第22話 / 監視レベル5の来訪者と新入りの看守 ④
「クロガネも知ってる通り私は明後日、監獄ここを出る予定なの。監長あのひとたちが毎日私の部屋に来るのは斡旋業者の居場所を知りたいから。そのかわり私が探している人が監獄に居ないか調査するという取引をしたの」
「で、あんたの探している人は居たのか?」
「クロガネ、残念だけど...99%居ない事が確定したの...この国で蝕が起きたって情報があったから飛んで来たんだけど今回も空振りね。この国の触は恐らく貴方が起こしたもの。貴方を見た時、もしかしてと思ったけどステータスを見て別人だと直ぐに分かったしその人なら私の顔を見れば分かるはず。それに性格が...」
「あんたのお目当ての人じゃなくて悪かったな。ところで触って言うのは何なんだ?」
「あっちの世界から人間がこの世界へ来ると必ず蝕が起こる。蝕と言うのは何て言ったら良いのかしら...大きい嵐と空間の歪みが同時に生じる感じ。この5年間、触が出たと仲間から情報が合ったら何処の国だろうと駆けつけるんだけど全部空振り...でも私は諦めない、だってあの人は必ず戻ってる来るって言ったんだから...」
「あんたにとってその人は大事な人なんだな。今のあんたの言葉に偽りが無かったように思う。1つ聞いていいか?最近違う国で蝕が起きたという情報は無いか?」
「ありがとうクロガネ。その声でお願いされると断りたくても断れないじゃない、だから特別に教えてあげる。他の国で蝕が起きたという情報は聞いてないわ。クロガネの他にもいるの? まぁ良いわ。無駄話しちゃったわね、本題に入るわ。私が監獄ここを出るとあなたの任務はとかれるでしょう?その時に斡旋業者討伐チームに参加するの」
「なるほど...だけど、新入りの俺が討伐チームへ参加しようとしても実績が無いんだから却下されるんじゃないかな。只でさえ人員不足なんだから死ぬと分かっている人間を出すとは思えないな。壁の外側の無法地帯は何とかしたい気持ちは勿論あるけど」
「確かにクロガネには実績が無いわね。無いならつくるってのはどう?」
「どうやって?しまった、長く話しすぎたな、職務に戻らせて貰う」
クロガネは部屋を出ていき眉間の間に集中しながら筋トレを始める。
ザッ ザッ ザッ ザッ
どれくらいの時間が経っただろうか。廊下の奥から引き摺るような異様な音が近づいできた。灯りが乏しい為、目を凝らして見ても分からない。
ザッ ザッ ザッ ザッ
更に近づいてきて正体が判明した。
看守のデーボだった。
「デーボさんどうしたんですか?交替には未だ早い時間だと思いますよ?」
「...交替の時間だ」
目の焦点が合ってない...おかしい。
「いや、まだ早」
ゴキッ!!
突然、デーボの右ストレートがクロガネの顔面に飛んできた。
とっさに顔を避けることが出来た為、デーボの拳は壁に辺り骨が砕ける音がした。
「何をするんだ!!」
身の危険を感じとっさにデーボへタックルをして転倒させる。
暴力は大嫌いだが仕方ない。看守という職業なら仕方がないだろう。
デーボを押さえつけた...つもりでいた。
ドンッ
クロガネの身体が吹っ飛び、3メートルもある天井に激突して落下した。
ぐっ...気力で何とか起き上がりデーボの顔を見る。
焦点の会ってない目でこちらを見てゆっくりと右手がクロガネの首を絞めようと伸びてきた。
首を絞められないように全力でその手を握り返し、デーボの鳩尾へ膝蹴りをしてデーボから離れる。
痛みを感じてないのかデーボは立ち上がり今度は腰に差した剣を引き抜いて近づいてきた。
(洗脳されている?まさか...あの女の仕業か?)
「クロガネ。この状況何とかしてみなさい。このまま切り刻まれてもいいの?これ位対処出来ないと斡旋業者何てとても捕らえられないわよ!」
部屋の中から彼女の声が聞こえた。
剣術何て習ったことないぞ...
どうやって攻略するか...
クロガネもとりあえず剣を抜く。ずっしりと剣の重さが両腕に乗っかる。
命のやり取り...侍はこんな感じだったのだろうか?
何て考えている余裕は無いか。
デーボがクロガネの脳天目掛けて剣を振り下ろす。
クロガネはその剣を咄嗟に剣で弾く。
(思ったより身体が動ける...筋トレのおかげか?確かデーボは看守の中で一番の怪力だったはず。新入り歓迎の腕相撲で一瞬で負けたことを覚えている)
深呼吸をして意識を集中するとデーボの身体を纏うまと赤色のオーラが見え、赤いオーラが壁を透き通り客室の中へと繋がっていた。
この赤色のオーラが悪さをしていると判断したクロガネは剣でそのオーラを絶ち切った。
その瞬間、デーボの身体が崩れ落ちた。
部屋の中から声が聞こえる。
「驚いた...
この後処理として、デーボは酔っぱらってあばれら為取押さえたとアドルフ隊長へ報告して事なきを得た。
普段の行いが良かったのかすんなりと信用してくれたみたいだった。
また、デーボを取り押さえたとしてアドルフ隊長から感謝されることになる。
7日目の最終日、彼女が部屋から出てきた。
「今迄有り難う。クロガネとの時間とても楽しかった...違う意味で出会えたら私達とても仲良しになっていたと思う」
「そうかもな...あんたのおかげで色々教わることが出来た。ありがとう」
「あら、クロガネ?どういう風の吹き回し?」
アドルフ隊長とクロガネが彼女を連れてウド獄長のいる部屋をノックした。
「失礼します、アドルフです。女を連れてきました」
暫くするとウドの低い声が部屋の中から聞こえた。
「入れ」
部屋に入ると椅子に深く座ったウドと横に立っているカールがいつものように居た。
「どうだったかね、ここの居心地は?」
ウドが彼女へ喋る。
「ええ、とても居心地が良かったわ。お世話してくれたクロガネには感謝の言葉しかない」
「そうか...で、例の約束は?」
「今から教えてあげる。斡旋業者やつらの居場所はこの国と隣国のグラトーレ共和国の国境付近の廃都セヌアを拠点としているわ。人数は50位の集団で監視レベルは2位かしら」
「廃都セヌアか...確かにあそこは誰も足を踏み入れない場所だな。そもそも行くまでが大変だ。で、ボスは誰だ?」
「確かニコラだったかしら。腕っぷしは無い小物だけど狡猾な男。ゴロツキを雇って斡旋の仕事をしていると聞いたわ。でも油断しない方が良いわね、大金でボディーガードをたくさん雇ってるみたいよ」
「その情報は何処で手に入れた?」
「...答える必要無いでしょ?貴方逹が知りたいのは斡旋業者の居場所でしょ?」
「確かにそうだな、野暮なことを言った。カール、至急斡旋業者討伐チームを編成して直ちに廃都セヌアへ迎え」
「承知しました。アドルフ、お前が指揮をして直ちに迎え。クロガネ、お前は彼女を監獄の外迄見送りなさい」
「御意」
アドルフは看守室へ戻って行った。
「承知しました」
クロガネは彼女を連れて出ていこうとした時、ウドが後ろから声を掛けた。
「しかし、まだ生き残りが居たとわな...」
クロガネが後ろを振り返るがどうやらウドは彼女に言っているようだった。
「...」
「お前さんを調べさせて貰ったよ。監視レベル5の重罪者なのになかなか情報が出てこなくて苦労したぞ。受け取った情報を見て気が変わってしまってな。どうやらワシの血縁がお前らの大義の為に殺されてた事が分かったんだ。憶えているか?グラトーレ共和国左軍隊長マウロの事を?」
「何が言いたいの?」
クロガネの目に彼女のとてつもない赤色のオーラが出てきたのが見えた。
「テロリストのくせにこのまま只で帰れると思うか?いやこう言った方が良いか、赤の軍団シャーロットよ」
二人の間にとてつもないオーラとオーラが激しくぶつかるのが見える。
赤の軍団?何だこれは?レベルが違う...
なまじっか訓練をしたクロガネだからこそ感じるレベルの差に唖然としていた。
ウドが立ち上がり詰め寄る。シャーロットも逃げずにウド獄長へ正面から向き直し対峙する。
「マウロ...憶えているわ。あいつは最低なやつだった。裏で女、子供の人身売買の斡旋をして小銭を稼いでいたのよ。あいつと血縁者?ならあんたも裏で何かしてるかも知れないわね。ここで人生終わらしてあげましょうか?」
戦闘は避けられない状態まで来ていた。
後はどちらが先に手を出すかだけだった。
すると一匹の鳥のような生き物が開いている窓から入ってきてシャーロットの肩に止まった。
シャーロットの耳元で何か囁いているように見えた。
「そう...エジンレ神聖帝国で触が起こったのね。早く行かないと」
シャーロットのオーラが消えた。
「やーめた。只の殺し合いなんて大義に反するから」
シャーロットはクロガネの肩を触ると2人が獄長室から一瞬で消え失せた。
クロガネが気付くと監獄の門の前にシャーロットと立っていた。
「クロガネ、今までありがとう♥️」
突然シャーロットがクロガネの頬にキスをした。
「なっ」
咄嗟にクロガネが顔を背ける。
「暗示完了。ごめんねー、暗示を掛けさせてもらったわ」
「くそ! シャーロット、一体どんな暗示を掛けたんだ?」
クロガネが手で頬を一生懸命に拭く。
「無駄よ。よーく思い出してみて。私は貴方と喋るときに必ず“クロガネ”と名前を含めていた。それが暗示への誘導。そしてキスをする事で発動する。でもどんな暗示かは教えない。教えてしまったらせっかく貴方にとってプラスになる暗示が解けてしまうから」
「ふざけるな!余計なお世話だ!今すぐこの暗示を解いてくれ!」
クロガネがシャーロットの手を掴もうとするが寸での所で躱かわされる。
「暗示を解いて欲しかったらもっともっともっと強くなってから素顔のままで私の所に来て。私が貴方を認めてあげれば解いてあげる。でも無理だと思うけど。だって私が認めたのはただ1人あの人だけ...斡旋業者の討伐頑張ってね♥️」
そう言い残すとシャーロットは目の前から姿を消してしまった。
唖然として残されたクロガネ1人監獄の門の前で立ち尽くしていた
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