第30話 / 討伐 -完-

「どうなっちまったんだ?何故Berserker獣の Mode本能から覚めない?お前ら目を覚ませ!」


青藍せいらんが呼び掛けるが2体の獣に反応は無い。


グルルルルルル


2体の獣は青藍に何度も何度も襲いかかるが殴り返され返り討ちにあい、


身体がどんどんボロボロになっていくにも関わらず、ロボットの様に青藍に何度も襲い掛かる。


「クロガネ!コイツら様子がおかしい!何かに操られているみてーだ!」


青藍はこれ以上怪我をさせない為に、2体の獣を地面に押さえつけながら叫んだ。


「エヴァ!動けるならウド獄長とリュックの手当てを頼む!余った回復薬だ、これを使ってくれ!」


クロガネが回復薬をエヴァへ投げ渡し、地面に転がっているニコルのちかくに飛び降りた。


「起きろ!」


クロガネは頑丈なロープで縛りつけながら命令した。


「ひぃ、待ってくれ!殺さないでくれ!金なら幾らでもやる」


ニコルが地面に額を擦こすり付けながら懇願こんがんする。


「何か、あっさりと捕えちまったな」

リュックが足の痛みに耐えながらクロガネとニコルを見ていた。


「先ずは答えろ!!あの2人に何をした?」

クロガネがニコルに問い詰める。


「知らん!」

ニコルは目を目を逸そらした。


こいつは何かを隠している。クロガネは直感した。


「そうか。じゃあお前をあの2人の前に連れて行こう。本当かどうか確かめる」


そう言うと、クロガネは青藍が押さえている2体の獣の元へニコルを引きずり地面に押さえつけた。


「青藍。お前の仲間がどうしてこうなったのか知らないらしい。だけど、俺はそう思わない」


「ああ、俺もそう思う。おい!俺の仲間に何をしやがった?」


ニコルは顔をそらして何も言おうとしない。


「ニコル、知らないって言ったのは失敗だったな。‟分からない”じゃなくて‟知らない”と言った。何を隠している?俺たちの仲間をたくさん殺しておいて‟知らない”の一言で済むと思うなよ?」


そう言うと、クロガネはニコルの頭を掴み青藍に押さえつけられている獣の顔の横に押さえつけた。


獣は目前にニコルの顔が現れた為、口を開けて噛みつこうとする。


「ちょちょちょちょちょっ、ま、待ってくれ!わ、分かった。分かったから離してくれ!は、早く!」


「答えるんだな?」


「答えるから!早く!噛みつかれちまう!」


その言葉を聞いてクロガネはニコルを獣から引き離した。


「はぁ はぁ はぁ あ・の・女・がやったからあのバケモンの直し方は分かんねぇんだ」


「あの女?色々と訳ありっぽいな。正直に全部話せ。正直に話さなかったら俺が殺さなくても青藍がお前を殺すと思うぞ」


ニコルはチラッと青藍を見て観念したようだった。

そして、ニコルの口から経緯を聞く事になった。



=2年前=

ニコルは隣国グラトーレ共和国で細々と借金の取り立屋をやっていた。


所詮は金貸し業であった為、大して儲からず、何か儲かるネタはないかと常にアンテナを張っていた。


そして、ニコルは1人の女と出会った事で巨額な金を得る事になったのだった。


ふらっとニコルの前に現れたのを良く覚えていた。


常にその女は目深にフードを被っていた為、素顔をよくわからなかった。


ただし、両目は吸い込まれそうな赤色だった事は憶えている。


その女がこう言った。


「ニコル、金貸しなんて小さい仕事やってないでもっと大きな仕事やってみない?」


「もっと大きな仕事?」


「ニコル、大きな声では言えない事だけど教えてあげる。各国のお尋ね者の逃亡援助をするのよ。あなた犯罪者にも顔が広いでしょ?」


「広くても何処に逃がすんだ?そんな受け入れてくれる都合の良い場所なんてないだろ?」


「何を言ってるのニコル。あるでしょ?最適な場所が隣国のタギアタニア王国に」


「タギアタニア王国。。。。まさか、壁の外側の事を言ってるのか?」


「ご名答~。さすがニコル。見込んだだけの男だわ。壁の外側はタギアタニア王国としては無い事になっている無法地帯なの。だから犯罪者が逃げ込む場所には最適なのよ」


「確かにそれは良いアイデアだな。国境付近に確か廃都セヌアがあったな。あそこなら拠点として活動するには最適だな。よし、善は急げだ。。。いや、悪は急げか」


ニコルがニヤリと笑った。


そして、ニコルは今日までの2年間、各国で犯罪を犯しお尋ね者となった罪人をタギアタニア王国へ逃がす手引きをし、手数料として金を払わせていた。その噂は犯罪者の中でたちまちに広がり日を追うごとにニコルへ依頼する者が増えていき、ニコルは大儲けする事になる。


気付いたら女は側から居なくなっていた。。。


再び女が現れたのは半年前だった。


「ニコル、久しぶり。随分儲かっているみたいね」


「今まで何処に姿を消してたんだ?お前のお陰で儲かりまくってしょうがない」


ニコルは女に取り分として相当の金額を渡そうとしたが女は決して受け取る事は無かった。


ただ。。。


「ニコル、ベルヴァルト監獄長として元右軍将軍のウドが就任した事知ってるかしら?」


「ああ。。その事か。。。犯罪者流入を防ごうと躍起やっきになっているらしいな。軍が本気で動いてきたら俺達なんてひとたまりも無いな。そろそろ潮時かもな。。。」


ニコルが弱気になって答える。


「何を言っているの?これからじゃない。それに壁の内側の軍は絶対に動かない。動くとしたら監獄の看守達だけ。。。でもウドが居るのは厄介ね。。。私が何とかしてあげる。ニコルは強いボディーガードをたくさん雇いなさい」


「ああ。。。分かった」


ニコルはこの女が何が目的でここまで加担してくれるのか不気味でしょうがなかったが、どんどん入って来る金が判断を鈍らせていた。


そして1ヵ月前に再びニコルの元へ女が現れた事で話が急展開する。


「ニコル、随分とボディーガードを雇ったじゃない?良い情報を教えてあげる。近々看守達が貴方達を討伐しに来るわ」


「お前はいつもふらっと現れるな?お前の助言通りボディーガードを200人は雇ったぞ。これならそうそう負けないだろ?」


「ニコル、そうね。。。でも、‟個”としては弱い。。。何人か連れて行くわよ」


そういうと女は最近雇われた2人の獣人やその他何人かを連れて姿を消した。


その夜、女が連れて戻ってきた者逹は‟別物”となっていた。


獣人だけは制御出来ないから檻に入れておくように女から言われた。


ニコルは良く覚えている、夜にあの女の両目が赤く光っていた事を。。。


それ以降、今日まで女はニコルの前に現れていない。




いつの間にか、ウド、エヴァ、リュックの3人がニコルの近くまで来て黙って話を聞いていた。


「俺の知っている事を全部話した。だからあの女が何をしたのか本当に知らないんだ」


「どういう女だ?名前は?」

エヴァに肩を借りながらウドがニコルに問い詰める。


「知らない。。。あの女は自分の名を名乗らなかったんだ」


「また‟わからない”じゃなく‟知らない”と言ったな?お前は嘘をついている。誰なんだ?答えろ!」


それを聞いていたクロガネがニコルの首元へ剣を突き付けた。


「わ、、、分かった。。だけど本当にあの女は名乗らなかったんだ。俺は気になってあの女の事を色々と調べたら。。。間違いない。。。あいつは。。。あいつは。。。俺なんかじゃ手に負えないやつだった。。。赤の。。。。シャ。。。。 がはっ!!。。。く。。苦しい。。。た。。助け。。。」


直後、ニコルは急に苦しみだし、あっという間に絶命してしまった。


そして、青藍が押さえつけていた2体の獣も連鎖して同じように苦しみだして絶命した。


赤の。。


シャ。。


女。。。。。


まさか。。。


クロガネは名前を口に出そうとしたがニコルを見てそれを飲み込んだ。


こんな事出来るのはあいつしか居ない。。。。


こんな事をして。。。。いったい何の為に。。。

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