第29話 / 討伐⑦

2体の獣がいっせいに三人へ飛び掛かった。


1体はリュックへ鋭い爪で攻撃をする。


エヴァは自分の身を守る事で精一杯だった為助ける事は出来ない。


下を向いているリュックは大声を出した。


「ちくしょーーーーーー!やってやるよ!!」


リュックは獣の爪の一撃を両手の鉤爪かぎつめで受け止める。


「うぉぉぉーーー!!」


ドカッ


ドカッ


ドカッ




リュックは獣の腹をおもいっきり蹴る。蹴る。蹴る。


獣が怯んだ所を今度は鉤爪で攻撃をしようとした。


「深追いするな!」


ウドの声が聞こえ、リュックは後ろにステップして間合いを取った。


次の瞬間、さっきまでリュックが立っていた地面が大きく裂けた。


それは、獣がリュックを狙った一撃だった。


もし、深追いして攻撃を仕掛けていたらリュックの身体は間違いなく地面と同じように裂けていただろう。


「あぶねぇ。。」


リュックが思わず呟く。森の中で倒したモンスターとは比べ物にならないくらい強い相手だと言うことをあらためて認識する。


もう1体の獣はエヴァを狙って攻撃していた。


エヴァはフットワークの軽さを活かして上手く攻撃をかわして間合いを取っている。


ドンッ!


大きな爆発音がした。


見るとウドが全身に黄色のオーラを纏まとっている。


2体の獣は本能で1番最初に倒さなければいけない相手と判断した。


エヴァとリュックを無視してウドを標的対象にしたらしい。


2体がじりじりとウドへ近付き、同時にウドへ飛び掛かった。


ガシッ


2体の爪がウドを襲うが、ウドがそれぞれの腕を掴み止める。


そして獣の腕を掴んだまま地面へ叩きつけた。


間髪居れずに黄色いオーラを纏まとった拳を地面へ叩きつけた。


「GRAND IMPACT!」


ドゥーン!!!!!


大きな衝撃で2体の獣もろとも地面が大きく陥没した。


「凄ぇ。。。。さすがっす!ウド獄長!」

ウドの見事な攻撃にリュックが感嘆かんたんした。


しかし、陥没した地面の底から地鳴りが出ると同時に2体の獣が飛び出してきた。


グルルルルルル


ある程度のダメージを負っているようだが気にせず再び攻撃体制に入った。


思ったより堅い...いや...ワシの背中のダメージのせいか...


それでも、ワシの敵ではないがな...


「ウド将軍!これを見たまえ!」

ニコルの声が聞こえる。


?!


VIP席を見るとアドルフがニコルの横に立っている。ニコルの部下がアドルフの首元に剣を突きつけている。


「ウド将軍、やっぱりあんたは化け者だ。ルール変更だ。あんたは手を出すな。手を出したらこいつの命は無いと思え」


「卑怯な...」


「我々は戦士じゃないんだよ。勝つためなら何でもする。勝てば良いんだよ勝てば」


「ウド獄長ーーー!私の事は気にせずこいつらの討伐をお願いします!」


ゴッ!


「君は黙っていてね!」

ニコルがアドルフを殴り付けた。


「良いだろう...ワシは手を出さない」


再び2体の獣がウドを襲う。


ドカッ


ドカッ


ウドは2体の攻撃を避け、強烈な蹴けりを浴びせた。


強烈な蹴りを食らった2体は闘技場の端まで吹っ飛んでいった。


「ウドーー!てめぇ!手を出さねーって言ってたじゃないか!」

ニコルが激怒してウドへ叫ぶ。


「手・は・出・し・て・な・い・ぞ・。脚を出しただけだ」


ニコルは口をあんぐりした後、


「ふ。。ふふふ。。。確かにな。私の言い方が悪かったようだ。。。いいか?もう一度言うぞ?お前はあらゆる攻撃をするな。それとな身を守るのも避けるの禁止だ。これを破ったら問答無用でこいつの命が無くなると思え!」


ウドは無言で頷く。


「そんな無茶な...」


「ふざけるな!大人しく殺されろって事か?」

エヴァとリュックが口々に反発する。


吹っ飛んでいった2体の獣が起き上がった。


やはりダメージはそれほど受けていない。2体は思うようにならず一方的に攻撃された為、怒り狂っていた。


こんな状態の獣を相手に、攻撃も防御も禁止されていては死ねという事と等しかった。


だがウドはルールを守らないわけにはいかなかった。アドルフの命が掛かっている。


あの2体を倒すにはエヴァとリュックの協力が必要。しかし、今の2人のレベルでは倒せない。


どうするべきか...


そうこうしている内に2体の獣がウドへ襲い掛かる。


ウドはそのまま立ち尽くし2体の爪や牙きばの餌食になった。


ズシャ! ズシャ! ズシャ! ズシャ! ズシャ!


途切れる事無く狂ったようにウドを攻撃する2体の獣。


ウドの足元にはおびただしい血の量が流れている。


「もう止めてください!!どうか反撃してください!!」


アドルフが叫ぶ。


「エヴァ。。。ウドの親父は自分の身だけを守れと言ったけどよ。。。俺達で協力して何とかするしかねぇぞ。。。」


「分かってる。。このままではウド獄長が嬲殺なぶりごろしにされる。。そして次は私達。。。試した事ないけど停滞魔法を使ってみるわ」


エヴァが詠唱えいしょうを唱えた。


「RESTRICT!!」


2体へ魔法を放つと2体の動きが完全では無いが止まった。


「やった!成功したわ!リュック!ウド獄長を闘技場の端まで連れて行って!長くはもたないわ」


「わかった!!」


リュックは全速力でウドの元まで向かい傷だらけになった大きな身体を抱えると闘技場の端まで連れて行った。


「リュック!もう少し。。。もう少しだけ。。止めれる。。あんたの鉤爪かぎつめで何とか。。。して!!」


エヴァが両手で持った杖を2体の獣に向けたまま叫ぶ。慣れない魔法の為かなり身体に負担がかかっているようだった。


「任せろ!!」


リュックは2体の獣へ突進して鉤爪で1体を切り裂いた。。。。


ガキッ!!


しかし、獣の身体が硬く右手の鉤爪が折れてしまった。


「チクショウ!!バケモンかこいつら!」


続いて左手の鉤爪で攻撃をするが同じように折れてしまった。


「もう。。。。駄目。。。これ以上止められない。。リュック!逃げて!!」


「おう!!」


リュックが2体の獣との距離を空けるためにバックステップで間合いを取る


2体の獣は停滞魔法が解かれた瞬間にリュックでは無くエヴァを標的にした。


無理をして停滞魔法を使ったエヴァに回避出来る力は残ってなかった。


「エヴァ!」


鋭い爪がエヴァを襲うが、寸での所でリュックがエヴァを突き飛ばして回避できた。


しかし、その変わりにリュックの足が切り裂かれてしまった。


「リュック!」


「俺に構うな!自分の身を守れ!」

リュックはなおも襲ってくる獣に馬乗りにされながら叫んだ。


「駄目。。。もう動けない。。。」


もう1体の獣が動けなくなったエヴァに飛び掛かり鋭い爪で襲った。


エヴァは目を閉じて死ぬのを覚悟した。


ズガンッ!!!


あれ?。。。。痛くない。。。


エヴァはゆっくりと目を開けた。。


目の前に青い鬣たてがみの獣が襲ってきた獣を地面へ殴りつけていた。


大きい。。。さっきの獣より更に1回り身体が大きかった。


リュックを襲っていたもう1体の獣も青い鬣の獣へ襲うが同じように殴りつけられて動かなくなった。


「仲間割れ?どうして獣同士で。。。。」


「嬢ちゃん、頼むから切りつけないでくれよ。俺はお前さん達の味方だ。それに獣じゃねぇ。。獣・人・だ!」


青い鬣の獣が背を向けたまま言う。


「どうして。。。」


エヴァが座り込んだまま青い鬣の獣言う。


「お前さん、クロガネの仲間だろ?あいつと一緒に来た」


「クロガネ?クロガネが一緒に来ているの?こんな所へ来たら危ないわ。殺されてしまう!!」


「嬢ちゃん、安心しな。この辺りの奴らは全員倒した。それにクロガネが殺されるだって?ぐわっはっはっは!それは逆だろう?殺されるのは業者の奴らさ」


ギャー――――!!


叫び声が聞こえると、ニコルと部下が闘技場の中へ吹っ飛んできた。


VIP席を見るとアドルフが立っていた。


いや、横に1人の男がアドルフを支えていた。


「クロガネか?。。。。クロガネーーーー!!」

エヴァとリュックが呼びかける。


クロガネが手を挙げて応える。


「青藍せいらん!お前の2・人・の仲間は任せたぞ。俺はこいつを捕らえて終わりにさせる」


クロガネはVIP席から闘技場に倒れこんでいるニコルを剣で指した

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