第21話 / 監視レベル5の来訪者と新入りの看守 ③
壁1枚隔てた2人の会話が静かな廊下に反響する。
ただし、1等室に滞在する客人に配慮してかこの部屋は他の部屋と隣接せず孤立している為,話を盗み聞きする者は誰も居なかった。
「あっちの世界から来たって事は少なからず不満があったからでしょ?この世界で大成したい!ってクロガネが強く思ったからじゃないかしら?」
「...申し訳ないが、あっちの世界から来たという前提での話は止めて頂きたい」
「クロガネからやっとまともに喋ってくれた♡じゃあ勝手に話すわね。私は犯罪者を手引している斡旋業者の居所を知っている」
「...」
「続けさせて貰うわね。その斡旋業者の居所を知りたくない?捕まえてあの獄長さんへ引き渡せばクロガネの出世は間違いないわ。もしかしたら国王から勲章貰って壁の内側に住める権利が貰えるかも知れないわよ?」
「悪いけどタメ口で話させてもらう。何が目的だ?」
クロガネから鋭い質問が壁の向こうへ投げかける。
「ゾクゾクする♡目的は無いわ...って言うと嘘になるかも。ただ、クロガネの声があの人と凄く似ていて他人と思えないの。むしろもっともっとクロガネの声が聞きたいと思った。それに貴方は悪い人に見えないけど出世しないタイプに見えたから...勿体なく感じたの」
「出世しないタイプに見えたか...他人に言われると結構傷つくな...残念だけど、奴らの居場所を知っても捕まえる武術も無ければ土地勘も無いんだ。だからあんたの目論見に引っ掛かってやる事も出来ない」
「目論見って...言い方に棘があるわね。確かにクロガネのステータスだと1人で斡旋業者を捕まえる事は無理なのは百も承知よ。だから仲間と協力して斡旋業者を捕らえる必要があるわね」
(仲間と協力して捕らえるか...)
「さっきから‟ステータス”って言葉があるけどどういう意味なんだ?」
「ステータスは簡単に言うと能力値。レベル、体力、知力、腕力、運、マジック、カリスマ等細かくあるわ。クロガネの全体値はレベル1。この世界だと子供と同レベル。つまり今まで生きてこれたのが奇跡に近い事なの」
「ステータスってのは絶対評価なのか?ゲームみたいにレベル上げ的な事をすれば確実に上がるとか?」
「話に乗って来たわねクロガネ!ゲームが何か分からないけど能力値は絶対評価よ。個人差はあるけど必ずやった分だけ能力値は反映される。そこで簡単だけど効率的なレベル上げを教えてあげる。私は魔法が得意なの。少なくても貴方のレベルだと魔法のエフェクトすら見る事は出来ない。つまり相手の魔法攻撃が見えないから気付かずにそのまま死ぬ事になるから見えるようになる必要があるわね」
「魔法?ファンタジーの世界じゃないか...ってこの世界ならそのままの事か」
「ねえクロガネ、貴方ずっとそこに立ってるんでしょ?立ってるだけのその時間を有効に使ってみない?」
「有効に使う?」
「そう!眉間の真ん中に意識を集中して、眉間に第3の目がある感じでそこから目の前を見ているように意識する。クロガネの中できつく感じたら休憩してもいいわよ。とにかく続ける事」
「分かった...それを続けるとどうなるんだ?」
「魔法のエフェクトが見えるようになる。見ると言っても感じると言った方が近いかも。でもこれが出来ないと相手の攻撃魔法も見えないし魔法も習得出来ないの。つまり入門レベルって事かしら。ただし、これだけは個人差があるので才能が無い人は何年やっても習得できない。クロガネに才能があるかどうかね」
「分かった...ただし、洗脳みたいなものだったら直ぐに止めるからな」
「もう―!善意で教えてあげてるのに!魔法学校でも教えてない効率の良い方法なのよ?授業料が欲しいくらいなのに!あっ、クロガネ!後、腕立て伏せとスクワット、懸垂も少しでも良いからやってくれる?フィジカルの能力値も上げておいた方が良いわ。目標レベルを5迄上げたいわね」
「レベルが上がるってどうやって自己判断出来るんだ?それにそのレベルを5迄上げたら斡旋業者を捕まえる事が出来るのか?」
「レベルが上がると効果音が頭の中で響く。これは皆共通のはずよ。斡旋業者を捕まえれるかって質問なんだけどはっきり言って無理ね...裏家業の輩だからそれなりに強いわよ?監視レベル2位かな?レベルとしては最低でも10以上は必要。どう?少しはやる気になったクロガネ?」
「ああ...立ってるだけなのも勿体ないしな。やらして貰う」
「そうこなくっちゃ!ねぇクロガネ。私のお願いも聞いてくれる?この監獄に収監されているかもしれない人を探しているの?居るのか居ないのか調査して報告して欲しいの?」
「...」
「ねぇ!聞いてるの?クロガネ!」
「あんたがここに来た理由は人探しか...だが断る。監視レベル5の対象者とは取引は一切応じない」
「もうー!!いいわよ!」
この言葉を最後に部屋の中から彼女の声が聞こえる事は無かった。
彼女が監獄ここに来てから6日目となった。
デーボとの交代時間の為、クロガネは宿直室から一等室の部屋へ向かう。
部屋の方から微かに会話が聞こえてきた。
「...居た?」
「いえ...全て確認しましたがそういう名前の者は居ませんでした」
「そうか...もういいよ。クロガネが来る時間だから黙りなさい」
「...はい」
部屋に近づくといつものようにデーボが部屋の前に立っていた。
「デーボさん。交代の時間です」
「...」
デーボは黙って宿直室へ帰って行った。気のせいだろうか?顔に生気が無いように見えた。日に日に酷くなっていないか?
いつもの様に部屋の前に立ち自分に課せた事に集中する。
「クロガネ待ってたわ?今日の配膳の時にどれだけのレベルになったか見せてくれる?」
「...」
「もう...またダンマリ?」
1日1回、カール監長、アドルフ隊長が彼女の部屋に入り何やら話をしている。
アドルフさんからは監視レベル5の重罪者とだけは教えて貰ってるが彼女が何者かはわからない。
監視レベル5か...
夕食の時間になり配膳をするために一等室の部屋へ入る。
いつものように彼女は奥のソファーに座っていた。
と、その時、クロガネの方へ突然何かが飛んできてそれをとっさに避ける。
それは石畳に当たり大きく砕けた。
「何するんだ!」
クロガネが叫ぶ。
「合格よクロガネ」
彼女がポンポンと拍手する。
「合格ってどういう事だ?」
「魔法を避けたじゃない?つまりクロガネは魔法を認識して避けた。だから合格といったの」
「ふざけるな!当たってたら死んでたぞ?」
クロガネは文句を言った時に彼女の目を見てしまった。
金縛りのように身体が突然動かなくなった。
「ううん。。今のクロガネなら避けれらると思ってた」
「くそ...身体が...動かない...」
クロガネが身体を動かそうとするが指1本動かせなかった。
彼女がゆっくりと立ち上がりクロガネに近づく。
「ごめんね...正直クロガネのステータスを見て驚いた。だってレベルが10迄上がってるんですもの。それに...クロガネの目...あの人の目にそっくり...素顔を見せて」
彼女の手がクロガネのマスクを取ろうと近づく。
「何をしてるんだ!大きな音がしたぞ!」
アドルフ隊長の声が聞こえ、その瞬間身体が自由に動くようになった。
「別に何も...」
彼女は奥のソファーに戻っていった。
「クロガネ?大丈夫か?何だこの地面の穴は?」
「ええ...大丈夫ですよ。ちょっと彼女と話してただけです。経年劣化で穴が空いたみたいですね。さっき確認しました。報告書に上げておきます」
「そうか...って言うかお前...雰囲気が変わったな。それに喋りも流暢になっていないか? まぁ分かった。何かあれば呼んでくれ」
アドルフ隊長は言い残すと部屋から出ていった。
「クロガネ、庇ってくれて有り難う。どういう心境の変化なの?」
彼女が奥のソファーから声を掛ける。
「分からない...とっさにそう言ってしまった」
「そう...それにしても短期間でレベル10まであげるなんて大したものだわ。どうやったの?」
「単純なことだよ。あんたに言われたことを休み無くずっとやってた。物足りなくなって負荷をかけて実行した。与えられた仕事をこなすのは当たり前。指示に対してプラスアルファーの結果が無いとサラリーマンだと評価してくれないからね」
「サラリーマン?ってクロガネ、あなた、本当に休み無くずっとやってたの?」
「嘘ついてもしょうがないだろう?」
彼女の口元が一瞬ニヤリと笑ったように見えた。
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