第12話 / 今井からの手紙

本阿弥 緋色が電話に出ないため、エミリが店を出ようと入り口に向かうが田中が静止する。


「エミリさん。それ以上の行動は黙認出来ません。残念ですが諦めて下さい。異世界へ持って行くスマホ、あなたの世界で言うクレバーホンは私が支給いたしますので今すぐにでも異世界へ行って下さい。管理協会が難癖をつけてくる前に行った方がいい」


「...わかりました」

諦めたようにエミリは答えた。


「転送方法は他の並行世界へ行く方法と同じですか?」

エミリが田中に聞く。


「いいえ、違います。異世界へ行くにはこのお酒を飲むだけです」


田中が後ろに並んでいるボトルから小さいボトルを1つを取ってカウンターへ置いた。


「合格者が出ると管理協会からこのボトルが送られてきます。合格者1名につき1本と厳正に管理されています。個人差がありますがこれを飲んで暫くすると意識が無くなります。目が覚めた時にはあなたは異世界へ転送されているという流れになります」


「だからBARをやっていても違和感が無い最高の隠し場所になるんですね」


田中がボトルからグラスにピンクの液体を注いでエミリに差し出した。


「そういう事です。さぁエミリさん早く飲んでください」


「マスター、ボトルの底に紙切れがついてます」

エミリがその折られた紙切れを取って広げてみる。


マスター!!


エミリが広げた紙を田中へ見せた。何か字が書いているようだったが酷く乱れており点々と血のような跡がついていた。


エミリが字を見て文脈を見ながら声に出して読む。




田中さん


突然の手紙で申し訳ない。

この手紙に気付いてくれることを願う。


単刀直入に言う。管理協会は‟本阿弥 緋色”を5年前からレベル5の監視レベルに置いてるのがわかりました。


異世界で言うレベル5の監視、つまり異世界でクーデターを目論む者達、異世界の均衡を壊そうとする者達、または王の殺害を企てた重罪者達が対象になります。


なぜ”本阿弥 緋色”がレベル5の監視下に置かれているのか調査しました。


調査を始めて暫くすると同僚から無視されるようになり、上司の命令で調査すら出来なくなり、その後、異動命令が出て背いたのがまずかった。


まさかここまでされるとは...


憶えていますか?田中さんの前任者の事を?


通常、面接官の任期は7年。なのに前任者の秋田さんは任期前の4年で異動になっています。


そして、データベースで彼の実績を調査した所4年目の1年間ごっそり空白になっていました。


また、秋田さんが辞めた同時期に私の前任者も異動になっています。


今書いた事全てが‟5年前”に発生しています。


ここからは私の推測です。いや、恐らく事実にかなり近いのではと思います。


‟本阿弥 緋色”は逆転送者だと思います。異世界でレベル5に値する重罪を起こし、結果、処刑されて逆転送された。


しかし分からないのがなぜここまで管理協会が彼の存在を隠そうとするのか分かりません。逆転送されたら異世界で生活した記憶は全て無くなるため脅威になる存在ではありません。


調査しましたがこれ以上は残念ながら分かりませんでした。


メールだと筒抜けになるので手紙という形にしました。彼の登録番号を検索した時点で既に私は監視対象になっていたのでしょう。


お願いした私が言うのもおかしいですが、田中さんもこれ以上は詮索しない方がいいと思います。


もしかしたらBAR【異世界】も常時監視されているかもしれません。

気を付けてください。


今までお世話になったお礼にプレゼントをに1つ同梱しました。


有効活用して下さい。


今井




「マスター、これって...」


読み終えたエミリがマスターの顔を見る。


「ええ...」


田中から力無い返答が帰って来た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る