第13話 / 再開
「前に分厚い手帳を見て私の父の事を調べてくれた事がありましたよね?その中に彼の事は書かれてないんですか?」
エミリが田中へ質問する。
「私もそれを考えました。だが、それを調べてしまうと後戻りが出来なくなるようで怖いんです」
無理もない、今井の手紙を読んでしまった後ではこうなるのは当然の事だった。
「それなら私が見ます。マスターは私に手帳を奪われて強引に見られたと言って下さい」
エミリが手帳へ手を伸ばした。
「止めなさい!」田中が強い口調で言ってエミリの手を掴んだ。
「あなたをこれ以上巻き込む分けにはいきません。全て私・の独断でやったことにしますから先にこれを飲んでください」
ピンクの液体が入ったグラスをエミリに差し出した。
「分かりました」エミリは差し出された液体を一気に飲み干した。
田中は分厚い手帳を広げて5年前の記録を探し始めたが何度も同じページ辺りを見返していた。
「どうしたんですか?」エミリが心配になって聞いた。
「ページが抜き取られている... この手帳も正式な記録簿なんです。改竄かいざん、ましてやページを抜き取ると処罰の対象になります。前任者の秋田さんが抜き取ったのか。。それとも。。考えたくはないが管理協会が抜き取ったのかどちらかでしょう」
「やっぱり彼と関係があるんでしょうか?」
「可能性はあります。ですがこれ以上は残念ながら分かりません。諦めるしかない」
余計な情報が出てこなかった、田中は内心安堵していた。
エミリの状態を見ると大分酔いが回ってきたように見える。
異世界への転送も時間の問題だった。田中はこのまま何事もなく終わるのを願った。
―――――――では渦中の男はというと
テレジアに教えられた場所にたどり着いたがそれらしきBARが無い。
見えるのは大きいビルのみ。念のためビルの中、周辺も探したが看板も無いしそもそもBARが無く途方にくれてしまった。
テレジアのスマホを見ると着信が何件かあったみたいだが気が付かなかった。折り返し電話を架けようにもセキュリティのせいで操作出来ない。
すぐ近くにいるはず、なのにたどり着けない事にイライラしていた。
テレジアからの電話を待つが一向に架かってくる気配は無い。
・・・
時間はあれから一時間近く経っただろうか。
あまりここでウロウロしていると怪しい奴だと思われる可能性がある。
「帰るか...」独り言を呟き帰ろうとしたが、もしかしてまたテレジアがトラブルに巻き込まれていて電話が出来ないのかもしれないと余計な感情がでて思いとどまる。
最後にもう一度だけ周辺にBARがないか探すことにした。
!?
何かが体の中を駆けめぐった。
表現が難しいが寒気のような感覚に近い。
あれは? いままで何で気付かなかったのかこんなところに細い通路がある。その先にはぼんやりと灯りが見えた。
まさかあの先にあるのでは?
駄目元で奥へ進むと地下へ続く階段があった。躊躇したが、降りてみると灯りが点った"BAR【異世界】"の看板を見つけた。
不思議な事に初めて来た感じがしなかった。懐かしいという表現が正しいのかもしれない。
看板の灯りに照らされたドアを見つめ、思いきってドアを開けて中に入った。
「...」
店の中はカウンターに5席の椅子が置いてある。辺りを見回すが誰も居ない。
もちろんテレジアも居なかった。
さすがに時間が掛かりすぎて帰ってしまったか。
それにしてもカウンターの中に並ぶ色んな種類の酒のボトルに興味が湧く。隠れ家的な場所も気に入ったし一杯飲んで帰りたくなった。
「すみませーん」
返答が無い。やはり誰も居ないのか。店主も不用心だな開けっぱなしで。
よく見るとカウンターの上に空のボトルとグラスが置かれたままだった。
仕方ないのでBARを出ようとドアノブに手を掛けた。
ゴトッ
物音がした方へ振り返るが何も見えない。
気味が悪くなり再びドアノブに手を掛ける。
ゴトッ ゴトッ
勘違いではない明らかに何か音が発せられていた。
音の発生源は... カウンターの中からだった。恐る恐るカウンターの中を覗き込んだ。
!?
店のマスターと思わしき者と、それに...テレジアが口にガムテープを貼られ後ろ手に縛られ、隠されるように横たわっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます