第23話 / 討伐

討伐隊200名が選抜され,廃都セヌアへ向かって1週間経ったが討伐隊から何も連絡が来ない。


この世界では遠方への連絡手段として伝言鳩が使用される。伝言鳩は短い言葉なら記憶し、言葉として相手へ伝えることが出来る。勿論、伝書としても活用することも可能だ。


その連絡が来ない。


問題無ければ討伐完了として連絡が来てもおかしくない。


カールはウドのイライラを常に感じ取っていたため、早く連絡が来ないかとヤキモキし、下の者へ進捗はどうなったか1時間毎に聞いていた。


そして、1人の帰還者により場の空気が一変する。


1人の看守が部屋へ駆け込んできた。


「ウド獄長!カール監長!討伐隊の1人が帰還しました。怪我を負っています!」


「何?とにかくここに連れてくるんだ!」

カールが看守へ命令する。


連れてこられた帰還者は立ち上がれない状態で抱えられて入ってきた。


「直ぐに治療してやるから所属と何があったか簡潔に述べよ」

ウドが看守へ直接問いかける。


珍しい事だった。下の者へはカールを経由して話すのがこの監獄のルールだった。


「北部エリア監獄担当のマリオです...私以外の討伐に向かった隊員ほぼ...全滅したと思われます...私はこの事を伝え...援軍の要請をしてくれと言われ...帰ってきました」


「何?アドルフからそのような伝言を受け取ったんだな?」

カールが直ぐに反応する。


「はい...アドルフさんからそう言われました。至急援軍をお願いします!」


「業者はそこまで強いボディーガードを雇っているのか?」


「はい...予想外でした。セヌアへ到着するまでに1/3が死にました。人が踏み入れない地域の為にモンスターで溢れていて...セヌアへ到着し業者を見つけ出して戦闘になりました。最初は善戦していましたが状況が一変しました。あの2体の獣に...殆どの仲間が殺されました...お願いです!仲間を助けて下さい!」


マリオは血まみれになりながらウドの元へ歩みより頭を床に付けた。


「もう良い...治療してやれ」

ウドがカールへ命令する。


予想外の出来事にどうするかウドとカールは考えていた。

さすがにこれだけの人数を失った事はタギアタニア王へ報告する必要がある。


そうなると、当然責任問題が出てくる。


「カールよ。この案件もう引けなくなったな。失った隊員の亡骸、遺留品を残された家族の為に持ち帰る必要がある。直ちに援軍を編成しろ」


「しかし、ウド獄長!精鋭200名を壊滅させる奴らです。援軍と言われても無理だと思います。内側にいる軍に協力を要請しましょう!」


カールがウドへ懇願する。


「無理だ...良く知ってるだろう?は壁の外側がどうなろうが知ったこっちゃない事を」


ウドが冷酷に言い放つ。


「わかりました...直ちに援軍の編成いたします」


観念したのかカール自ら部屋を出て援軍の招集に向かった。


ベルヴァルト監獄にはおよそ600名の看守がいる。

これに対し囚人は数万人収容されている。


看守の3分の1が今回の討伐計画で失われたことになる。


当然、選抜隊200名は残り400名の者達より優れているという事で選ばれていた。


200名を同時に失った情報は看守達の中でも噂になり召集された看守逹ほ誰も援軍として手を挙げる者はいなかった。


「カール監長!私たちに死ねってことですか?」


「私には生まれたばかりの子供がいます。その子を残してなんて...」


「私達より優秀な第1陣の人達が殺されているのに行けると思いますか?」


場内に集められた看守たちの口からそれぞれ不安や恐れが飛び交った。


さすがにこれ以上、カールも指示を出す事が出来なかった。それは看守を選抜隊として援軍に出すと監獄の警備が手薄になり囚人の管理が出来ないことが明白だったためだった。


しかし、1名の参加により流れが変わる。

ウドが参加してきたのだ。


開口一番


「責任は全てワシが持つ。援軍としてワシが直接廃都セヌアへ向かう事にした。5名でいい...参加する者は居ないか?無くなった隊員の家族の為に遺留品だけでも持ち帰ってやりたい。勿論、ワシが業者の奴らを全て叩き潰す!」


カールは胸が高鳴った。


ウドがかつて右軍将軍時に見せていた覇気を目の当たりしたからだった。


カールがウドを慕う理由、それはウドの右軍将軍解任の理由に繋がる。


公にはウドが不祥事を起こし、本来なら国外追放または牢獄に入るところを王の温情として壁の外側へ出された事になっている。


しかし、本当の理由は違う。


ウドは部下の種族に拘こだわらなかった。才能があり功績を残した者にはどんどん位を与えていた。その為、他の将軍や王家の者逹から煙たがれていた。


そして1年前に事件が起こった。


ウドの右腕とも言われた部下が王家の人間の両腕と両足を切り落としたのだった。


理由はこうだった。部下の妻を強引に自分の妻にしようとしたからだった。


当然、部下の妻は拒否したがその男の逆鱗に触れ殺されてしまったのだった。


壁の内側で起きた事件の為、直ぐに裁判になった。


加害者である王家の男は無罪を主張。


誘ってきたのはあの女の方だ、俺の財産目当てでしつこく揉み合いの末の事故だと主張。


部下は証拠を提示して反論。加害者の男の主張が全て嘘だと言うことは明らかだった。


しかし、判決は男の主張が全面的に認められ無罪となった。


理由は簡単だった。加害者はで被害者はだったこと。


判決から1週間後,部下は無罪になった男の両腕、両足を切り落としたのだった。


直ぐに部下は捕まり裁判により死刑判決を受ける。それも即日執行という異例の早さで...


ウドは部下の為にあらゆる手段で死刑を回避しようとしたが無駄だった。


この国の為に命を掛けてきた未来ある優秀な部下が失われようとしている。


このまま指を咥えたままでいいのか...


死刑執行は王の号令で執行する。


執行直前、ウドは王へ直談判した。部下の監督責任は自分にある。今、抱えている壁の外側の大きな問題を一生を掛けて部下と解決に向けて尽力する...と。


王はウドの提案を受け入れた。そのまま公表すると王家や大臣の反発がある為、”ウドは部下に加担していた”という事にし、連帯責任として壁の外側の問題を一生を掛けて解決していくという事にした。


そしてウドとは罪を償う形として ベルヴァルト監獄へ来ることになったのだった。


「ウド獄長!私も行きます!」

カールが手を挙げる。


「駄目だ。監獄を管理出来る者が居なくなる。他に誰か一緒に行ってくれる者は居ないか?」


ウドが招集された看守達へ投げ掛ける。


「行かせてください」

手を挙げた者がいる。それはクロガネだった。


「クロガネか...死ぬかも知れないぞ?」


「私は元々第一陣の参加に手を挙げていました。しかし、経験不足という事でアドルフさんからNGを出されました。もしかしたら彼は悪い予感がしていたのかも知れません。それに...上の人間自ら先陣を切って問題解決をしようとしている行動に心震えました」


「...他に居ないか?」


静まりかえった中、2人が手を挙げた。


1人はリュック。ハチャメチャな性格でよく囚人と喧嘩をして問題を起こしている男だった。


そしてもう1人はエヴァ。女性初の看守に登用され、男にも引けを取らない能力を持っており一目置かれている存在だった。


エヴァが悔しそうにウドに言う。


「エヴァと申します。私も斡旋業者討伐に手を挙げておりました。しかし、選ばれませんでした。私の実績だったら問題なかったはず。私が女だからという理由で落とされたんだと思います。」


「なるほどな...お前はどうして手を挙げた」

ウドがリュックに質問する。


「リュックっす。どうしてって言われても誰も手を挙げないからっすかね。それに元右軍将軍様の戦い方をこの目で見られるなら一緒に行きたいっす。それに、第1陣に選ばれなかったこいつらが何人行った所で死体の山が増えるだけっすからね」


「お前だってそうじゃないか!なめた口聞くんじゃないリュック!本当に回りと合わせない奴だな!」


他の看守たちにたしなめられる。


「いいだろう。クロガネ、リュック、エヴァ。同行を認める。出発は明朝。各自準備を抜かりなく整えておけ。以上!」


援軍として、ウド、クロガネ、リュック、エヴァのたった4名で向かう事になった。

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