ」
田中がクロガネの肩に手を置いた。
「田中さん、ありがとございます。貴方を見てると何だかお酒を飲みたくなってきましたよ。今度、飲みに行きましょう!」
「ふふっ、 今度、異世界でBARを開く予定ですから、その時は招待しますよ」
光の輪がクロガネを包み始めた。
「あっ! 知ってたら教えて欲しい。 テレジアは異世界で元気に過ごしてるんですか?」
ルギと田中は複雑な表情をして何かをクロガネに喋っているが、聞き取れないままクロガネは転送されて行った。
「ルギ様。ありがとうございました」
『しょうがないでしょ? また、賭けに負けたんだから! 約束を守っただけよ』
「それにしても、クロガネさんの交渉は見事でした」
『どういう事よ?』
「クロガネさんは最初からルギ様にタギアタニア王国を救って貰おうなんて微塵も考えてませんでしたよ。
あくまでも、目的は”神の言葉”のスキル」
『うーーー、つまり どういう事よ?』
「つまり、交渉事の時に最初に到底無理な希望を伝える。相手は当然断る。断られたら下げた希望を再び相手に伝える。相手もそのレベルならまぁ良いだろうと了承する。まぁ、交渉のセオリーですかね」
『あの野郎ー! ふんっ、 まぁいいわ。 田中っち 次の賭けをやるわよ!』
「いいでしょう! 受けて立ちますよ!」
果てしなく続く暗闇の中、2人は次の賭けの内容について議論していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます