第31話 / 脱獄
クロガネの目の前でがっくりと肩を落としている青藍が居た。
「青藍。残念だ。。。結局分からず終いだったな。せめて
「ああ。。。だけど仕方ねぇ。。。自業自得だ。。こいつらのおふくろさんには上手く言っておかなきゃな」
「ウド獄長。。それにエヴァ、リュック、迷惑を掛けました」
クロガネが3人へ頭を下げた。
「何を言っている。お前やここに居る青藍という者にワシらの命が救われた。そして業者の奴らも結果として討伐できた。感謝する。ここに居るお前たちの功績を国王へ報告しようと思う。青藍、お主もだ」
ウドが頭を下げると、それにならい2人も頭を下げた。
「堅苦しいっすよ、ウド獄長!待っている仲間たちの為にも監獄へ早く帰りましょうよ」
リュックが場を和ませようと強がって言った。
「そうだな」
「おーい!」
声が聞こえた方を見ると先行隊で生き残った数人の看守たちがアドルフに連れられて闘技場に入ってきた。
お互いに再会を喜び場が和んだ所で、手分けして亡くなった仲間たちの遺留品を馬車に積込んだ。
同じ釜の飯を食べた仲間達の遺留品を積込むのは心が張り裂けそうになった。
帰り支度の準備を終え出発しようとした時だった。
一羽の伝言鳩がウドの元へ飛んできて囁ささいた。
‟脱獄” “脱獄” ‟数万の囚人が一斉に脱獄”
伝言鳩の一報を聞いて皆が耳を疑った。
「数万人が脱獄だと? そんな事はありえん! カールは何をしているんだ!」
ウドは伝言鳩にカールに更なる状況報告をするように伝えようとするが拒否され飛び去ってしまった。
拒否だと?
通常、伝言鳩は伝え側と受け側の間を行き来する。しかし、受け側の連絡を一方的に拒否されるのはありえなかった。
廃都セヌアには先行隊の馬車が何台か放置されていた。
馬車を使ってベルヴァルト監獄へ向かっても4~5日は掛かる。今から向かっても全然間に合わない状況だった。
カールはどうしたんだ?
監獄にいる看守はどうなった?
どうやって数万人の囚人が一斉に脱獄できたんだ?
考えたら切りがない程の疑問が皆の頭によぎった。
あり得ない事を伝言鳩から連絡を受け、皆がお互いの顔を見てどの様に動けば良いか躊躇ちゅうちょしていた。
「とにかく馬車にのってベルヴァルト監獄へ戻ろう。アドルフが言うには森を迂回うかいして行った方が安全で早く着くらしい。馬車に乗りながらでもここに居る皆の回復、休息が必要だ」
ウドが方向性を示し、皆が同意した。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
《私達魔族は迫害を受けてきた、貴方もそうでしょ?》
魔族を差別しない人たちもいる
《じゃあどうして貴方の妻を殺した人間は咎とがめないの?》
それは国の法に従って出た判決だ
《じゃあ許せるの?貴方の妻を殺した人間を?》
・・・・・あいつの手足は切り落としてやった。罰は受けている
《違うわ、貴方だけの問題じゃない。同じよう様な人達が今も苦しんでいるの。それもすべてこの国のせいだと思わない?》
・・・私にはどうする事も出来ない
《出来るわよ、貴方の立場なら》
・・・・・
《今こそ真っ当な国に正すべきよ》
・・・・どうやって?
《ここの囚人を使って壁の内側へ誘導するのよ》
馬鹿馬鹿しい
《どうしてそう思うの?》
壁の内側は厳重な警備の為に門は開けられないし、軍隊も控えているから直ぐに制圧されるさ
《監獄にどれだけの囚人が居ると思っているの?》
数万人だ
《お馬鹿さんのお陰で犯罪を犯した者がどんどんこの国へ入ってきている。囚人と合わせるとその1.5倍はお尋ね者がいる計算》
まさかお前!ウド獄長がいる限り監獄は厳重な管理をされている。脱獄なんてあり得ない
《あの人は必ず監獄ここを離れる事になる。管理責任者の権限が貴方へ移行したタイミングで全ての牢ろうを開けるだけ。。壁の内側の門はそのタイミングで開けておくわ》
お前に何の得があるんだ?
《何を言っているの?損得の問題じゃない。》
じゃあ何が目的だ?
《全ては大・義・の・為・》
馬鹿馬鹿しい。私が牢を開けるわけ無いだろう?
《いいえ、貴方は必ず開ける事になる。。。。必ず》
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廃都セヌアから一行が出発して4日が経っていた。
「ねぇ、クロガネ。青藍とはどうやって出会ったの?」
馬車の中でエヴァが興味ありげに聞く。
「最初は壁の外のどっかで会って荷物を全部捕られたんだ」
「えっそうなの?」
「セヌアへ向かう途中の森で青藍を見つけた。で、盗られた荷物を取り返そうと青藍を襲ったら返り討ちにあって仲良くなったかな」
「何それ。。。。まぁいいわ。監獄では足手まといにならないでよ!セヌア討伐の時と同じ様に自信が無くなって帰っちゃうのはね?」
エヴァが冷ややかな目でクロガネを見た。
「大丈夫。もうそれは無いと思う」
クロガネがエヴァを真っ直ぐ見つめて答えた。
「。。。ふん!なら良いけど」
「あれ?顔が赤くなってないか?」
リュックがエヴァを茶化した。
「な。。何を言ってるのよ!赤くなってなんかないわよ!」
「まぁいいや。クロガネ、俺は森でモンスターを30匹倒したんだぞ?凄いだろ?」
「私は35匹」
リュックとエヴァが競うようにクロガネへ自慢し始めた。
「お前は青藍に助けてもらいながら森を抜けたのか?」
「そうだな。青藍の背中に乗って森を越えたから助けて貰ったようなもんだよ」
「クロガネはもっと実践を積んだ方がいいぜ。そうしないと俺達みたいにレベルが上がっていかないぜ」
「そう言われたら以前に比べてお前とエヴァのレベルが上がってましになったような気がする。参考にさせて貰うよ」
「なに、その上から目線。。。」
エヴァがクロガネへ冷たい視線を送る。
リュックはそのやり取りを見てキョトンとしていた。
「それより、ウド獄長の体調は大丈夫かな?回復薬を飲んだとは言えずっと眠ったままだ」
クロガネはもう一台の馬車に乗っているウドの事が気になった。
廃都セヌアを出発してからウドは1回も馬車から降りてない。回復薬を飲んでずっと眠ったままだった。
「回復薬では治らないかもしれない。やっぱり医者に診てもらわないと」
雑談をしていると馬車の外から青藍の声がした。
「クロガネ!前方に野党らしき輩が10人位居る。囚人服を着ているから脱走した一部の奴らだろう。どうする?」
青藍は人間の匂いが付くのが嫌で馬車に乗らずに歩いていた。そもそも身体が大きすぎて馬車に乗らないんだが。
「よっしゃ、身体が鈍なまってたから俺が蹴散らしてきてやるよ」
リュックが拳を合わせながら出ていった。
「じゃあ俺も行こうかな」
「クロガネは危ないからここで隠れていて!」
そう言うとエヴァも馬車の外へ出ていった。
「。。。。。。」
そのやり取りを見て青藍が笑う。
「ぐわっはっはっは、全く信用されてないんだな」
「うるさい」
クロガネは広くなった馬車の中で寝転がった。
「ぎゃー!」
「ぐぇ!」
「ひぎー!」
聞きなれない声が聞こえる。脱走した囚人逹の声だろう。
暫くすると叫び声が止んだ。
どうやら終ったようだ。
監獄まで後、1日は掛かるであろう距離で脱走した輩と遭遇した。
これから近付づくにつれてこういう事が頻繁に起きるだろう。
人数が増えてくると厄介だ。
なるべく戦いを避けながら一行は監獄まで進んだ。
。。。
「監獄が見えたぞ!」
アドルフが叫んだ。
皆が一斉に遠目に見える監獄に注目した。
あちこちに煙が上がっている。
一行が監獄に近づくにつれ脱獄が本当にあった事を確認する。
眠っているウドの護衛としてクロガネと青藍を馬車に待機させて、それ以外の一行いっこうで探索をすることにした。
「何て事だ。。。。ここにいた者逹はどうしたんだ?」
脱走した囚人に気を付けながら仲間を探す。
「ひどい。。。。」
エヴァが思わず呟く。
監獄の正門は破壊され、無惨な形になっていた。
辺りを見る限りは
牢を見ると破壊された形跡は無い。開けられたといった感じだった。
囚人はどこに消えたのか?
看守は?
責任者のカールは何処へ?
一行は不安にかられながら探索を続けた。
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