第36話 対話
「どうしたらこの暴動を止められる?」
タギアタニア国王がカールの目を真っ直ぐに見て質問する。
「。。。タギアタニアの国が変わらない限り止まることはない」
「変わる?とはどういう事だ?」
「惚とぼけるな! この国に根強い種族差別があることを知らないと言うのか! 国王は壁の外を見たことがあるのか?
人間じゃ無いと言うだけで殆どの魔族や獣族は壁の外へ追いやられ、今日生きていくだけでも精一杯の生活をしている。
まともな壁の外の住民も、止めどなく流入してくる犯罪者に怯えているんだ!
この国は変わらなければならない! 全種族が平等に生活できるようにな!」
辺りは静まり返った。確かにカールの言っていることは正しい。種族差別がこの暴動を助長しているのは間違いなかったのだった。
「アホか? 簡単に変えれるわけ無いだろう? 大体何だ! その口の聞き方は!」
ペソノが立ち上がり、カールに対して怒鳴り散らした。
「黙れ! 国王の息子、ただそれだけでなに不自由無く生きてきたひよっこが、そんなに死にたいのか!」
カールの目が真っ赤に染まり、鬼気迫る言葉でペソノを脅すと、ペソノは気迫に圧されて顔を伏せてしまった。
ウドがカールを落ち着かせ、対話を続行させるが話は平行線のまま時間だけが過ぎていく。
カールはみるみる苛立ちが隠せなくなり、ついには対話を止めようとしてきた。
「対話じゃなくて、雑談をするならこれでおしまいだ。さては、時間稼ぎだな!」
カールが立ち上がると、腰に差していた剣を抜いた。
「カール監長! 話を聞いて! 時間を掛けて対話をしないと解決しないわ!」
今まで黙って聞いていたイブが口を開いた。
「エヴァ。。。いやイブ王女。貴方も壁の外の惨状を知っているだろう? どんなに話しても理解出来ないんだよ王族ってのはな。
なぁ そう思うだろ? そこに立っている獣人よ!」
カールがイブの横に立っている青藍に同調を求め、投げ掛けられた青藍は複雑な表情で答えた。
「確かにその通りだ。。。 壁の中でなに不自由無く生きてきた王族の奴らじゃ理解しようとしても無理だな」
「青藍! そん」
イブが言い掛けるのを遮るように青藍は言葉を続けた。
「けどな、このイブ王女は壁の外を知ってるし、俺の村の獣人逹と仲良くしてくれた。それにな、種族で差別されること無く平等に暮らせるようにしたいと言ってくれたんだ。
俺はその言葉が嘘だったとしても嬉しかったぜ。
カールさんよ、そういう王族の人間もいるんだぜ? あんたの方こそ人間に対しての偏見が強いんじゃねぇのか?」
「青藍。。。ありがとう」
イブが目に涙を浮かべていた。
カールは目を瞑り暫く黙っていた。彼が口を開くまで誰も喋ることはなかった。
「。。。良いだろう。対話を再開しよう」
すると、ペソノの側近が扉を開けて静かに入って来ると、ペソノに何やら耳打ちをした。ペソノは一度頷き、目配せして側近を退かせると、王へ少し頷いたような仕草をした。
「どうしたペソノ王子?」
カールが不審に思いペソノを見た。
「いや、暴徒が本当に大人しくしているか見て貰ってたんだ。カールを信用してないとは言わないが。。。カール、気分を悪くしたなら許してくれ」
取りあえず、ペソノの謝罪で問題なく対話が再開された。
「それで。。。国王よ、イブ王女が仰った事を実現出来るのか出来ないのか、答えてほしい」
「時間をくれないか。。。 実現するために最大限の努力をしよう」
「いつまでに?」
「そうだな。。。 やっぱり無理だな」
「はっ? ふざける」
バーーーン!! バーーーーン!!
カールが言い掛けた時、外で大きな爆発音が立て続けに2発起こった。
王の間が大きく揺れた。酷く動揺しているのはカール、ウド、リュック、クロガネ、イブ、青藍だった。
しかし、反対に冷静に受け止めている三人がいた。それは、国王、ペソノとフェルマンだった。
その瞬間数十人の兵士が王の間に入ってきてカールをあっという間に取り囲んでしまった。
「どういう事だ!」
叫んだのはウドだった。
「教えてやるよ。さっきの爆発音は城と街を繋ぐ唯一の道の入口と出口の二ヵ所爆破した。もうこれで暴徒が城に入って来ることは不可能になったんだよ。
検問所や道に残っている暴徒は逃げることも城へ入ることも出来ない。そこへ火を放って全滅させるのさ」
「ペソノ王子! そんな事したら、兵士逹も死ぬことになります。」
「仕方ないさ、我が国の為に死んで貰うしかない」
「フェルマン! 貴様の入れ知恵か! 最初から対話をするつもりは無かったな! 最初からカールをここに連れてくるのが目的だったのか!」
ウドがフェルマンに掴みかかろうとすると、周りの兵士がウドを拘束した。
「ウド獄長、暫く大人しくしてください」
「何をするんだ!」
ウドに同行したリュックが助けに行くが、ウドが手を出すなとリュックを制止した。
そして、カールも抵抗虚しく兵士逹に後ろ手に縛られて床に組伏せられた。
「よくやったフェルマン。お前の筋書き通りになったな」
「ありがとうございます。見せしめとして暴徒の前でカールを処刑するのはどうでしょうか? そして、絶望になった奴らに火を放ち全滅させる」
イブ王女が止めに入るが兵士逹が前に立ち塞がり、何も出来なくさせていた。
また、ペソノの一声で、最悪の状況へ進むことになる。
「父上、こいつらを生かすと厄介な気がするよ。都合が良いことに囚人服を着てるから暴徒として一緒に処刑した方が良いんじゃない」
その言葉を聞いた、クロガネ、青藍とリュックが素早く集まり、剣を抜いて構えた。 その周りを兵士逹が剣を抜き取り囲む。
「兄上! この者逹は私の大事な仲間なのよ! 手を出さないで!」
イブの願いが王の間に虚しく響く。
数分後には、王の間はクロガネ逹と兵士逹の血で染まる可能性が高かった。
青藍の両手は鉤爪が出ていた。リュックもモンスターを狩る時の目になっている。一度戦闘が始まるともう止められない。筋書き通り行けばカールやクロガネ逹は処刑され、暴徒も全滅させられる。
もしこうなれば、後戻りは出来ない。永遠に種族関係無く平等に暮らすことは無いだろう。。。
クロガネは1人冷静に考えていた。
何故か 抗あらがえ という言葉が頭の中に響かない。抵抗せずにここで死ねってことか? 等、考えていたが、打開出来る1つの可能性に掛けるべきか考え、覚悟した。
怖いな。。。
クロガネは震える手をギュッと強く拳を握った。
「青藍! リュック! 兵士逹に絶対に手を出さないと頼むから約束してくれ! 手を出したら。。。未来永劫この国が。。。イブが理想としてくれた国になる芽を摘むことになる」
声を掛けられた二人はクロガネが何を言っているのか理解できなかったが、クロガネの行動で理解することになる。
ブシュッ
突然、クロガネが自らの剣で身体を貫いた。
取り囲んでいた兵士逹がそれを見て固まった。
「クロガネ! 何を。。。」
クロガネは意識が途切れた。。。
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